暗くなると人通りは一気に減る。そのことが幸いだったと、息をあげたリシャーナは思った。
仮にも伯爵家の子女が、街中をこんなふうに走り抜けるなどあってはならない。普段なら絶対にこんなことはしないが、今はそうもいってられない。
長いスカートを持ち上げて片手でまとめ、リシャーナは走った。
肩で息をしながら辿り着くと、占いのテント前でなにやら言い争うサニーラの姿を見つけた。
「コロンていう十歳の男の子です。ここに来てるはずなんです!」
「あのねえ、お嬢ちゃん。今日はもう店じまいなんだよ」
「本当に子どもを見ていないんですか?」
スカートの裾を簡単に直し、汗を拭いながら近づいていくとそんな会話が届いた。
店の者らしき中年の男はうんざりした様子で髪をかき上げた。
「あのなあ、だから子どもなんて今日は来てないって言ってんだろ」
「でも、ほかの子どもがここに入るのを見たと」
「サニーラ!」
何度も食い下がるサニーラを、リシャーナは割って入るように制止した。
「リシャーナ……どうしてここに」
「あなたが血相変えて走って行くから心配だったんです。事情は子どもたちから聞きました」
「こ、コロンがいなくなっちゃって……ここに来てるっていうから私……!」
「だから、今店には誰も残っちゃいねえよ!」
「そんな! だってまだ帰ってきてないんですよ!?」
サニーラはひどく取り乱していた。身を乗り出す彼女を、リシャーナは慌てて男と距離を取らせる。
高い確率で嘘をついているだろうが、今こうして食い下がっても危険が増すだけだ。シャンシーたちがほかの人を呼んでくるまで待ちたい。騎士団と合流できれば、彼らの立ち会いのもと安全に子どもを探し出せる。
――サニーラ、彼もこう言ってますしほかの場所を探してみましょう。
リシャーナがそう切り出そうとしたとき――。
「おや、騒がしいですね。なにがありました?」
とテントの奥からもう一人、男がやって来た。平民と変わらぬ格好をした中年の男とは違い、彼はさらに年嵩だが燕尾服のようなスッキリとした質のいい服を纏っていた。
中年の男が慌てて頭を下げているので、責任者かそれに近い立場の人間なのだろう。
サニーラにもそれが分かったのか、今度は燕尾服の男に向けて声を上げた。
「あの、今日男の子がきていませんか? コロンという金髪の子で……」
「子どもですか? はてそんな子は……おや?」
明らかな厄介ごとの気配に、男はあしらうようだったが、近づいてくるうちにサニーラを認めて片眉を上げた。
「おやおや、まさか医療班での活躍が目覚ましいヴァンルッシュ男爵令嬢ではないですか!」
両手を広げ、男は笑みを深くして友好的な態度を見せた。大袈裟なその勢いに、そこで初めてサニーラの勢いが削がれた。咄嗟に小さくなった彼女と男の間に立ち、警戒するように正面から男を見上げた。
「ん? おや、こちらの女性は」
「リシャーナ・ハルゼラインと申します。サニーラ様と一緒に子どもたちを探しています」
「ああ! あの若き女性研究者ですね! 優秀だと噂はかねがね」
媚びへつらうような態度の男に、愛想笑いを浮かべつつリシャーナは冷静に構えた。
サニーラはともかく、リシャーナは同じ研究者や学園関係者でもなければさほど知名度はない。貴族社会に詳しい人物か、それとも顧客になりそうな貴族令嬢にはあらかた目をつけているのだろうか。
「子どもたちがここへ来たと聞いたのですが、もしやもう帰宅したあとでしょうか? それか私たちの勘違いでしたら申し訳ありません」
それでは。サニーラの肩を抱いてくるりと反転して帰ろうとすれば、「ああ、子どもならおりますよ!」と引き留めるように男が声高に言った。
「ほ、本当にいるのですか!?」
まずい、と思ったときには遅く、サニーラがリシャーナの腕から抜けて男に詰め寄る。
「ええ。よく遊びに来てくれるのですが、今日は疲れて寝てしまっていまして」
「その人は知らないと言っていましたが?」
燕尾服の男が来てから隅で小さくなっているもう一人の男を、リシャーナがちらりと睨むように見ると、燕尾服の彼はにんまりと笑みを深くした。
