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第45話 自覚②〜side秋斗〜

自分の欲望のまま、

あまりに自分勝手なセックスをしてしまった。

痛くはなかっただろうか……

無理してなかったろうか?

途中、泣かせてしまった。

我慢していたのだろうか。

傷、ついていないだろうか……。

あっという間に吐き出してしまった熱が全く冷めないどころか、さらに熱を持っている。

できればもう一度したい……いや、時間が許す限り抱いていたい!


という邪な気持ちがバレてしまったのだろうか……

陽向は意識を失うように、眠り始めてしまった。



やっぱり、疲れていたのに、無理させてしまったのだろう……。

腕の中ですやすやと寝息をたてている陽向の顔を

もう1時間近く眺めている。

一向に起きる気配はない。

長いまつ毛がしっかりと伏せられていて

綺麗な瞳が見られないのは残念だ。

あれ、夜には見られないんだよな、日中の太陽の下で見た、あの目にビー玉でも入ってんのかと思うほど、キラキラした瞳。また見たいな。



そっと腕をずらし、枕にふわふわの髪の毛を沈める。

……あと数分で延長料金になってしまう。

でも、1時間くらいなら……。

あまり遅くなってしまうと陽向も困るだろうし……

21時前に起こすか……。


「…ふぅ、先、入るか……」

そろそろシャワーでも入っておこうかと、ベッドの縁に座る。

その振動が伝わったのか陽向が身じろぎした。

やべ、起こした?

「……んん。……あ、きと、さ……ん」

ぶわっと全身が熱くなる。

俺の名前!?俺の名前、呼んだ!?

え?まじで?……陽向の夢の中にも、俺はいるのだろうか?

夢の中の俺はどんなだ?

陽向を泣かせたりしていないか?

素直に、気持ち、伝えているか……?


今すぐ起こして聞いてみたい衝動を、グッと抑える。

「陽向……」

耳元で囁くとむにゃむにゃと少し笑う。

可愛い、なんだよ、これ。可愛すぎる。

運動したわけでもないのに一気に火照る顔が急に恥ずかしくなって手で顔を覆った。


俺、多分、相当やばい。

好きって、やばいな。

そいつの全てが可愛く、愛おしく見えてしまう。

一種の麻薬だ。

きっともう、こいつから、抜け出せないだろう。

そんな気がして仕方がない。


陽向を起こしてしまわないよう、そっとシャワールームのドアを閉めた。







「ひなた?……おい、ひなた?……なぁ、おーい、陽向?」

ただ寝顔を眺める。無駄な時間なはずの行為。

それがこんなに胸が締め付けられるほどの、よくわからない感情が湧き上がってくるなんて、

数週間前の俺ならありえないことだっただろう。


でも、そろそろ起こしてやらないと。

チェックアウトの時間20分前だ。

シャワーもしなきゃいけないし。

それとも、身体拭いてあげた方がよかったのか?


そんなことした事ないからわからない。



優しく肩を揺すりながら声をかけていると

ゆっくりと長いまつ毛が動き、

とろんとした瞳がぼーっと辺りを見渡している。


「ん……?ここ、どこ?……あ、あれ?」


「陽向、ごめん。気持ちよさそうに寝てたからさ、1時間延長したんだけど……チェックアウトの時間、迫ってて」



俺の顔を見た瞬間、陽向の大きな瞳がさらに大きくなり、ベッドから飛び上がった。

「わぁっ!!!ご、ごめんなさい!俺、寝ちゃってました!!」


その肩をなだめるように優しく撫でる。


「いいって。相当ぐっすりだったな。疲れてた?それとも、そんなに気持ちよかった?……まぁ、陽向、シャワー浴びてきちゃえよ。俺はさっき入ったから」


困った表情の陽向は、ベッドのシーツを手繰り寄せて、身体に巻きつけると、

よろよろとベッドから立ち上がった。

「本当、ご、ごめんなさい!すぐ、シャワーしてきちゃいます!」

「慌てないでいいから」

つい、寝癖のついた髪をそっと撫でた。


よたよたとシーツを引きずりながらシャワールームへ向かう陽向を見て、勝手に頬が緩んでしまう。

そんなだらしない顔、陽向にみせらんねぇわ。

慌ててスマホの画面をつけた。



スマホでニュースをみたり、送られてきた9月後半のシフトを確認する。

よし、賢太が復活してるから、毎週月曜はランチに固定されている。良かった。これで、毎週、陽向に会えるようになる。 高橋さんに……悔しいけど、水曜勤務の時にお礼でも言っとくか。



ガチャ……

「すみません、お待たせしました。急いで、着替えますね……」

「……っ、」


腰にタオルだけ巻きつけた陽向が出て来た。

俺が夢中になって、うっかりつけてしまったキスマークが陽向の白い肌にくっきりと残ってしまっている。

それも1箇所ではない……。

さすがに、自分の余裕のなさが恥ずかし過ぎて、陽向から目を背けた。

枕元においておいた服一式を顔も見ずに渡す。


「……ごめん、気がついた?……跡」

「?な、なにがですか?」


わざとなのだろうか、それとも天然なんだろうか?

その跡があちこちについた身体で俺の隣に座り着替え始める。


た、試されてる?お前がこんなにしたんだろ?って?

いや、陽向のことだから、き、気がついてない?

気がついていないことを祈ろう。

気まずくて仕方なくて、気を紛らわすために、バッグから昼間に買っていた、恐らく気の抜けた炭酸のペットボトルを陽向に渡す。


「……、い、いや、いいや。はい、これ、もう気が抜けてるけど、飲むか?」


「ありがとうございます!頂きます」

ごくっ、ごくっと動く喉のラインまで綺麗で思わず見入ってしまった。


「んじゃ、行こうか?」


あと少し残っている返された炭酸を全て飲み干し、ゴミ箱へ捨てた。


寝てしまっていた事が恥ずかしいのか、落ち着かなくもじもじとしている陽向の背中をぽんぽんと叩く。





2人で駅へと向かう。

こんなに、近かったっけ。あっという間にいつものコンビニの前に着いてしまった。


どうしよう、どうしよう、まだ、別れたく、ない。

もう少し、いや、なんなら明日休みなんだし、

明日まで一緒に……

って、そんなこと言ったらドン引きされるんだろうか。

と、とりあえず夕飯でも誘って、時間稼ぎだ。

普通のカップル達はこういう時、どーしてんだ?


ってか、俺らはカップルでもないか……。

俺が、この気持ち伝えたら……カップルに、なんのか?

なら、ならちゃんと伝えた方が良いのか?

でも一体、どんなタイミングで?


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