目次
ブックマーク
応援する
6
コメント
シェア
通報

第70話 伝える④〜side秋斗〜

「……?付き合ってる?……え?山本さんと……えっ!?な、なんで?」


全部バラしてしまいたくなる。

あの眼鏡は優しそうな顔しておいて、2ヶ月おきくらいに取っ替え引っ替えだぞ。だから陽向も、そろそろ、あいつに捨てられる。

そんなような男、どこがいいんだ?

確かに、仕事できそうだし、金も持ってるし、……人当たり?外面は良さそうだけど……

そんなやつ、陽向が幸せになれるわけ、ない。

思い切って、言ってしまおうか……。


「山本さんは、今日、本当に数時間前、さっき、初めて会ったんですよ。誰かに……この数ヶ月の、事、誰かに、話聞いて欲しくて。だから、話し相手になって下さったんです。すごく、紳士で、大人の男性で……」

は?

え……?

さっき、会った?

え?……付き合ってるわけじゃ……ない?

頭が混乱している俺を放って、陽向はどんどん俺の知らない情報を話していく。

処理、しきれない。



「秋斗さんが働いているお店に連れて行ってもらったのも、偶然で。…………でも、山本さん、さすがですよね。すぐに……俺のこと、わかっちゃってました。それで、色々とアドバイス、もらったんです」

「……アドバイス?」


山本さんは良い人。という内容を次から次へと言われ、

さっきまでボロクソに言おうとしていた自分がとんでもない小心者だと言われているようで、恥ずかしくなる。


「……秋斗さんに、ちゃんと気持ちを伝えるってこと。背中を押してくれたのは山本さんだったんです。まさか……まさか、今日、また秋斗さんに会えるなんて、思っていなかったんですけど…………だ、だから!俺、山本さんと、付き合ってなんて、ないです!」


何故か怒ったように捲し立てる陽向。

はぁ、はぁ、と息をきらす背中を撫でてやりたくて、一歩陽向に近づいた。


「……だからっ、俺っ、えっと!」

両手を握りしめ、眉をよせ、潤ませた瞳、長いまつ毛、冷たさからか、泣いていたからか、赤く染まった鼻先。怒ったようにむっと尖らせた形のよい唇。

こんな寒い季節なのに、出会った頃と変わらない白い陶器のような滑らかな頬。耳にかかるサラサラの茶髪の髪の毛。







「陽向、付き合おう」







「えっ……。」

えっ?俺……、今、何て言った?

目を大きく開いた陽向の瞳に吸い込まれそうになる。


「あっ、……えっ、な、あき、と、さ……ん?」

その大きな瞳から、目が離せない。


「あ、いや、ごめん、俺、ごめん。えっと、今のは!その、なんて……いや、なんでも……」

大きな瞳が伏せられて、

陽向の顔が一気に、曇ってしまった。よろ、よろっと、2歩俺から後ずさってしまう。

また、まただ。

逃げんのか俺。

また、陽向を失って、いいのか?


告白だって、してきてくれたのは……勇気出して、気持ち伝えてくれたのは、陽向じゃないか。


どんどん後ずさって行ってしまう陽向に大股で近づき、その両肩を掴んだ。

陽向がびくっと身体を震えさせたのなんて、気が付かないふりをした。

言え、ちゃんと。

陽向と、ずっと、いたいって。


「ごめん、俺、びっくりするくらいビビりだわ。ごめん。でも、やっぱ、ちゃんと伝えたい。だから、聞いて。

俺……陽向に会うまで、誰のことも興味なかった。このまま一生、1人で生きていくんだって。別にそれが俺にとっての当たり前だった。感情もなくて、……ないわけじゃないんだけど、表には出せなくて、ロボットみてーだって、何度も言われてた。

でも、あの日、陽向に会って、その日から、毎日毎日、考えることは陽向のことばかりで。嬉しさも、もやもやも、どきっとする気持ちも、悲しさも、腕に抱いておきたいって、独占欲みたいな、気持ちも、一緒にいたいって気持ちも、人を……好きになるって、気持ちも……。全部、陽向が教えてくれた。全部、俺にとって、初めての感情だった。

陽向。俺、陽向の事が、好きだ。ずっと一緒にいたい。

だから、陽向。付き合って、ほしい。これからも、そばで、色んな気持ち、教えて欲しい。そして、それを、一緒に、隣で、笑って……いて、欲しい」


声が震える。口の中がしょっぱくなって、自分の目からボロボロと何かが溢れていることに気がついた。

泣いてるのか?俺……

感情が暴走してしまったのか、制御しきれない。

それこそ、壊れたロボットみてーだ。


でも、でも、言えたじゃねーか。

ちゃんと、言えんじゃねーか。


いや、ロボットなんかじゃ、ねぇよ。

ちゃんと、気持ちが、ある。

陽向の、そばに、いたいって。

陽向を笑わせて、やりたいって。


ゴシゴシとダウンジャケットで涙を拭くが、ダウンジャケットは涙を広げていくだけで、次々と勝手に出てくる涙を吸い取ってはくれなかった。


「……。」

陽向、なんで、黙ってる……?

怖い、怖い、怖い。

拒絶されたら、どうしよう、

怖い。



「……っあの、じゃあ、また、明日!!返事は明日でも!あの、メッセージでも、いいし、んじゃ、また、明日……えっと……12時に……ひ、東口?でいいか?」

「っあ、あの、っ!あきと、さん……」


何か言おうとしてくる陽向の髪をそっと撫で、身体の向きを変える。

逃げてる?これは、やっぱり逃げなのか?

いや、俺にはこれが限界だ。

これ以上はここが……頭の中が、

爆発してしまう。

それくらい、フルスロットルで火花を散らしながら動いている感覚だ。

だから、もう、これが、今日、俺の限界だ。



でも、でもっ!明日には、ちゃんと、聞くから……。

このまま、目の前で「付き合うのは、ごめんなさい」

なんて振られたら、

俺、自分で立ち直れる、気がしない。

一旦、振られるための、準備が、心構えが、必要だ。

どんなこといわれても、耐えるための、準備が……。



「んじゃ!また、明日! 疲れてるから、早く眠れよ?」

「あっ……」


何か言いかけた陽向の言葉に振り向かないと決めて

元来た道を急いで駆け降りていく。



なぁ、

俺、やったじゃん。


ちゃんと言えんじゃん、気持ち。


好きだって言ったし、明日も会いたいって言ったし、これからも一緒にいたい、付き合いたいって……


走りながら小さく何度も頷く。


駅前のすっかり人通りのなくなった道を気持ちよく走り抜ける。

コンビニの明かりが見えているけれど、

もう、ビールなんていらない。

久しぶりに抱きしめられた陽向のぬくもり、匂い、感触だけで

今日はきっと久しぶりにぐっすり眠れそうな気がした。



あとは、

あとは

陽向次第だ。

陽向も、付き合おうって、思ってくれていると、いいんだけど。


ガチャガチャッ!

バタン!


はぁ、はぁ、はぁ。

思い切り走ってきたから、息が苦しい。

でも、なんだ、この、

胸の真ん中がじゅわってあったかいの。


あったけぇ。

なんだよ、これ。


あぁ、陽向、陽向。


なんだかこの気持ち良さを消してしまいたくなくて、

玄関にそのままうずくまった。



とりあえず、どうなるにしても、

明日会える。

明日も陽向に会える。




それだけで俺は、きっと世界一、幸せだ。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?