「子どもたちは仕事の邪魔をしないようにと、裏口にやってくるので門番の彼は知らなかったのですよ」
「じゃあコロンたちはまだここにいるんですね」
「はい。遊び疲れてぐっすりです。いやあ、私たちもどうしようかと思っていたので助かりました」
さあ、どうそ入ってください。テントの奥へと促す男に倣い、ほっとしたサニーラが後に続こうとする。引き留めようとも思ったが、ここで露骨に警戒を見せたら、勘づいていることを察知されるかもしれない。シャンシーたちが助けを呼んでいるはずだから、そう経たずに騎士団が来る。
ネノンが昼間に報告をしているはずだから、より迅速に動いてくれるはずだ。
(それまでどうにかことを荒立てないようにしよう……)
子どもを連れて無事に帰れるならそれに越したことはない。そう思い直す。かといって、不安がなくなった訳ではないので、リシャーナはサニーラに続くように見せかけて一瞬立ち止まり、そっと足裏に魔力を集中させた。
騎士団の介入を拒むかも知れないし、そうなるとハッキリした証拠がないと踏み込むまでに時間がかかるだろう。
それなら、リシャーナたちがきたという痕跡があれば話は早くなる。
(魔力だけで残したって私のものだと判別できない……)
なにか。なにか一目で分かって、かつこの人たちにはバレない痕跡を――。あまり足を止めると怪しまれる。
内心で冷や汗をかいたリシャーナは、激しい焦燥にかられた。その末、咄嗟に浮かんだ言葉を一文字、魔力で書き残したのだが、部屋に通されてから後悔した。
(馬鹿だ……なんで古代語なんて書いちゃったんだろ。騎士団に古代語を分かる人がいなければ、余計に現場を混乱させることになる)
あの門番には絶対に分からないだろうが、味方にも気づいてもらえないかもしれない諸刃の剣だった。
(焦ってて咄嗟にユーリスの顔が浮かんだからって……なんで古代語……)
リシャーナも詳しいわけではない。しかし、ユーリスに見せてもらった「星の降る街」はタイトルなら覚え書き出来る程度には頭に入っていた。そこで「星」と魔力で綴って残したわけだが――。
子どもたちもお気に入りで、何度も読み聞かせてもらっていたから見れば分かるかも知れない。だが、そう都合良くユーリスか子どもが来るなんてことはないだろう。
(でも書いちゃったもんはしょうがない……それより今はここを上手く切り抜けることを考えないと)
頭を切り替えたリシャーナは、部屋の中を見渡した。
男は子どもたちを起こしてくると出て行ったので、部屋にはリシャーナとサニーラだけだ。
普段は仕切りをひいて部屋を区切っているらしく、隅のほうに衝立がまとめられている。きっとネノンが言っていた平民用の占い部屋なのだろう。
魔力の生まれ変わり云々破屋の部屋だと言っていた。
チラリと、入ってきたドアと反対にあるもう一つの扉を見た。あの先に子どもたちがいるのだろうか。
(いや、あそこは占いに来た人を通す部屋で、子どもの仕事用には別で用意してるのかな……)
責任者の男は、リシャーナたちが入ってきた扉からでて廊下をさらに進んでいったのだ。多分リシャーナの推測はあっている。
「ねえ、リシャーナ……リシャーナはどうしてここに?」
渋い顔で押し黙っていたリシャーナに、不意にサニーラが問いかけた。
「あなたを追っていた子どもたちは、私よく行く孤児院の子なんです。その子たちから事情を聞いてあなたが心配で……」
「そうだったんだね。ごめんなさい、心配かけちゃって」
へらりと笑った顔は、どこか無理をしているような生気のない顔だった。よくよく見ると、すんだ琥珀の瞳の下には、薄らと隈が出来て薄暗い。
建国祭のときも少しやつれているようにみえたが、さらに悪化している。
心配だと、リシャーナは眉をひそめた。しかし、今は子どもたちや自分たちの身の安全を考える方が先決だ。
ひとまず、ネノンと交わした会話を掻い摘まんでこの場所について詳しく話そうと思ったのだが、タイミング悪く男が戻ってきてしまった。
しかし彼は一人だった。
一人……? 子どもを呼びに行くと言ったのになんで?
