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第71話 これから①〜side陽向〜

ガチャガチャッ

きぃー、ぱた、ん。



ずるずる。どさ……っ。



俺……何……?

夢、見てる?

こんな、こんな幸せな夢……

あっていいの?


自分の両手で頬をむにむにと触る。

秋斗さんの手が触れてくれた所が、まだ熱をもってあったかい。


こんなの、現実だなんて……

そんな……。



玄関ドアにもたれて座り込んだまま、思い切り頬をつねってみた。

「いたっ……」

夢じゃ、ない、の?

そうだよね、夢なら、こんなに、動けないほど、疲れたりしない……よね?



今日の仕事終わりから……

あまりに色々な事がありすぎて、

頭の中がぐちゃぐちゃだ。


田⚪︎駅で、山本さんに、初めて会って

和菓子屋さん行って

イタリアンのお店、連れて行ってもらって

そこに、秋斗さんがいて。


俺が秋斗さんの事が好きだって、山本さん気がついてくれて、沢山話を聞いてくれて、背中を優しく押してくれて……


前に進むために、月曜日なのに、ちゃんと東口に行って、

やっぱり秋斗さんを思い出してしまって泣いていたら


まさかの本物の秋斗さんに会えて。

勢いで、告白して。

これで、これでやっと吹っ切れるんだと思った。


まさか、秋斗さんが追いかけてきてくれるなんて。

秋斗さん……俺のこと

好きって、

好きって……言ってたよ、ね?


脳みその記憶が、自分の良いように書き換えられている気がしてしまう。

録音しておけばよかった……。

俺の勘違いじゃない、勝手な妄想じゃ、ないって、信じられない。


彼氏さんも、俺の……ただの、勘違いだった?

そんな……俺……1人で勘違いして、勝手に秋斗さんを信じないでいたってこと……?



久しぶりに会う秋斗さんは、やっぱり優しくて。

ふらふらしてた俺をアパートまで送ってくれて……


でもこの、

家に着くまでが、すごく、もどかしくて、くすぐったくて、どうして良いのか、何を話したら良いのか、わかんなかった……。


お互い気持ち伝えたけれど、

秋斗さんは、これから、俺との関係をどう考えているのか、わからない。

今まで通り、あの週一回会う、エッチの関係がいいということなのか……。

こ、恋人として、付き合って、くれるのか。

それとも、友だちとして、今までの関係をリセットするのか……。


そんなもやもやを、こんなぼやけた頭では

ちゃんと考える事ができないし、これ以上の情報は本気でパンクしてしまいそうだったから……

明日、もし、会ってくれるなら……そこで、きちんと聞きたい、確認したい。


だから明日の予定、勇気を出して聞いてみた。


そしたら

秋斗さん……

付き合おうって……付き合おうって……言ってたよね?

付き合う……

付き合うって、付き合うんだよね?秋斗さんと、俺が!?だよね?

でも、

そのまま、秋斗さんは急いで帰ってしまった……。

もっと秋斗さんの言葉、聞きたかった。

低くて、でも、すっと聞き取りやすい、秋斗さんの声。

大好きな、声。耳元で話されると、鼓膜が痺れてしまうほどだ。





俺たち……ねぇ、秋斗さん。

これから、

こ、こい、恋人?

秋斗さんが、俺の……か、彼氏……?

秋斗さんの彼氏が……お、俺!?



ぶわっっ!と冷え切っていた肌が一気に汗ばんだ。


明日、明日も、会えるんだよね……

ま、まって、俺、今日散々泣いちゃったから、

明日、すんげー目腫れてるかも……


眠たいのか、泣きすぎなのか、瞼がとても重たい。


早く、お風呂はいって……、マッサージして、

目元、寝る前に、冷やさなきゃじゃない?

ぱんぱんに腫れた顔で、会えないよ!



急いで靴を脱ごうとするけれど、足がもつれてしまう。

え?……と自分の足を見ると、震えていた。

開いて見た手の平も細かく震えていた。


どうしよう、どうしよう、どうしよう!!!!


嬉しい、

嬉しい!

嬉しすぎる!!!!


秋斗さん!

秋斗さん!!!

また、これから、また、秋斗さんに

会える!!!


秋斗さんが……俺の事……

好きって……


やばい、やばい……

夢みたいだ。

夢なら、もう、永遠に、醒めないで。


秋斗さんっ!!!もう、また、会いたくなった!

夢じゃない、嘘じゃないって、

俺を、またぎゅって、あんな風に強く抱きしめて、欲しい。


「わーーーーー!!!!!!!」

まだ靴も脱がない玄関で

肩から下げていたトートバッグに顔を突っ込みながら思い切り自分の身体を抱きしめた。


ぐしゃり。

「あ……」

紙袋が潰れる音がして、

山本さんから頂いた大福を思い出した。


紙袋からごそごそと出した白い和紙風の包みにずっしりと包まれた大福を両手の平に乗せる。

良かった。大福は潰れてない。


「ごめんよ、大福……。こんな美味しい物の存在を忘れちゃうくらい、嬉しい事が、あったんだ。お風呂入ったら……一個、食べさせてね?」


大福にそっと話かけてから、もつれる足を引き摺るようにして、シンクに2つの大福を並べると、湯船のお湯を入れるスイッチを押す。



コートを脱いで、スプレーをかけていると

ピコン!

コートラックにかけたトートバッグが通知音と共に淡く光る。

あ、スマホ入れっぱだ。


誰だろ……こんな夜中に……また変なDMかなぁ……、


「……!!!!秋斗さん!!!」

3ヶ月前に、削除してしまっていた

懐かしい青空のアイコンからのメッセージが届いていた。


『陽向、久しぶりに会えて嬉しかった。

今、家着いた。

また、明日、会えるの楽しみにしてる。

疲れてるだろうから12時待ち合わせ、キツかったらいって。時間ずらすから。』


わぁ、わぁわぁわぁ!!!!

秋斗さん、秋斗さんだぁー!

この、短くて、絵文字もなにも入っていない文章。

でも、所々優しさが滲んでいるんだよなぁ。


……そっか、そうだ!

今まで、勝手な妄想の彼氏さんを気にして、

当たり障りのない文章しか打てなかったけれど……


そうだ、いいんだ!

絵文字とか、つけたり……

ハートとか…………秋斗さん、嫌がる、かなぁ?


『秋斗さん、俺も会えて嬉しかったです(*^^*)秋斗さんに気持ち、伝えられて良かったです!

また明日も会えるなんて、夢みたい。12時で時間大丈夫です!早く会いたいです!今日はお疲れ様でした。明日もよろしくお願いしますっ』


さすがにハートは……ちょっと恥ずかしかった。

ピコン!

わ、早……。

送ってすぐにスマホが鳴って驚いた。


『その部活みたいな挨拶、相変わらずw』

『んじゃ、12時な。俺も、もう陽向に会いたい』



ぎゃーーーーーー!!!!!!!!!

ボフッっっ!!!!


立て続けにきたメッセージを見て

もう日付も変わっている時間だというのに

思わずベッドにダイブしてしまった。


ベッドの上で手も足も思い切りバタバタさせる。

そうでもしなきゃ、窓を開けて、叫び出しそうだった。


迷わずスクリーンショットした画像をもう一度見てみる。

……ふふふ、ふふっ、

俺も、もう陽向に会いたい!!

会いたいって!!秋斗さんがっ!!!


うわぁぁぁぁぁーーー!!!

スマホを持ったまま、ベッド掛け布団の上を泳ぎまくった。

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