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第69話 伝える③〜side秋斗〜

やっべぇ、恥ずかしすぎる。

好きな奴に、こんなカッコ悪い過去を自白するなんて。

でも、それでも、陽向には、俺の事、知って欲しい、聞いて欲しいんだ。


そんな俺でも、

好きに、なってくれるか?

やっぱり……もう、ダメか?


大きな目をさらに大きくして、首を傾げながら俺の目を覗き込む陽向。

やべぇ、可愛い……っじゃなくて……

やましい気持ちがぐんっと湧き上がってきてしまう。

それを必死に身体の底に押し込んで、無理やり笑った。


「ははっ、もー、ピアスの話はおしまいっ!だから、陽向ももう、あれのことは気にしないで。……よ、よしっ、もう、陽向の身体、冷え切ってるからさ、帰ろう。家まで、送る」


氷のように冷たい、陽向の指先をそっと握る。

「……」

「……?」


何か言いたそうな気がしたけれど、冷たいかじかんだ指先で俺の手を黙って握り返してきた。

陽向のアパートは知らないけれど、

陽向の指先を大切に握りながら

陽向がさっき向かっていた方に向けて足を進める。



ど、どうしよう。

ここから、先が、わからない。


好きだと、告白して、

相手も俺を好き、好きだった……?

それはもう過去形?


だったら、告白しあって、これで、どうすんだ?

友だち?知り合い?

もう、この関係は終わり?


何を聞けばいい?

俺はどうしたらいい?

陽向は、何を、望んでいるんだ?



わからない。

誰かを好きになった事も、

人に告白したことも、

その先も、

何を、どうすれば

もっと、陽向といられるんだ?


前みたいに毎日、他愛無いことでいいから連絡しあおう。

週一回、会おう。

セックスなしで、飯食うだけでいいから。

顔が見たい。話しがしたい。

陽向の、笑った顔が、ただ見たい。

あいつと別れろなんていわない。

だから、友だちとしてでいいから。

また、会いたい。

友だちでいてくれるなら、この先も会えるなら、この気持ち、押し殺す事なんて、容易い事だ。

それでもし、あいつと別れた時に、俺が良いと、少しでも思ってくれたなら……

その日までは、ただの友人。


それで、それで、充分だ。

この全く会えなかった3ヶ月を思えば……


……ははっ、どんだけズルいやつなんだよ、俺。

こんなだった?俺?

陽向に出会う前の自分はどんなだったか、思い出せない。



そういえば、

陽向の笑顔……どんだけ見てないだろう。

思い返せば、8月頃から、会うたびに辛そうな、泣きそうな顔ばかりだった。

俺が、きちんと話しておかなかったから、

俺が、好きだと伝えなかったから、

陽向をずっと不安にさせてしまっていたんだろう。

俺は、何であの時、陽向の気持ちに全く気がついていなかったんだ……。

自分が陽向を好きだと気がついたのさえ、高橋さんに、言われてからだった。

だせぇ。本当に。俺……なにしてたんだ。




あぁ、いつ、言おう……。

早くしないと、

陽向のアパートに着いてしまう。


駅から2本目の路地を左に曲がってから、ゆるい上り坂をゆっくりと上っていく。

駅の明るさはほとんど無くなり、等間隔の街灯の光が二人の影を造っていく。



「……。」

「……」

5分……いや、10分?歩いたろうか。

話すタイミングもわからないまま

二人ともただまっすぐ歩いた。

冷たい風が、顔にぴりっと突き刺さるが、

繋いでいる指先だけがじんわりと温かく、お互いの熱を分け合っているようだった。




坂を登りきった通り、陽向にぐっと身体を押されて右へ曲がった。

陽向も、何も言わない。

何、何を考えてる?

バクバクバクバク……

心臓があきらかに変な音を立てている。

アパートに着いたら、それで、最後なんだろうか。

この繋いだ手を、離さなきゃいけないのだろうか……。


また、陽向を失うのかと思うと、急に怖くなって、握っていた指先にさらに力を入れる

「ん……」

ぴくっと陽向の身体が跳ねた。

痛かった?……でも、どうしても手を離す気持ちにはなれなかった。


「……あ、えと、も、もうすぐ、つき、ます」

そう言ったかと思うと、俺の身体に寄りかかるようにふらっと陽向が道路の白線上に座り込んだ。

「あっ、おいっ!陽向!?」

「ぁ、ごめんなさい、なんだか、今日、色々、ありすぎて……泣いたり、したり、秋斗さんに、会えたり、一気に、なんだか、安心もして……疲れちゃって、」


座り込む陽向の身体を支えながら、陽向の顔を、道路沿いに建つアパートのエントランスの灯りを頼りに覗き込む。

目がとろんとして……口はゆるく開き、頬はほんのり赤くなっているように見えた。


それはまるで、

俺に抱かれた後の、陽向のようで……

その行為を思い出して

不謹慎にも下半身が反応しそうになる。


「っ、だ、大丈夫か?家まで、後、どんくらい?」

「……もうすぐ、もう、あと、2つ先の、アパート……」


駅から少し離れたこの場所は

同じようなアパートが建ち並んでいる。

ベランダの形を見ると、どこも大体1Rくらいの部屋のようだ。

大学も近いことから、一人暮らし向けのアパートが多いのだろう。

「立てそうか?もう少し、休むか?」

フルフルと頭を振る陽向から、シャンプーの甘い花の匂いが弾け飛び、俺の理性を試されているかのようだ。

……よしっ、と言いながら立ち上がる陽向の腰を支える。

陽向、やっぱり、痩せた、よな?

さっき、駅前で抱きしめた時も思ったけれど……。

コート越しでも、夏に抱きしめたあの時よりも、柔らかさが減っているのを感じる。

……やっぱり、俺の、せい?



陽向の腰を押すようにして、2軒先の白い外壁のアパートへと2人で歩みをすすめていく。


陽向、相当疲れてる、よな。

これ以上、今日、話すのは、無理か……?



「……ここ、です。……秋斗さん、反対方向なのに、家。すみません、送ってもらっちゃ、って……」

握ったままの指先を陽向がじっと見つめる。

家に帰りたいから、離せってことか……

でも、待って、次の約束を……どうにか……

でも、

なんていったら、いい?

頭の中から必死に言葉を引き出そうとするが、どれが正解なのか、まったくわからない。


「あの……秋斗さん……。あの、こんな遅くまで、本当、すみません、……明日、お休み?ですか?」

「あ、うん…。」


うんって、なんだよ!陽向が火曜休みなのも知っている。

明日も、会えないか……誘え、俺!


「あ、明日、陽向も、暇なら……昼飯、でも、食いに、いくか?」

ぶちぶちと途切れ途切れでしか話すことができない。

バッ!と陽向が顔を上げる。


「……!?っえ!…いっ、いいんですか!?」

いいんですか、はこっちのセリフだ。

こんな俺なんかと、まだ、飯、行ってくれるのか……。


休みなら、本来ならあの眼鏡と、デートでもあったんじゃねーの?

あんだけ泣いてたってことは、喧嘩でもしたのか……

振られ、たのか?


「陽向こそ、あいつと……予定ないわけ?……その、つ、付き合ってんだろ……?あの、えっと、山本……だっけ?……なのに、他の、男と、会ったりしてて……その……」

「……?付き合ってる?……え?山本さんと……えっ!?な、なんで?」


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