怪訝そうにしたリシャーナに答えるように、男が大袈裟な身振りで嘆く。
「すみません、子どもたちは随分はしゃいでいたようでぐっすりなんです。私が声をかけても全く起きる気配がなくて……!」
「そうなんですか? コロンがそんなにはしゃぐなんて珍しいです」
「ここは秘密基地のようなものですから。普段とは違う遊び場だとはしゃぎたくなってしまうのでしよう」
純粋に感心しているサニーラとは反対に、リシャーナは内心で男に疑いをかけた。
まさか魔力の吸いすぎて意識を失ってるなんてことないでしょうね?
それともまだ仕事というなの魔力吸収が終わっていないのだろうか。
どうやって男から情報を得ようかと考えあぐねていたリシャーナをよそに、男はサニーラに向けてニコリと人好きのする笑みを送った。
「しかし、ヴァンルッシュ嬢も随分とお疲れのご様子ですね。やはりあなたほどの使い手となると医療班でも引っ張りだこで忙しいのでしょうね」
うんうんと頷きながらの男の独り言に、サニーラの顔を影がさす。
「いえ、私なんて魔力が多いだけで大して役には立てていなくて……もっと上手く使いこなさないといけないんです」
そっと開いた自分の手のひらを見つめ、サニーラは苦いものを噛んだような顔で呻く。
あ、と思ったリシャーナが止めるよりも早く、男は揉み手でサニーラの前に出た。
「魔力操作でお困りでしたら、一度生まれ変わるのはいかがですか?」
「生まれ……? なんですかそれは」
「魔力の動きが悪い。また、魔法の扱いが難しいと感じるお悩みには、一度体内の魔力をできるだけ多く放出し、新しい魔力を注いであげるんです。魔力も体内にずっと留まっていると、動きが悪くなって悪い気が溜まるんですよ。それが体や魔法に悪影響なんです」
もしよければ子どもたちが起きるまでの間にいかがですか?
ペラペラと慣れた口ぶりの男を前に、サニーラの瞳の光がゆらゆらと揺れ始めた。
そんなサニーラの様子に気づかないリシャーナは、内心で男を見下ろしながらふんと鼻を鳴らす。
(サニーラがそんな甘言に引っかかるわけないでしょ)
この子はいつだって自分の力で前へと歩いていくヒロインであり、主人公なのだから。
やや傍観気味だったリシャーナだが、サニーラが男の手を取るように席を立ったのでぎょっとして振り仰いだ。
(え――!? まさか話にのるつもり!?)
「ま、待ってサニーラ! あんな言葉を信じるの? 魔力に悪い気が溜まるなんて学術的見解は聞いたことがないよ」
「でも、それで調子が良くなった人もいるっていうし……」
さすがに半信半疑ではあるらしい。自分が根拠もない話にのっている自覚はあるのか、サニーラは少し罰が悪そうに目を逸らす。しかし、引き様子もないようだ。
「そんなのお客を騙すための嘘に決まってるでしょ」
「おや、嘘だなんて酷い」
白々しい言葉に、キッと男を振り返る。鋭く目を向けたところで、男は飄々とした態度を崩すことはない。
「一度だけ試してみたらいかがですか?」
「それでなにかあったらどうするんですか? 魔力がなくなれば死んでしまうんですよ?」
「我々の事業で死者が出たという実績はありません」
それだけ人体に影響の出ないラインを見極める自信があるってこと?
