花⚪︎駅に戻ってきた……。
月曜日だから東口には、行きたくない。
この3ヶ月、そうやって逃げてきた。
でも、
山本さんに聞いて、教えてもらえたじゃないか。
ちゃんと、気持ちを吐き出す事。
伝える事。
気持ちを抑え込むのは、逃げているのと一緒だって。
嘘をつきながら生き続けるのと、一緒だって。
そう、
俺は、秋斗さんが好き。
これは過去形でもない。
今もずっと好き。
人を好きになることは、これは恥ずかしい事でも何でもない。
だから、もう、東口から逃げたりしない。
秋斗さんに、またいつか会えた時に、
ちゃんと気持ちを伝えられるように、
隠したり、逃げたりしない。
それが、前を向くってこと。一歩踏み出す事。
『HINAくんの気持ち、自分で救ってあげなきゃ。つぶして、隠して、無かった事になんて、苦しいだけだよ。 その気持ち、相手にもこんな風に伝えてみなよ。それでさ、振られたらそこでその気持ちは報われるのかも知れないし、相手もそこで何が変わるのかもしれない。かも知れないしか言えないけれど、でもね、伝えなきゃ何も変わらないよ。このままじゃ、HINAくんはずっと、前には進めない。』
もらえた言葉を何度も心の中で復唱する。
そうだ、俺は逃げてばかりだった。
彼氏さんがいても、良いじゃないか。好きになっちゃいましたごめんなさい。秋斗さんが大好きです。
それをちゃんと、伝えることなく、
自分に嘘ついて、秋斗さんにも嘘ついて、逃げた。
秋斗さんの気持ちも聞かないで。
だから、だから……次に、いつ会えるのか、わからないけれど、また、今日みたいに偶然会えるのかもしれないし、
駅で会えるかもしれない、道ですれ違うかもしれない。
そうだ、その時の為に、ちゃんと真っ直ぐ前に進まなきゃ。
うんうん、なんども自分へ言い聞かせる。
逃げるのはもうやめよう。
男が好きだっていいじゃないか、俺の人生なんだから。周りの目から隠れて、人も、自分の事も信じようとしなかったのは俺だ。
ふう、息がきれる。
ゆっくりと深呼吸しながら歩いて、東口のあの柱の所までちゃんと、来れた。
この柱で、秋斗さんに、出会って
何度も、待ち合わせ、して、
夜中に、会おうって言ってくれた日も、あったな……。
最後と、決めた日に、待ち合わせたのも、ここ。
白い柱をそっと撫でる。
ぶわっと視界がぼやける。
また……
もう、涙、空っぽになったろ。
もう、もう、出てくるなよ。
秋斗さん、秋斗さん。
カッコよかった。あの店でのユニフォームを着た秋斗さん。
話もできなかったし、目もそらされちゃったし、名前も呼んでもらえなかったけれど……
やっぱり、大好きだ。
うっ、ひっく、ひっく……もう、なんで、泣くんだよ、俺。
どうしたら、止まるんだよ、これ……。
さっきから泣き過ぎて、歩くのも、ふらつく。
泣くってすごい、体力使うんだ、なぁ。
ちょっと、落ち着いてから、帰ろう……。
ぼやける視界のまま、ふらふらとコンビニの前の数段の段差に座り込む。
ぼやけた視界でも、街路樹の隙間から見える黒い空に、いくつも星が瞬いてるのが見える。今日は新月なんだろうか、月は見当たらなかった。
あぁ、こんな所で座ってたら、コンビニの人に怒られちゃうかな……
でも、少し少しだから、涙が止まるまで、少し……。
ううっ、秋斗さん、会いたいよ。
ちゃんと、会って、話ししたいよ。
触りたい、触れられたい。
秋斗さん、秋斗さん。
うう、さむっ……。
12月の風が容赦なく冷たいコンクリートに座り込んだ身体を冷やしていく。
ぶるっと震える身体を抱きしめながら、犬か猫のように身体を丸めて、涙が止まるのをじっと待つ。
あと、5分、5分だけ、こうさせていて。
もう、泣き止むから。
心の中でコンビニの店員さんにお願いをする。
うっ、ひくっ、
はぁ、5分なんて、ずいぶん前に過ぎてしまったかもしれない。
もう、帰らなきゃ。
あと、10秒だけ、泣いたら、帰ろう。
あーあ、明日、目がぱんぱんだろうなぁ。
いいんだ、明日、仕事、休みだし。
でも、よかった、山本さんに会えて。
心残りは、あのお店のご飯の味を全く覚えていない事だ。
あーあ、ティラミス、もう一回、味わって食べたいなぁ
「ひっ、陽向……?どうした……?」
……え。
この声……。
……まさか