突然大きな声を出してしまった。秋斗さんは驚いたように俺の顔を見た。
「……昨日も、メッセージで言ってたよな。話あるって。……俺も、渡したいもん、あるんだ……っでも、先に陽向の話から、して?」
ごきゅっ。
喉から変な音がした。
じっと見てくる秋斗さんの目からふっと目線を逸らすと、あの、黒いリングピアスが目に入ってきた。
そう、そうだよ。優しくされたからって、だめ。
一人暮らしだからって、何ほっとしてんの。 この人には彼氏がいるんだからさ。
「あ、あの……っ。」
喉に何かがつっかえて、言葉が出てこない。
「ん?ゆっくりでいいから。待ってるから。」
そういうと秋斗さんはフルーツタルトのゼリーがついたマスカットをフォークで刺して口に入れた。
勢いをつけたくて、目の前のショートケーキの残りを一気に口に入れた。
「ふっ、慌てて食べすぎ……誰もとらねーよ」
秋斗さんに笑われてしまった。
「っん。っあ、あのっ!!」
言え!言うんだ、ちゃんと!
「今日で!今日で、おしまいにしたいです。こ、こんな風に、会うの!あのっ!……俺のわがままから始まって……っそ、そのまま、秋斗さんに、甘えてしまって、いました。……で、でもっ、……もう、こんなの良くないのでっ、あの、今までっ、ありがとうございましたっ!あの、今日の、ケーキもっ、」
ぺちょっ……。秋斗さんのフォークに刺さっていた洋梨がテーブルに落ちた。
はぁ、はぁ、はぁっ、
一気に言ったから、息が苦しい。
でも、言えた、言えた!ちゃんと。
秋斗さんの顔、見れない。どんな表情、してるんだろう?
落ちた洋梨をじっと見ながら考えていた言葉を必死に捻り出す。最後のわがまま、聞いてくれるだろうか。
「でも、その、えっと……最後に、あの、秋斗さんが、よ、よ、よかったら、えっと……、え、えっち、して、欲しいな、なんて、こ!これは!俺の勝手な、あの、願望なのでっ、昨日も、してもらっといて、な、なに言ってんだか、で、すよね?っ、無理でしたら……だ、大丈夫ですっ!」
なんていうお願いしてるんだ。俺は……。でも、最後に、もう一度秋斗さんに抱いて欲しい。俺の、初めての人。
カチャ!
フォークが皿にぶつかり音がする。
「それ、俺とのこの関係、精算したいって、こと?もう、会わないって、こと?」
低く、静かな声が、頭の中に響く。
こく、こく、と必死に頷く。
「好きな奴、いんの?」
秋斗さんからのまさかの質問で驚いて顔を上げる。
その瞬間、秋斗さんは窓の外を見てしまった。
「……好きな人……、い、います。大好きで、大好きだから、苦しくて。だから……もう……」
秋斗さんの綺麗な横顔を見ながら、告白する。
秋斗さん、あなたのことだよ。
あなたのことが、好きなんです。
この気持ち気がついて欲しいけれど、最後に、困らせたくない。「秋斗さんが好きなんです」なんて。言えない。
じんわりと視界がぼやける。
自分で言っておいて……秋斗さんに会えるのが最後だと思うと、悲しすぎて、寂しすぎて、勝手に涙が溢れていた。
「…………ん、わかった。好きな奴いんじゃ、仕方ねぇよな。……てか、好きな奴いんのに、俺に最後に抱かれるわけ?……そこらへん、よくわからないんだけど。 ま、俺たち、セックスの相性だけは、良いもんな?」
がたっ、秋斗さんが立ち上がりクローゼットへと向かった。……どうしたんだろう。
ガタガタ……っと何かを探っている音がする。
ポスッ……
ベッドに秋斗さんが放り投げたものをみて、驚いて秋斗さんを見た。
「え……?」
「すんだろ?セックス……服、脱いで」
秋斗さんは自分が放ったローションとゴム3個を枕元へと移動させ、ベッドに座った。
「あ……い、いや、その。秋斗さん……が、えっと……」
「もう、いいから。……セックスが、したいんだろ?」
腕を掴まれ、椅子からずり落ちるようにしてベッドへと寝かされた。
いままでにない乱暴な手つきで服を剥ぎ取られていく。
すぐに、昨日、秋斗さんの熱を受け入れた所にローションを垂らされる。
俺の顔の脇にあったゴムを秋斗さんは雑な手つきで取った。
「ん。……ま、まって、あの、えっ、秋斗、さんっ……」
必死に目を開けて秋斗さんの胸板を両手で押し返すがびくともしない。
そんな、乱暴なエッチ、嫌だ。最後に優しく、抱いて欲しかっただけなのに、な、なんで?
