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第76話 恋①〜side秋斗〜

ピピピピピピッ!

アラームの音がして慌てて身体を起こした。



これは、

現実で、良いのだろうか。


カーテンの隙間からは朝の眩しい光が差し込んできていた。

思い切りカーテンを開けると、部屋が一気に眩しくなって目を細めた。



昨晩、

何度も何度も陽向から送られてきたメッセージを読み返して

間違いなんかじゃない、夢なんかじゃない、

と自分に言い聞かせた。


今日の昼、陽向は東口に来てくれるのだろうか。

『やっぱり無理です。

お付き合いはできないので、行けません』


そんな恐ろしいメッセージが入っていないか

アラームのスヌーズを解除しながらメッセージを確認した。




……よかった、何も、入ってない。


もやっと頭にすぐ浮かんでくる嫌なイメージを消すために

熱いシャワーを浴びに風呂場へと向かった。




9:30か、

ガシガシッと濡れた髪をタオルで拭きながら

再びスマホを見た。

どうでも良いニュースしか通知欄には入っていない……。


陽向はまだ眠っているんだろうか?

昨日、ふらふらして、相当疲れてたもんな……。


来る……だろうか?

陽向がもし、付き合えないと言ったら

どうしよう……。

でも……それでも、友だち?でもいいから、週1で飯食いにいくとか、どう?

とか聞いてみようか……。


このまま、何もなかったかのように会えなくなるのだけは、嫌だ。


そうだよな、友だちだって、きっと、飯食いに行く、買い物行く、とかで会うだろ?

……友だちなんて、小学校以降まともにいなかったから、友だちが何するのかもイマイチわかんねーけど。



そうだ、それにしよう、

そうすれば、たとえ振られたとしても、

また陽向に会う口実ができる。


この3ヶ月みたいに、陽向にもう二度と会えないのか……という真っ暗な洞窟に1人残されたような恐怖感は

もう二度とごめんだ。



洗面所の鏡をみて、タオルドライだけでほぼ乾いた髪にブラシを通す。

あー、髪切っておけばよかった。少し伸びてきた髪先に指に纏わせたワックスを馴染ませていく。

少し硬めの自分の髪質……

陽向の髪の毛、あれ、すげーよな。

なんか、さらっとしてて。細いのか?髪に触れると指の間をすり抜けるようにして流れていってしまう、絹の糸なんて触ったことないが、きっと、絹の糸ってやつもあんな感じなんじゃないかと思う。

何食ってたらあんなサラサラになんだ?

甘いもんか?


ピアスケースに入れておいた黒のリングピアスを右耳に付ける。

あぁ、お揃いで買ったピンクゴールドのやつ……捨てられてしまったけれど、また書い直そうかな。陽向とお揃いでつけたい。

って捨てたやつをもう一度もらうなんて、キモいか?


クリスマスプレゼントなんて、言い訳つけて、

ピアス以外になにか、お揃いにできるもん、ないか?

ネックレス?指輪……ってお互い飲食だから、指輪はできねぇか。……いや、でも会う時にお揃いにすれば……



てか、お揃いなんて、誰かとしようと思った事もない。

なんなら人の真似すんな、って学生時代は思ってたはずだ。

なんで、こんなに陽向にはしたくなるんだろう。

そんだけじゃない、何でも買ってやって、笑った顔がみたい。

好きな食べもん沢山食べさせてやりたい。

ずっとそばで、見守っていたい。

触れていたい。


なんだ、なんだろう、この陽向のことを想像すると

胸なんだか、胃なんだかがぎゅーーーってなるやつ。


これが……こ、恋って、やつ?

こ、い……!?



うわぁぁぁぁあああ!!!

ゴンッ!!

洗面所の壁に頭を打ちつけた。

俺、俺、……俺、相当アホになったのか……?

な、何言ってんだ!?

恋……!?

恋……

恋かぁ。


俺、陽向に、恋、してんのか?

