「でもさ、そんな事言っといて悪いんだけど……その、クリスマスシーズンは……くっそ忙しくて……。12月の休み、今日が最後なんだわ。だから、その、クリスマス?多分、会ったりとか、そーいうの、出来ないんだわ。ごめん。そのかわり、毎年年始……多分30日とかになるけど……そん時は……会えるから……」
頭がぽぉっとする。
クリスマスに会えない寂しさなんて、今までの事を思ったら、なんてことない。
何より嬉しいのは、秋斗さんが、俺とのこれからについて、考えてくれているって言う事だ。
普段、ベラベラと自分の事を話してくれるタイプではない秋斗さんが、必死に俺の為に言葉を選んで、伝えてくれている。昨日の気持ちを伝えてくれた時も……秋斗さんて、こんなに話してくれる人なんだ!ってびっくりしてた。
嬉しいな。
クリスマスには会えないけれど、このハードな時期過ぎたら会おうって……言ってくれてるんだよね?
「お仕事、大変な時期なのに、貴重なお休みに、こうやって会ってくれて、俺、嬉しいです。また次の休みの日、2人で過ごせるのが、今から楽しみ……。だからそれまで、俺も仕事、頑張ります!」
「うん……、そうだな。」
秋斗さんが俺の方を見てくれている気がする。
俺も、秋斗さんのことが、見たいな。……だけど横を見る事が恥ずかしくて、
「えっと、な、なんだろこれ。」と割り箸入れの箱の隣に、プラスチックで出来たスタンドに立てられている『秋桜道のこだわり』と書かれたラミネートされた紙を手に取って、パタパタ音をさせながら、それを読んでいるふりをした。
ガラガラッ
「ごちそうさまでした!美味しかったです」
「店長、ごちそうさまですー」と2人の声が揃った。
「はーい、兄ちゃん、いつもありがとうねー!お連れさんも、またよかったら食べにきてなー。」
店長さんがニカっと笑い、焼き立ての餃子の皿を片手に持ちながら手を挙げて挨拶してくれた。
感じの良い店長さんに、ごちそうさまの意味も込めて頭をさげる。
外に出た途端、ラーメンでホカホカとあったまっていた身体が一気にぴりっと冷やされる。
「秋斗さん!ラーメンすごく美味しかったです!連れてきてくれてありがとうございます!」
「美味かったなら、良かった。てか、陽向、細いわりに結構食うのな。ラーメンも餃子も、チャーシュー丼半分、ねぎ味噌丼半分も……シメにちゃんと杏仁も完食だし。すげーわ。俺でもかなり苦しい……」
ゆっくりと駅の方へ戻る秋斗さんの隣……来た時より、少し近づいて歩いた。
「へへ、俺昔から結構、大食いなんです」
「……へぇ」
ちょっと自慢げに言うと
じーっと秋斗さんが俺の頭の先から足の先まで目線を動かす。
「むっ!秋斗さん?なんか、今、失礼なこと、考えてませんか?食べてるくせにチビだなって、思ってましたよね!?絶対!」
「い、いやっいやいやっ、あの、いや、あんだけ食べて、甘いのも好きなのに、そのっ、太らねーから、すげーなって……いや!ほんとだって!」
必死に言い訳する秋斗さん……。図星を突かれて焦ってるのがバレバレだ。
バシッと軽く秋斗さんの腕を叩こうとしたら、呆気なくその手は捕まってしまった。
「陽向、手、冷たいな」
秋斗さんはそう言いながら、俺の手の甲を包み込むように親指で擦った。
「……っ、」
手を捕まえられている方の右肩がぴくっと震える。
「……んーと、まだ、13時前か……、どっか、なんか、ゆっくり、話しできるとこ……行くか?」
秋斗さんは俺の右手を捕まえたまま、パーカーのポケットから取り出して、時間を確認したスマホを、またポケットにしまった。
「……はい……。」
「んじゃ、寒いから……ちょっと、コーヒーとか、飲みながら……とか?」
「……はい。」
再び駅に向けて歩き出す秋斗さん。
俺の手は離されるどころか、指をしっかりと絡められて、もう簡単には外せなくなった。
唇がふるふる震える。
嬉しい、嬉しい。こんなして、手を繋いで、歩いてくれるんだ……。
ちらっと秋斗さんを見上げると、一瞬合った目線を勢いよく逸らされてしまった。
「秋斗さん、赤いです、耳」
「……さ、寒いから、仕方ねーよ、ほら、東口にHARE coffeeのライバル店みたいなコーヒーショップあるだろ?
そこ、行くか」
ぐいっと腕を引かれる。
「……その店、まだ二宮さん……あ、二宮さんて店長なんですけどね……えと、その二宮さんと一回しか行った事ないです。メニューとかの、価格チェックはしてるんですけどね。よーし、敵情視察ですねっ」
秋斗さんの手ごと、自分の手にぐっと力を入れてしまった。
その手をきゅっと握り返される。
「だな、でも、陽向んとこのベーグル、アボカド入ってたやつあったろ?美味いよな、アレ。気に入ったわ」
「えっ!!それ、俺が考えたやつです!わぁ!嬉しい!!やったー!!!」
そんな会話をぽつぽつとしながら、ゆっくりと東口へと戻っていく。
ふふふ。心がほかほかする。
ずっと、ずっと繋いで歩いていたいな、こんなふうに。
多分俺、地面から5センチくらい浮いてるはずだ。
それくらい身体がふわふわだ。