目次
ブックマーク
応援する
6
コメント
シェア
通報

第53話 想い②〜side秋斗〜



……。

ふん、アホみたいだわ、ホント。

違う意味で忘れらんねぇ日になるな……。

好きな奴に振られて、身体だけの関係を最後にまで求められた。だっせー失恋記念日だわ。


「もう、いいから。……セックスが、したいんだろ?」



椅子に座って下を向いていた陽向の細い二の腕をつかむ。

そのまま自分のベッドへと沈めた。

邪魔な衣服をはぎとっていく。


好きだと気がついた相手に、好きな奴がいる。

そんな相手に、最後に抱けといわれて

一体どんな顔して、どんな風に抱いたらいいっていうんだ。


優しくしたい、大切にしたい。

だけど、陽向……お前には好きな奴がいるんだろ?

今まで

俺に抱かれている時に、何を思って抱かれていたんだ?



白く柔らかな肌に、

昨日つけたばかりの赤い跡が、花びらのようにいくつも残っていた。

くそ、くそ。

もっと、もっと濃く、強く……

一生消えないように、つけてやろうか?


そして

その肌を、もう誰にも見せられないほど……

どうしようもなくめちゃくちゃにしてやりたい衝動。

自分でも止められないくらい、怒りにも似たこの感情を、俺は知らない。


「っあっ!!」

気がついたら首筋に噛み付いていた。

びくっ!!っと陽向の身体が浮き上がる。


……やば、痛かった?


そっと陽向の表情を伺うと、瞳には溢れそうなほどの涙が光っていた。

くそ、くそ、くそっ!!!

なんで、お前が泣くんだよ。

俺が……俺の方が、泣きたい。

振られたのは、俺だろ?



「……くそっ、……後ろ、向いて。……顔、みたく、ない」

ぽろっ……。ぽろぽろっ

目に溜まった涙がいくつも溢れ出た。

傘から落ちた水滴のように、綺麗な雫。


陽向、何で泣いてるんだよ、誰を思って、泣いてるんだよ。

俺の知らない誰かを思った涙なんて、見たくもない。



ぐいっと肩を掴みうつ伏せに寝かせる。

腰を高くして、陽向が動けないよう、ぎゅっと捕まえる。



酷いやつだと思えばいい。

こんなめちゃくちゃに抱かれた事を

一生忘れなければいい。


そして、俺じゃなきゃ満足できない身体にして

俺の元に帰って来ればいい。


昨日、俺を受け入れたばかりのそこに

思い切り熱を押し付ける。



「あ……ま、まって……あっ、っっんんんん!」


振り向いて抵抗しようとする陽向の肩をベッドに押さえつけ

陽向の身体を貫いていった。


「っい、いた……っう、ううっ、」


「くっ、あまり締めんな……最後、なんだろ?……陽向が、満足するまで、抱いて、やるよ」


自分からあまりに低く悪魔みたいな声が出て、

ぞっとした。

まぁ、している行為もまるで悪魔のようだ。

陽向の身体をこれほど気づかわずに抱いたことなんて、

ない。


陽向の悲鳴にも似た声、いやいやと抵抗するように枕に押し付ける頭を見ないふりをして

ただただ、

陽向の身体に俺を刻みつけていった。



「っうわっ、すっげ……中だけでいってんの?」

「……っあ、あ、も、もう、はぁ、はぁ、」

「もう?……まだだろ?……はぁっ、好きな奴に抱かれてるとでも、思って、はぁっ、最後まで、付き合えよ?」



意地の悪いことしか言えない。

こんな事、したくなかった。

好きな奴、大切に、宝物みたいに、そっとそっと、優しく触れたかった。

理想と現実がかけ離れすぎて

これが夢である事を祈るしかない。




ふと見たベッドサイドのデジタル時計は

14:46だ。

もう、1時間以上、抱き続けている。

陽向の声も掠れ、身体は小さく痙攣しっぱなしだ。

ほとんど力も入っていない。


なのに、激しくし続けてしまう。

そうだ、このまま意識を失え。

そして、もっと……まだ、もっと一緒にいたい。


今日が終わらないように。

いつまでも腕の中に閉じ込めておいてしまいたい。



「っはぁ、も、もう、あ、あき、と、さ……んっ」

陽向がこっちを振り向こうとするが、力が入らないのか、そのまま枕に顔が沈んでいく。


これが最後のゴムだ。

いってしまいそうになるのを必死で堪える。

まだまだ、終わりになんて、したくない。


一旦動きを止め、ふぅーーー、と大きく息を吐く。

窓の外が薄暗くなってきていた。

そういや、夕方から、雨が降るって書いてあったな。


傘も持ってないだろうから、

なぁ、雨が止むまで、ここにいろよ。

お願いだから、あと、少しだけ。

今日が終わるまでは、一緒に、いないか?



陽向が帰ろうとしたら、そう伝えてみようか。

最後くらい、きちんと気持ち伝えよう。



友だちだって、ただのセフレだって、

別に一緒に雨宿りくらいするじゃないか。


そうだ、うん、なんも変なことじゃないだろ。


ふぅ。

一つ息を吐き、

ぐぐっと再び奥深くまで熱を押し付ける。


再びゆさぶられ、溢れ出てくる陽向の掠れた甘い声を脳内

できちんと記憶する。



「あきと……さん、…………、……き」

「っはぁ、な、なに?なんか、言った?」



枕越しにもごもご、力なく話していて、よく聞こえない。

もう、限界なのかもしれない。

陽向の全身からがくっっと力が抜けた。


思い切り奥を抉るが、もう甘い声も聞こえなくなってしまった。

やばい、大丈夫なのか、陽向……、

でも……っ、とまんねぇ。


「……陽向っ、好きだ、陽向っ、っっくっ」


聞いていないから、いいだろ。

みっともなく、未練たらたらみたいな、告白したって。

最後の熱を陽向の奥へと注ぎ込み、

力なくぐったりしている陽向の上に覆い被さった。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?