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第65話 伝える①〜side陽向〜

花⚪︎駅に戻ってきた……。

月曜日だから東口には、行きたくない。

この3ヶ月、そうやって逃げてきた。



でも、

山本さんに聞いて、教えてもらえたじゃないか。

ちゃんと、気持ちを吐き出す事。

伝える事。

気持ちを抑え込むのは、逃げているのと一緒だって。

嘘をつきながら生き続けるのと、一緒だって。



そう、

俺は、秋斗さんが好き。

これは過去形でもない。

今もずっと好き。

人を好きになることは、これは恥ずかしい事でも何でもない。

だから、もう、東口から逃げたりしない。

秋斗さんに、またいつか会えた時に、

ちゃんと気持ちを伝えられるように、

隠したり、逃げたりしない。

それが、前を向くってこと。一歩踏み出す事。


『HINAくんの気持ち、自分で救ってあげなきゃ。つぶして、隠して、無かった事になんて、苦しいだけだよ。  その気持ち、相手にもこんな風に伝えてみなよ。それでさ、振られたらそこでその気持ちは報われるのかも知れないし、相手もそこで何が変わるのかもしれない。かも知れないしか言えないけれど、でもね、伝えなきゃ何も変わらないよ。このままじゃ、HINAくんはずっと、前には進めない。』


もらえた言葉を何度も心の中で復唱する。


そうだ、俺は逃げてばかりだった。

彼氏さんがいても、良いじゃないか。好きになっちゃいましたごめんなさい。秋斗さんが大好きです。


それをちゃんと、伝えることなく、

自分に嘘ついて、秋斗さんにも嘘ついて、逃げた。

秋斗さんの気持ちも聞かないで。


だから、だから……次に、いつ会えるのか、わからないけれど、また、今日みたいに偶然会えるのかもしれないし、

駅で会えるかもしれない、道ですれ違うかもしれない。

そうだ、その時の為に、ちゃんと真っ直ぐ前に進まなきゃ。



うんうん、なんども自分へ言い聞かせる。

逃げるのはもうやめよう。

男が好きだっていいじゃないか、俺の人生なんだから。周りの目から隠れて、人も、自分の事も信じようとしなかったのは俺だ。


ふう、息がきれる。

ゆっくりと深呼吸しながら歩いて、東口のあの柱の所までちゃんと、来れた。


この柱で、秋斗さんに、出会って

何度も、待ち合わせ、して、

夜中に、会おうって言ってくれた日も、あったな……。

最後と、決めた日に、待ち合わせたのも、ここ。


白い柱をそっと撫でる。

ぶわっと視界がぼやける。


また……

もう、涙、空っぽになったろ。

もう、もう、出てくるなよ。


秋斗さん、秋斗さん。

カッコよかった。あの店でのユニフォームを着た秋斗さん。

話もできなかったし、目もそらされちゃったし、名前も呼んでもらえなかったけれど……


やっぱり、大好きだ。


うっ、ひっく、ひっく……もう、なんで、泣くんだよ、俺。

どうしたら、止まるんだよ、これ……。

さっきから泣き過ぎて、歩くのも、ふらつく。

泣くってすごい、体力使うんだ、なぁ。

ちょっと、落ち着いてから、帰ろう……。

ぼやける視界のまま、ふらふらとコンビニの前の数段の段差に座り込む。


ぼやけた視界でも、街路樹の隙間から見える黒い空に、いくつも星が瞬いてるのが見える。今日は新月なんだろうか、月は見当たらなかった。


あぁ、こんな所で座ってたら、コンビニの人に怒られちゃうかな……

でも、少し少しだから、涙が止まるまで、少し……。


ううっ、秋斗さん、会いたいよ。

ちゃんと、会って、話ししたいよ。

触りたい、触れられたい。

秋斗さん、秋斗さん。


うう、さむっ……。

12月の風が容赦なく冷たいコンクリートに座り込んだ身体を冷やしていく。

ぶるっと震える身体を抱きしめながら、犬か猫のように身体を丸めて、涙が止まるのをじっと待つ。


あと、5分、5分だけ、こうさせていて。

もう、泣き止むから。

心の中でコンビニの店員さんにお願いをする。





うっ、ひくっ、

はぁ、5分なんて、ずいぶん前に過ぎてしまったかもしれない。

もう、帰らなきゃ。

あと、10秒だけ、泣いたら、帰ろう。

あーあ、明日、目がぱんぱんだろうなぁ。

いいんだ、明日、仕事、休みだし。

でも、よかった、山本さんに会えて。

心残りは、あのお店のご飯の味を全く覚えていない事だ。

あーあ、ティラミス、もう一回、味わって食べたいなぁ


「ひっ、陽向……?どうした……?」




……え。

この声……。

……まさか

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