秋斗さんの顔を覗き見ると、眉間に皺を寄せて、怒ったような、ひどく苦しそうな表情をしている。
どうしたんだろう。やっぱり、俺のこと、もう嫌で、エッチなんてしたくなかったんだろうか……俺が最後に、抱いてなんて変なお願い言ってしまったから……
勝手にじわりと涙が浮かんでくる。
「……くそっ、……後ろ、向いて。……顔、みたく、ない」
ひくっと喉が震える。顔も、みたくないの?
そんなに、嫌われていたんだろうか?
ぐいっと肩を掴まれて、身体を反転させられた。
お尻をぐっと高く上げさせられて、まるで猫のポーズみたいだ。
枕に顔が埋まって、うまく、呼吸ができない。
溢れる涙が枕に吸い込まれていく。
ぐっと熱すぎる熱が押し当てられる。
「あ……ま、まって……あっ、っっんんんん!」
ぐぐぐっとそこをこじ開け、身体を串刺しにされるかのような衝撃が、痛みと共に襲う。
「っい、いた……っう、ううっ、」
「くっ、あまり締めんな……最後、なんだろ?……陽向が、満足するまで、抱いて、やるよ」
低く、静かな声が後ろから聞こえてきた。
もうどれだけ、身体の中を抉られ続けているだろう。
始めは痛かったはずなのに、だんだんと気持ち良い所を探られ、そこばかりを攻められ、さっきから身体がずっと勝手に震えている。
膝がガクガクして、力が入らずにベッドにぺたりとうつ伏せてしまった。
「っうわっ、すっげ……中だけでいってんの?」
「……っあ、あ、も、もう、はぁ、はぁ、」
「もう?……まだだろ?……はぁっ、好きな奴に抱かれてるとでも、思って、はぁっ、最後まで、付き合えよ?」
好きな人に、抱かれてるよ。
だから、痛いはずのこの行為すらも秋斗さんがしてくれていると思うと、嬉しくて、気持ちが良くて。このままずっと繋がっていたくて……。
やっぱりさっきの言葉は嘘だったと、取り消したくなる。
また、来週の月曜日に会って欲しいなんて、言ってしまいそうになる。
だからきつく唇を噛む。
もう、頭の中が真っ白になっていて
あぁ、秋斗さんが好き。それ以外、考えられない。
ずるりと
内臓を押し潰されているような圧迫感が無くなる。
ん……?
ぼやける目をそっと開けると、枕元に3つ置かれていたはずのゴムの最後を秋斗さんが手に取る所だった。
これで、ゴムも無くなっちゃう。
最後かぁ、
最後なんだ……。
枕はすっかり湿ってしまっていた。
「……はぁ、はぁっ……尻上げて?」
あげようとしても、全身どこにも力が入らない。
動かない俺に焦れたのか、ぐいっと腰を高く持ち上げられる。
「力、抜いててな?……っはぁ、」
「っんんんんんっ、っあ、あっ、お腹、くるし、」
身体の奥の奥まで秋斗さんが入り込んでくる。
ギシッギシっ、ミシッっとベッドがおかしな音を立てる。
壊れちゃわないかな……
大丈夫かな……
力の入らない手を必死に動かして、ベッドのよれたシーツを掴む。
秋斗さん、少しは気持ちよく、
なってくれてるかな……
ぼおっとして、起きているのか寝ているのかもわからない。
「あきと……さん、…………す、……き」
「っはぁ、な、なに?なんか、言った?」
がくがくと全身をゆさぶられ、もう言葉にならない声ばかりが勝手にでるだけだ。
もう、だめ……。
そのまま、もう何も考えられずに、全てが真っ白になり目を閉じた。
「……陽向っ、好きだ、陽向っ、っっくっ」
最後に、こんな夢見たいな事を言われてる夢をみながら、白の世界へ真っ逆さまに落ちていった。