にんまりとした笑みは、腹が立つほどに綻びも揺らぎもない。
じっと二人が膠着状態で見つめ合っていると、不意にサニーラが動いた。
「……一回だけ、試してみてもいいですか」
「サニーラ!?」
妖しい雰囲気があるのは明白だ。それでも試すというのか。
(どうして? こんなとき、ヒロインなら強い意志で突っぱねて見せるもんでしょ!?)
喜びの声を上げた男が廊下に出てサニーラを呼び寄せる。それに続こうとする彼女の腕を、リシャーナは咄嗟に掴んで引き留める。
「待ってサニーラ。なにかあったら大変よ。考え直して」
「でも、もしかしたら本当にもっと上手く魔法が使えるようになるかもしれない」
澄んだ琥珀の瞳は、今はどこか昏い光りを宿していた。リシャーナを見ているのに、彼女の目は遠いなにかの幻影に怯えているようだ。
様子がおかしい。そう思ってさらに言葉を重ねようとしたが、それよりも早くサニーラに手を振りほどかれた。
「――そうすれば! もう誰も死なせずにすむかもしれないじゃない!」
だから放っておいて!
言い捨てたサニーラは、振り返りもせずに小走りで男を追いかける。まるで、その先にある一縷の希望にしか興味がないように。
意地汚く、目の前のあるかも分からない――ほとんどないに等しい嘘の希望に縋るこれは誰?
(本当に、
振り払われた手の鈍い痛さが少しずつ遠のくにつれ、じわじわと心の衝撃が知覚されていく。
生々しい、とリシャーナは思った。
――もう誰も死なせずにすむ……!
再び、サニーラの叫びが鼓膜の奥で響き渡った。
きっと、幼いころに死んだ弟のことだ。もしかしたら先日のグルウェル討伐の殉職者たちのことを思ってかも知れないが、その根本にいるのは弟だろう。
両親を幼いうちに亡くし、支え合って生きた弟。病気がちで、お金がなかったからみすみす死なせてしまった。
そして、弟を亡くしてからの一年の成長でサニーラの魔力は安定し、医療魔法が使えるようになった。それを見込まれて男爵家の養子に入ったのは、それから半年後のことだ。
弟が死んでから二年足らずで、彼女は弟を救うための魔法を、金銭を手に入れた。
その事実は、サニーラの心の中で傷となって存在する。椎名から聞きかじったゲームでも、実際に見たアニメでもそれはしっかり描写されていた。
だが、それは夜に弟を思ってしくしくと涙を零すような優しいものだ。こんな、思わず言葉を呑むような気迫も、危うさも孕んではいなかった。
サニーラ・ヴァンルッシュは、いつだって前向きで、誰にだって分け隔てない優しさと自己犠牲の精神を持った聖女みたいな少女だ。あんなふうに過去のトラウマに呑まれたりはしない。現実だったらあり得ないような、そんな出来すぎた強い女の子のはずだ。
――そう。現実だったらあり得ない。ゲームの中だからこそ……。
(現実……?)
浮かんだ言葉に、ぐらりと足元から崩れたような倒錯的な感覚がリシャーナの頭を支配した。
ふと吐き気がこみ上げた気がして、口許に手を当てた。
(私は今まで、なにを見てたの……?)
果たしてリシャーナは、今までサニーラのことをしっかりと見たことがあっただろうか。
ヒロインでもなく、主人公でもない――この世界で私が出会ったサニーラ・ヴァンルッシュを。
そう考えついたとき、リシャーナはずっと自分の視界を埋め尽くしていた見えない壁が取り払われた心地だった。目や耳から伝わるこの世界の情報が、やけに鮮やかに重みを持ってのしかかってきた。
(マラヤンのことだってそうだよ……)
攻略対象の一人。いつかサニーラを好きになる人。それ以上でも、以下でもない。気まぐれで、リシャーナを目にとめてくれた人。
そんなふうにしか、リシャーナは見たことがなかった。
サニーラはこうだから。マラヤンはこうだから――そんな決めつけた知識の上でしか、彼女たちのことを計ったことはなかった。
――きみだって、今この世界で生きているだろう!?
