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第75話 これから⑤〜side陽向〜

お昼休憩時間が終わったからだろうか、

カフェはお客さんが1人だけだった。スーツを着たサラリーマン風の男性がスマホを眺めながらサンドイッチに齧り付いていた。



ラーメンでさすがにお腹がぱんぱんなので

それぞれ、ホットブラックコーヒーと、ホット抹茶ラテを注文して2人掛けのテーブルに向かい合って座った。


そうだ。周りにお客さんいないし、昨日のこと……聞いてみても、いいかな?

「あの、秋斗さん……あの……、えっと、昨日、言ってくれてた、あの、つつ、つつき、つきあう、って本当……ですか?」

「つつつって……キツツキみたいになってんじゃん。……まぁ、昨日言った事は、ちょっと俺も思い出すと、かなり、その……恥ずいけど……、全部、本当の気持ちだから。」


照れているのかな?秋斗さんはずずっとコーヒーを一口飲み、テーブル脇にある観葉植物の葉をそっと撫でている。


「……てか、陽向の、返事……今日、聞かせてもらえる?いや、もう遅いとか、あの、迷惑とかだったら、ハッキリ言ってくれたほうが……その、まぁ、急だったし、その、陽向にも、あのー、きっと都合が……」

「俺と、付き合って下さい。秋斗さん!」


もごもごとマイナス思考な事を話し始める秋斗さんの言葉を思い切って遮った。

「へ?」

「付き合って欲しいんです。……その、あの、俺の、付き合うは……前みたいに…………あの、えっ、え……ちなこと……だけで会うんじゃなくて、こ、こんなふうにご飯食べたり!何もしなくていいから、そばにいたい。何ともない話しをしながら、隣で笑ってたい、楽しいことは共感しあえて、大変な時はお互い支え合える存在になりたいっ!……それが、俺の、付き合うって意味、です……」


はぁ、はぁ、

一気に捲し立ててしまって、息が上がってしまった。

言ったぞ……。俺、昨日から一年分くらいのパワー使ってる……。

テーブルの下で秋斗さんの長い足がつん、と俺の足に当たった。

わり……と慌てて足を引いてしまう秋斗さん。

背の高い秋斗さんが座ると、このテーブルは小さく見えてしまう。


テーブルの上のコーヒーカップを握りしめながら

秋斗さんは話し始めた。


「ありがとな、陽向。……あー、俺の方が3つも年上なのになぁ、陽向の方がしっかりしてるわ……。俺こそ、こんなロボットみてーな俺だけど……陽向のこと、支えられる男に、なりたい」


「秋斗さんはロボットなんかじゃないです!とってもあったかくて、優しくてっ!俺、知ってます!……あ、でも、まだまだ、知らないこと、沢山あるので……。これから、もっと、秋斗さんのこと、教えて下さい。」


必死に話しすぎて、テーブルから身体を乗り出して、秋斗さんの顔と自分が近くなってしまっていた。

わわっ!

慌てて席に座り直す。

秋斗さんは困ったように目を泳がせるとガシガシっと右手で頭をかきながら、隣の植物の方をむいてしまった。


秋斗さん?照れて、る?よね?

ほんのりと赤く見える右耳、そこに光る黒いリングピアスが目に入った。

……ピアス……。


あっ!!!!

そうだった、ピアス!

秋斗さんから告白されたことが

嬉しすぎて、ピアスの事、すっかり忘れてしまってた!

クローゼットの中に入れっぱなしのピアス。

秋斗さんに直接確認して、着けても良いか、聞いてみたい。


「秋斗さん!あの、この後、俺の家に来てもらえませんか!?」

「ええっ!?え、あ、えっ!?ひ、陽向の家……いいのか?」

何だかびっくりした顔の秋斗さん。

そんな、変な事、言っちゃったかな?

いや、家に来てって、言っただけ、だよね?


でも、何だか今日、今までと違う秋斗さんの表情が沢山見られる。

嬉しい。

秋斗さんて、結構クールで表情あんまり変わらないタイプかと思ってたけど、

それはちゃんと、秋斗さんのこと知れてなかっただけだったんだな。


秋斗さんはきっともう、ぬるくなっているはずのブラックコーヒーをぐいっと飲み干す。

俺も、底の方に濃い抹茶色が残った抹茶ラテの最後の一口をごくりと飲み込んだ。

口の中に苦味がひろがる。

「それじゃ、行きましょうかっ」

ガガガッと椅子が音を立てた。


飲み終えた2つのコップを返却口へと重ねて置く。

「ありがとうございましたー」

女性の店員さんが、洗い物をしている手を止めて挨拶してくれた。

うん、ここの店も美味しかったし、居心地よかったなぁ。


うちの店には、敵わないけど……

なーんて、自分の店贔屓を心の中でしてから、

ウィーンと開く自動ドアを2人でくぐりぬけた。






昨日も2人で通った、俺のアパートまでの道のり。

さすがに駅前で、かなり人目もあるから、手を繋いではくれなかった。

仕方ないけどさ、残念……。

これが、男女のカップルなら、そんなこと気にせず

どこでも手をつなげるんだろうなぁ。

はぁ。

心の中でこっそりため息をつく。


そんな俺の気持ちがバレたのだろうか?

路地を曲がったところで、

「なぁ、」と秋斗さんはこっそり手を重ねてくれた。

へへへ。

なんか、気持ち、伝わったのかな?


