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第52話 想い①〜side秋斗〜

……



……、




…………。

何を言われているのか、

わからなかった。




ぺちょっ……。


あまりに美味しそうにケーキを食べる陽向につられて食べた、フルーツタルトのマスカットの果汁がすごく美味しくて、

続いてフォークに刺した洋梨が黒いテーブルに落ちて鈍い水音がなった。



全然脳みそが処理しきれない。

聞き間違いかもしれない。

な、なに?……今日で、会うの、おしまい……?どういうことだ?


え?

陽向は、俺のこと、好きでは……ない?

俺の、ただの、勘違い?




「でも、その、えっと……最後に、あの、秋斗さんが、よ、よ、よかったら、えっと……、え、えっち、して、欲しいな、なんて、こ!これは!俺の勝手な、あの、願望なのでっ、昨日も、してもらっといて、な、なに言ってんだか、で、すよね?っ、無理でしたら……だ、大丈夫ですっ!」


何を言ってるんだろう。

最後に、エッチ?

は?……なんでそんな思い出作りみたいなセックス、

そんなん、俺が辛いだけだろ。

しかも、今日が最後……そんな相手にどうやって、どんな顔して、セックスするんだ?


陽向はそこまでして、セックスがしたいのか?

た、確かに最初は初体験がしたい……と言っていた。

そのままズルズルと誘って、身体を繋げていたのは事実だ。

でも、セックスだけじゃなく、毎日連絡のやり取りもして、ケーキ食べに行ったり、夜だって、会いに来てくれただろ?

え……?

そういえば、先週は、連絡もなく、会えなかったけど……体調悪かった、からだよな?

まさか……

それが、もう、会いたく無いっていう陽向からの意思表示だったのか?


全て、俺の、勘違い……?


意味が……

意味がわからない。


心臓がどくどくどくとあまりに激しく鳴って、鼓膜にまで響いてくる。




カチャ!


目の前のケーキをぐしゃぐしゃにしてしまいそうで、

フォークを慌てて置いた。


ごきゅ……

喉がなる。

聞きたいことがたくさんあるのに、

みっともなく唇が震えてしまう。


「それ、俺とのこの関係、精算したいって、こと?もう、会わないって、こと?」



やっとで、言えた。


やめろ、やっぱり嘘です、間違いだと、言え。

お願いだ、陽向。



そんな願いを打ち砕くように

陽向は大きく頷いた。


まじか……。

すっと目の前が真っ暗になってくる。

アホだな、俺。



「好きな奴、いんの?」

こんな事聞いても、自分の傷を抉るだけだとわかっているのに、

口から勝手に出てきてしまった。


バッ!と陽向が顔をあげる。

その顔をまともに見れる自信がなくて慌てて窓の外を見た。




「……好きな人……、い、います。大好きで、大好きだから、苦しくて。だから……もう……」


ふーん、大好き……か。

大好きな奴いて、俺と会うのが苦しいってのに

じゃあなんでセックスはするんだよ?

本当に俺は、性欲処理の相手だったってこと?


陽向にうっかり暴言を吐いてしまいそうになり

目の前のアイスコーヒーで流し込んだ。


ふぅ、一度深呼吸。

このままずっと座りっぱなしじゃ、埒があかない。

いまだにみっともなく震えている唇を

必死に動かす。


「…………ん、わかった。好きな奴いんじゃ、仕方ねぇよな。……てか、好きな奴いんのに、俺に最後に抱かれるわけ?……そこらへん、よくわからないんだけど。  ま、俺たち、セックスの相性だけは、良いもんな?」


震えた声、バレてないだろうか?

紛らわすように、音を立てて椅子から立ち上がる。


いいよ、

わかった、

最後なんだろ?


最後に、めちゃくちゃになるまで、

抱いてやる。


他の奴のことなんか、忘れるくらい。

俺のじゃなきゃ

満足できない身体に……


クローゼットの引き出しを開ける。

ローションは半分。ゴムはあと3つだった。

ちっ、5つくらいあったら……朝まで抱き潰せたかもしれない。

それでここから出られないようにし……


……っ、俺、なんてこと考えてんだ。

陽向を、監禁でも、するつもりか?