建国祭でのユーリスのもどかしさを含んだ叫びが、さらに大きな衝撃となって胸をついた。
(この世界は、ゲームのオルセティカでも、なんでもないんだ……)
ただリシャーナが、ユーリスが、サニーラが生きている。そんな
そう思い知った途端、リシャーナの手を振り払ったサニーラの背中が、ひどく儚いものに思えた。
「サニーラ……!」
慌てて扉を開け放って廊下に飛び出た。すでに姿の見えない彼女を追いかけようとした瞬間、足がもつれてリシャーナの体は受け身も出来ずに廊下に倒れ込んだ。
(なに? 足が動かなかった――!)
胸を打った衝撃で息が止まった。しかし、それ以外にも床に押しつけられるような重さを感じて身動きが出来ない。
「なあ、貴族のご令嬢にこんなことしていいのか?」
「殺さなければいい。あの女の魔力が手に入れば、先日のダラスとの取引にも使える」
倒れたリシャーナの足元から、靴音ともに知らない男二人の声が近づいてきた。
やはり魔法で足止めされている。
さらにリシャーナを驚かせたのは、男たちの口から出てきた「ダラス」という国の名前だ。オルセティカから北西にいくつか小国を挟んで離れた場所にあり、少し前から周辺国と水面下での争いが絶えないと聞いている。
近いうちに大々的な戦になるでは、という話だが、まさかその戦争のために魔力かあの鉱石を求めているのだろうか。
「それにしても、欠乏症状の依存性から金儲けにつなげるなんて貴族様は考えがえげつないな」
「鉱石で大儲けって話だったけど、まさかそれ以上の儲け話がくるとはな」
へらへらと笑った男たちは、リシャーナをなにも出来ないご令嬢だと思っているのか、目の前であれやこれやと面白おかしく話している。
(ああ……もう少しで顔が見られるのにっ!)
これ以上首が回らない。来ている衣服や靴を見るに貴族じゃない。ただの雇われと言ったところだろう。だが、今は一つでも情報が欲しい。
さすがに貴族の子女を殺すつもりはないようだから、あとで絶対に騎士団に駆け込んで情報を流してやる。
そう意気込んでいたリシャーナを嗤うように、男は小瓶に入ったなにかを手ぬぐいにふりかけると、リシャーナの鼻先を覆った。
急に伸ばされた手に驚いて瞬間的に吸い込んでしまうと、甘ったるいむせるような香りが鼻腔に広がってくらりと目眩がした。
(この香り、チムシーの花だ――!)
いけないと思ったときには遅く、自分の体内で魔力が不安定になっていくのを感じる。
子どもたちやネノンの友人が通されたのはチムシーの花のある部屋だ。チムシーに魔力を吸い取られていたのだ。
そして、その吸い取った魔力の一部は鉱石に宿してお守りとして循環させていたのだろう。
(あの鉱石もどこかで見たことあると思えば、チャーチムの角じゃない……!)
ああ、どうしてすぐに気づかなかったの。
リシャーナは内心で激しく悔やんだ。
「この女はどうするんだ?」
「どうせあっちの女の魔力を取ったら、ここはおさらばするみたいだから転がしとけ」
「思ったより繁盛しすぎたからな……まあグラスの使者に匿ってもらえりゃしばらく安泰か」
狂わされた魔力のせいで、リシャーナの脳は直接揺らされたようにぐるぐると回り出す。
それを歯がゆく思っていると、視界まで渦を描き出した。
(ダメ……サニーラをとめに行かなきゃ……子どもたちだってまだ見つけてない……)
気力だけでどうにかしていたが、それも限界だ。リシャーナは抵抗も虚しく、ゆっくりと瞼を閉じて意識を失った。