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第46話 自覚〜side秋斗〜

「陽向……なんか、腹減ってない?どっか、食べにいく、か?この近くなら、ラーメンとか、牛丼とか、少し行ったらファミレスとかもあるし……」

「え……?あ、い、いや、えっと、これ以上は、あの、コンビニで、買って帰ります!」


え……?

あんま、腹減ってない系だ。

作戦失敗。


じゃあ、コンビニ飯を俺ん家で食べようかと、誘ってみるか。きっとスイーツならいくらでも食べるだろ、陽向。



「……そっか、んじゃ、コンビニ、寄るか。……コンビニで買って……ちょっと、…………家で、食べる、か?」


「……?はい。」


首を傾げながらも頷いてくれた。

よし、作戦成功!

って、こんなことなら家、掃除機かけとくんだったー!

変なもん置いたままにしてねーよな?

って、玄関にあん時のピアス置きっぱだ……やべ。

……いや、渡すチャンスなのか?

『これ、あの時の?』と気がついてもらえたらチャンスじゃねぇか!

よし、よし、よし、いけ、俺。


コンビニでウロウロとデザートコーナーを楽しそうに見ている陽向。

その手には冷やし中華とシュークリームが乗っている。


冷やし中華?結局腹減ってんのか?

見てたら食べたくなったって感じか?


「ははっ、まーた甘いもん。夜にこんなあまいもん食ってたら、太るぞ?」

さらにプリンに手を伸ばした陽向に、苦笑いしながらも、甘そうなスイーツの乗せられた冷やし中華の容器ごと受け取り自分のカゴへと入れ、会計に向かった。



なんでなんだろう、

陽向にはなんでもしてやりたい、買ってやりたい、

それで嬉しそうにしてくれたらいい

何故かそんな気持ちがいつも湧き上がってくる。



コンビニで陽向のものを一緒に買うのも、

陽向だから買ってやりたいと思うのであって、他の奴には到底出てこない感情だ。


つまり、

俺は自覚する前から、陽向のこと、気になってたってことなんだろうか……

そんな前から?



そして、陽向は

俺のこと、いつから好きで、いてくれていたんだろうか?


聞きたい、聞いてみたい、もっと、話したい。




「なにしてんの?いくぞ」

トートバッグに顔を突っ込んでいる陽向の脇を会計済みのレジ袋をぶら下げて通り過ぎる。



「あっ、は、払いますっ!いつもご馳走になってばかりでっ」

「いいって……んじゃ、いくぞ」


てか、誰かを家に上げるなんて、

初めての事だ。どーしたらいいんだ?

ま、飯食うだけ。

それで……それでもし、陽向がこのまま泊まりたいといったら、そんなラッキーなことはない。

歯ブラシ、予備あったよな?部屋着も俺の貸せばいいし。デカいかもだけど。

客用の布団なんてないから、ベッドで2人で寝るようだけど……陽向ちっこいから平気か……、てか、ベッドでくっついて眠って、俺が色々と我慢しきれるのかは怪しい……。

うん、でも、それでタイミング見計らって、気持ち伝えたら……それからは毎日恋人?付き合えるのか?

毎日陽向に会う事を許されるのか?

付き合うって、どういうことだ?ずっと一緒にいられるって約束なのか?

イマイチよくわからないが、陽向とこれからも一緒にいられるのなら、陽向もそれを望んでいるのなら、付き合いたい。

うわっ……。顔が頬が自然と緩んでしまう。俺、マジでやばいやつだ。


「秋斗さんっ、あ、あのっ、冷やし中華っ、お、俺の……」


俺のだいぶ後ろから陽向の声がした。

え?

てっきり俺の後ろからついて来ているとばかり思っていたら、陽向はコンビニから数歩動いたところで、困ったように立っていた。


「え?」

どうしたんだ?陽向を置いて浮かれて歩いていた事が急に恥ずかしくなり、陽向のそばに慌てて戻った。

「あ、あのっ、秋斗さん、冷やし中華、袋に、入ったままで……す、すみません。俺、家反対だから、間違って持って帰ってしまったら、ご迷惑おかけして、しまうので……」

「え?帰んの?」


え?どういうことだ?俺、変なこと言った??

家で食べるって聞いたら、はい、って言ってたよな?え?


「あ、は、はい。もう、帰ります」

「……そ、っか。……陽向も、明日、休み、だよな?」


やっぱり、帰りたくなったんだろうか。

セックスしてあんだけ眠るくらい、やっぱり体調良くなかったのかもしれない。


手に持っていたコンビニ袋から自分の弁当とコーヒーだけも取り、

冷やし中華とスイーツの入った袋を陽向へ渡す。


「あっ、袋、秋斗さんが…どうぞ!」

「俺、家すぐそこだからいい。……んじゃ、また後で連絡する。明日……予定空いてたら…………ん、いや、また連絡するわ。じゃあな」


うわ、俺、何言おうとしてんだ!?

今会ってんのに、明日も、会いたいとか、どこの恋愛ドラマだよ。

恥ず……。


変な汗が額から流れてくるが、それを見られないように、陽向を未練がましく振り返ったりせずに、家へと小走りで帰った。



……バタン、

ふぅ。

玄関で靴も脱がないまましゃがみ込んだ。

やっぱり、俺、おかしいわ。

あのまま、陽向を抱きしめて「帰るな。俺ん家に来いよ」とか口走ってしまう所だった。

これが、好き。って気持ちか?

好きって、やばい。

まじで、陽向の事しか考えられなくなる。


早く、この気持ちを伝えないと、

これ、いつか膨れすぎて爆発すんじゃないだろうか……?