恋かぁ。



どうせ部屋には1人だ。

いいんだ、こんなだらしなくゆるんだ口角。

誰にもみられるわけじゃないから、ゆるませとこ。


今日は全然時間が進まない。

早く早く、早く進め、

12時に、早くなってくれ。


全然動かないスマホの時計の数字を睨みながら

部屋の掃除をしたり、冷蔵庫を何度もあけたり、せっかく風呂に入ったばかりだから、汗をかかない程度に筋トレをして、進まない時間をなんとかやり過ごした。


11:45やっと、やっとだ。

焦る気持ちを一旦抑えるため、深呼吸する。

陽向、どうか、来てくれ。

ふぅー。

大丈夫、大丈夫。陽向は、来てくれる……。

何度も自分に言い聞かせる様にして、家の鍵を閉めた。









―――――


バタン!!!!

ガチャガチャッ


ドサッ。



や、やばかった!!!

なんだ、あれ!!!


乱れた息を整えながら、玄関の上り口に座り込んだ。


はぁ、はぁ……



午後からのひととき、陽向に俺のお気に入りのラーメン屋を紹介して、

カフェで過ごして、

本当なら、もっと一緒にいたかったけれど……


まだ外が明るいというのに、大急ぎで走って帰ってきた。


はぁ、はぁ、はぁ。

やばい、やばい、やばい!





……陽向が……




可愛すぎる……!



俺は何かの魔法にかかったのだろうか?

陽向の表情、仕草、声、髪の毛、手、頬、目、唇、おでこ、……もう、陽向の全て、本当に全てが

可愛い……愛おしい。


なんだよ、これ。


やばい、やばかった!

あのまま、誘われるまま、陽向の家に入ってしまったら

恐らく、煩悩を抑えきれずに、陽向を襲ってしまったかもしれない。


だめだ。それだけは、ダメだ。


9月にあんな酷い抱き方をしてしまったせいで、きっと陽向はショックを受けているに違いない……。

陽向が、陽向がそーいうこと、したい、と言って来てくれるまで、ぜってーに手を出さねぇ。


始まりが身体からだった分、今まで沢山泣かせてしまった分も、

陽向へしっかりと自分を信頼してもらって、色んな順序をきちんと踏んでからだ。


ふぅ……

次に、陽向に会えるのはいつだろうか……。


よろよろと立ち上がり、お気に入りの白のスニーカーを脱ぐ。

ショルダーバッグにしまいこんでいたスマホの灯りを点けて、

先程送られてきたばかりの12月後半のシフトを確認する。


……はぁ。

やっぱり、だよなぁ。


明日から、見事に29日まで、正社員全員休みなど存在していなかった。

希望を持たせるためか30日〜5日は年末年始休暇です。

と欄外に書かれていた。


次に会えんのは30日かよ……

長っ……。

さっき会ってたばっかりなのに、もう会いたいとか。

まじで俺、どうなっちゃったんだ。


ブルルルッとスマホが震える。

「あ、陽向!」

コーヒーカップの見慣れたアイコンからの通知だ。


急いでその通知をタップする。

『秋斗さん、今日はありがとうございました!ラーメンとっても美味しかったです!俺もあのお店お気に入りになっちゃました!また一緒に行きたいなぁ。

秋斗さん、明日からお仕事連勤大変ですが、頑張ってください!でもっ、身体には気をつけてくださいね。心配。

また次に、会える日がわかったら教えて下さい。』


ふっ、

頬がだらしなく緩む。

陽向……。

何だか、今までしていたメッセージよりも文面の雰囲気が柔らかく感じる。

今まではどことなく、線を引かれていたような、これ以上俺に近づくなといったような雰囲気があったが……。


はぁ、あと20日会えないとか……地獄だわ。

でも、まぁ、この3ヶ月に比べたら。

なんでも乗り切れる、大丈夫だ。

陽向のおでこに触れた唇をそっと親指でなぞる。

早く、キス、してぇなぁ。

柔らかいんだろうなぁ。

……はぁ。

じわじわと下半身が熱を持つ。



ぐっとスマホを握りしめてから

陽向へのメッセージを急いで打ち込んだ。


早くまた、陽向の中に入りたい。

一度覚えてしまった快感を我慢する事は、かなりの忍耐が必要だ。

でも

1人で、想像の中で陽向を抱くぐらいなら、いいよな?

「ごめん、陽向……」

そっと呟いてジーンズのタックボタンをはずし、

ファスナーを、そっと慎重に下ろした。



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