ポスッ……

下を向いている陽向を横目で見ながら、

ベッドにゴムとローションを放り投げる。



「え……?」

「すんだろ?セックス……服、脱いで」


気をつけて声を発しないと、震えてしまいそうで

小さな声しか出せない。




「あ……い、いや、その。秋斗さん……が、えっと……」

秋斗さんが、なんだよ?

もう、最後なんだろ?陽向はそのつもりで抱かれにきたんだろ?


アホみたいだ、俺。




陽向がこの部屋に来ると思うと、目覚ましのなる前に自然と目が覚めた。

部屋の隅々まで掃除して、トイレや風呂場も念入りに掃除した。

駅のケーキ屋の時間を検索する。 10時の開店と同時に店に入った。

今まで男が1人でケーキ屋なんて、無理。とか思っていたが、陽向のためだ、またあの笑顔で食べている姿を思うと、何の抵抗もなくあっさり店の中に入れた。

陽向が好きそうなケーキはどれだ?

どれが良いかなんてわからなかったから

オススメ、とか人気No.1と書いてあるケーキを選んだ。



陽向、これ見たら喜ぶかな。

崩れないようにそっとケーキの箱を冷蔵庫へしまい、

朝から干していた布団をひっくり返す。



そうだ……ピアス!

今日、今日、俺の気持ちを伝えながら、これ、きちんと渡そう。

玄関に置きっぱなしだった紙袋を取り、部屋のどこに置いておこうかと見渡す。

あの頃から、思えば俺は、陽向が好き、だったんだろう。

無意識のうちに、陽向の喜ぶ顔が見たかったんだろう。


よし、渡し方、練習しておこう。

みっともなくがっついてセックスの流れになってしまわないように……。

ベッドに座らせて、きちんと、気持ち伝えて、それから、渡す。

着けても良いというなら、俺が着けよう。俺と同じ右耳に。

ピアス、喜んでくれっかな?

あの時、欲しそうにしてたもんな。

やっと、やっと渡せる……!

手の平サイズの小さな紙袋をそっとベッドの下に隠した。

気持ちを伝えた後のセックスって、どうなるんだろうか……今まで以上に、気持ち良いんだろうか?

知りたい。

ま、陽向が連日セックスすんのはキツいっていうなら

キス……キスだけでも良い。

ってか、俺うまくキスできんのか?

自分からキスなんて、したことない。

今までのキスは相手から一方的にされたものだった。

キスしたいなんて、思ったことも無かった。


あ……。ふと

昔の数回だけ会ったやつに言われた言葉が蘇ってくる。

『はぁ!?あんた、好きでもないやつにキスしてたわけ!?最低!人の気持ち弄んで楽しかった!?キスしてくれたら、自分のこと好きなんだって思うのフツーでしょ!?秋斗のそういうところ、人の心がないロボットみたいだよ!!』


その後、バシーンッと二日間顔が腫れるくらいに引っ叩かれたんだったっけ。

はぁ?勝手に勘違いしてんのはお前だろ?

俺はお前のこと好きだと思ったこともない。キスしようって言われたから、しただけだろ?

でもまぁ、ロボットっていうのは、納得できる。

俺には感情ってもんがないのかな?と思うほど、人の気持ちなんか全然わからない。……というより、他人に踏み込むのが面倒くさくて、そして、他人なんかを信じる事が怖くて。

1人でも生きていける。


って、思ってたなぁ。

今となって、やっと、あの言葉の意味と、顔は忘れたが当時、何度か寝た奴が怒っていた気持ちが少し理解できた気がする。






好きな奴の唇に触れるって、想像するだけでこんなにも、興奮するもんなんだな……。

スマホの画面を点ける。

まだ11:00だ。早く約束の13:00にならないか……

あと少し、あと少しで陽向に会える。

今日が付き合う記念日とかになんのか?

それなら俺は一生9月3日は忘れられない日になるだろう。


陽向、陽向。

好きだ、陽向。

早く、会いたい。




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