「嬉しいです……」

顔が気持ち悪いくらい、緩んでいるんだろうなぁ。

でも、でも、いいじゃないか、

誰に迷惑かけるでもない。

2人だけの2人の時間だ。


ぽかぽかとあったかい手を離したくはなかったけれど、

あっという間にアパートについてしまった。

いつも登り慣れた階段を2人で上がる。

1人だと、充分だと思っていた階段幅はすごく狭く感じて、身体をくっつけ合いながら2階まで登った。


「ここの、2階なんです。秋斗さんも、2階でしたよね?」

「あ、……うん」


そっけない返事が返ってきた。


ん?なんで、元気なくなっちゃったんだろ、やっぱり疲れちゃった?お仕事大変て、言ってたもんな。

貴重な休みだったのに、俺に付き合ってくれて……。

「秋斗さん、大丈夫ですか?疲れてます?よね?……俺の家で、ちょっと休んでください。」

「やっ、いやっ!……疲れてるっとかじゃなくて」


ん?じゃあ、なんだろ……俺の家、来たくなかった?

この後、何か予定、ある?

カチャン……


トートバッグから取り出した鍵で、玄関の鍵を開ける。

「……っ!ごめん!陽向!!やっぱ、ダメだ!!その、今は、まだっ、……えっと、」



へ?

なにが、ダメ……なの?

え?

やっぱり、

付き合えない、とか……!?

やだ、やだよ、そんなの。

秋斗さんからの言葉が怖くなって、

ドアに手をかけたまま、固まってしまった。


「俺、あのさ、陽向に、あんなこと、してしまったことさ……ずっと、後悔してて……だから、その、ちゃんと、俺の気持ちも、陽向の気持ちも、そう、しっかり、伝わり合うまで、きちんと、順を追って、から、そーいうこと、したいっ、……って……」


あんなこと?

なんのこと?


「だから、そのー、俺の理性というか、そういうのが、ちょっと、久しぶりだし、アレだからさ、あの、今日は!ここまでって感じで……いい、かな?」


理性?

久しぶり……って、

え?え……?まさか

まさか!?

「えっと、あ、秋斗さん……、えっ……えっち、のこと、い、いってますか?」

そのワードを言うのなんて、人生でまだ数回だ。顔がぼっと燃えるように熱くなった。


「う、うん。……だからさ、その、今日は、陽向に会えて、ご飯食べられて、話もできて、手も繋げて……俺は、充分幸せ。だから、がっついて、陽向に嫌な思い、悲しい思いは……させたくないんだ。」

嫌な思いだなんて……。

でも、俺、ピアスのことでいっぱいで、すっかりそんな事考えてなかった。


秋斗さん、俺とのこと、沢山考えてくれてるんだなぁ。


「ふふ。俺も、今日、とっても幸せです、秋斗さん」

そう目を見つめながら伝えると、

優しくふわりと抱きしめてくれた。



「今日、ありがとな。んじゃ、また、連絡すっから。次いつ会えるかは……ごめん、下手したら、年末年始あたりになっちゃうかも……だけどさ。シフトわかったらすぐに連絡する」


ふるふるっと頭を振る。

大丈夫、大丈夫。と伝わるように。


「なぁ、陽向?」

「ん?」


秋斗さんを見上げた拍子に、視界は真っ暗になり、おでこに柔らかいものが、ぷちゅっと吸い付いた。


え?

んん?


「ごめん、可愛すぎて、我慢の限界。これ以上、俺が暴走する前に、部屋に逃げ帰ってくれな?」

ぶわっ……!

外は北風が吹きつけていて、寒いはずなのに、

じわっと全身が汗ばんでくる。

えええっ!!!!?


お、おでこっ!?

い、いま!ちゅ、ちゅーって!?


秋斗さんの唇が触れていたおでこを左手で隠しながら

ガチャガチャっ、とドアを開けた。

「っあ、あ、ありがとう、ござい、ましったっ!お、お疲れ様、ですっ!!!そ、それで、はっ!!」


恥ずかしくて恥ずかしくて顔も見れないまま、家の中隠れるように急いで入った。

『まーた、その挨拶っ、ははっ、じゃあ、またな、陽向』

ドア越しに優しく笑っているはずの秋斗さんの声が聞こえた。

「は、はいっ!また、またっ!!」

遠ざかっていく足音に耳を澄ますが、すぐに聞こえなくなってしまった。



やばい、

やばいやばいやばいっ!!!

もーー、何っ!秋斗さん!!

突然の、おでこにチューは、反則だよーーー!!!


俺、やばい、溶けそうー。

足が溶けてるのかと思うほど

ぐにゃぐにゃと歩きながら、ベッドへ倒れ込む。


秋斗さん、秋斗さん、秋斗さんっ!!


あぁ、俺、これだけでこんなに蕩けちゃうなら、

唇にキスされたら、どうなっちゃうんだろう……


というか、

今まで、よく、もっと、すごい事、してたよなぁ。

今の状態で……今まで通り、できる気がしない。


数ヶ月前の俺……すごいなぁ。


ふわぁぁぁ。。。

夢みたい、本当かな、

本当なんだよね!?

やばいよーーー!!!

うわぁぁぁぁーーーーーん!


その日はそのまま長い事、ベッドでどろどろに溶けていた。

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