ふう……。

1人、いつもの見慣れた部屋に戻ってきた。

電気をつけて部屋を見渡すと、

朝、ベッドに無造作に脱ぎ捨てたままの部屋着、蹴っ飛ばしたままの掛け布団。

今朝飲んだままのコーヒーカップに、グラノーラを食べた皿がシンクに置かれたままだ。

ゲームのコントローラーも床に転がっている。


よかった……こんな雑な所見られないで……。

『え、秋斗さん、結構部屋汚いんですね』

なんて言われたらかなりショックだ。

陽向、気が変わって

あのまま帰ると言ってくれてよかった……



ラブホで軽くシャワーは浴びたけれど、髪は洗ってないので、サッパリしたくてもう一度入ることにした。

洗濯機から乾いた衣服を取り出し、ベッドへと放る。

そこから気に入っている黒いバスタオルを手に取り、衣服を脱ぎながら洗面所へと戻り、ドアを閉めた。




ザーーーーーー、

シャワーの雨に打たれながら、ガシガシと髪を洗い終えると、ラブホでの陽向がふと脳内に再生された。


あの可愛い顔で、俺が初めての相手、しかも回数を重ねる毎にどんどん敏感になる身体。

甘く高く掠れた声。

快感を逃すためにどんどん全身に力が入り、俺の熱はその締め付けをもろにくらった。

わ、やばい、また……。

先程の滑らかな肌の陽向の乱れた姿を思い出し、下半身が一気に熱を持つ。

一度なんかじゃ、足りない。二度、三度、

いや、一晩中、朝まで抱いてみたい。

そうしたらさらに、どこまで感じて、乱れてくれるんだろう。

あの身体は俺しか知らないのだと思うと、とてつもない快感?なのか、優越感?なのか、よくわからない感情がぐつぐつと湧いてくる。



自然と下半身に手が伸びる。

すでに固くなりすぎたそこは、陽向の体内を思い出し、真っ赤に腫れていた。


まるで、初めてセックスを知ったかのように

一向に治らない熱。治るどころか、もっと、もっとと貪欲になっていく。

固く目を瞑り、陽向の姿を思い出す。 腹の奥から、煮えそうなほど熱い熱を吐き出し、そっと目を開けた。

吐き出した白濁がシャワーのお湯と共に排水口へと流れていく様子を、息を整えながらぼーっと眺めた。


……陽向。





あいつ以外のことを考える事を忘れてしまった気がして、

ベッドに座りながら、サッカーゲームの試合に夢中になってみる。



ボフッ…………


loseの文字が大きく表示され、コントローラーを枕元に投げ捨て、ベッドに寝転がる。

……負けた。

ゲームに集中出来なくて、変なミスばっかだ。

今日は1勝3敗。ボロ負けだ。


でも……悔しくない。陽向、今頃何してんだろ。

疲れてたから、家で爆睡してんのかな。

そうだ、スマホ……陽向からメッセージ来てないか?

ベッドサイドのデジタル時計を見ると23:59と間も無く日付が変わる。


明日、陽向予定無いかな、無いならランチでも一緒に、どうかな……。南口には飲食店多いから、たまには南口に行ってみても良いかな。

俺たち、あの前に行ったケーキビュッフェ以外にはラブホしか行ったことないし……。



ピコン……!

窓際のテーブルに置いておいたスマホが鳴る。

「!?」

俺のスマホが鳴る時はほとんどがニュース。

それ以外の通知は陽向からだ。

急いでベッドから立ち上がる。


「……!陽向だ」


『秋斗さん、火曜日ですが……今日、会えませんか?きちんとお話したい事があります。少しの時間でもかまいません』


よっしゃ!

ガッツポーズって勝手に出ちゃうもんなのか?

人生で初めてガッツポーズなんてしてしまった気がする……。

陽向も、俺に会いたいと思ってくれてる?

嬉しい、嬉しい!


って、きちんと話って、なんだ?

あいつも、俺のこと、好きとか?告白してくるつもりなのか?

やべ、顔がニヤける。

陽向から伝えてくれたら、俺もきちんと、隠さずにこの気持ちを伝えよう。

誰かに告白するなんて、初めてだ。

「……好きだ。陽向、俺も、好き……」

う、うわぁーーーーー!!!!!!!!


口に出した途端にむず痒くて、あまりの恥ずかしさにベッドにダイブして枕に頭を埋めた。言えるのか?言えんの?こんなん、本人前にして。


ふぅ、と深呼吸して、乱れた息を整えてから返信を打ち込んでいく。


『俺も明日暇だから、何時でもOK。どこかでランチ食べる? 話っていうから、店じゃ話しづらかったら俺の家でもいいし』


なかなか来ない返事。

ゲームを消してベッドに横になりながら陽向からの返事を待つ。

遅い……

今までの陽向との他愛もないメッセージのやり取りを読み返して待つ。

だんだん眠気が襲ってきた0:35、再びスマホが震えた。


『ありがとうございます。じゃあ、13時にいつもの所で待ち合わせでも良いですか? 話はあまり人に聞かれたくないので、もし秋斗さんが平気なら、秋斗さんのお家にお邪魔しても良いですか?お昼は食べてから行きますね』


ランチは無しか……ま、そのくらいの時間の方がゆっくり掃除もできるしな。

そうだ、午前中に駅前のケーキ屋でケーキでも買っておくか。

あいつ、喜ぶだろうな。


『了解!それじゃ、13時に。陽向、疲れてんだからこんな時間まで起きてて大丈夫なのか?ゆっくり眠れよ?』


そう送り終えるとスマホの電源を消し、ベッドサイドに繋ぎっぱなしの充電器を差し込む。


「やべ、嬉しい。二日連続で会えるとか……」

しかも、陽向から誘ってくれた。


そのまま枕を抱きしめたまま、すぅっと意識が遠のいていった。


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