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第44話 自覚①〜side秋斗〜

俺は陽向が好きなのか……

好き

好きってなんだ。


好き……子どもの頃は

確か好きなものがあったはずだ

サッカーの選手

アニメのヒーロー

誕生日に買ってもらったでかいラジコン

キラキラの芸能人


なにかを、誰かを、好きだと、簡単に『好き』を自覚していたのは

高校の始めの頃までだったはずだ。

隣のクラスのバスケ部の顧問。

そいつが俺の自覚していた好きの最後だったはずだ。

結局、男しか好きになれない男なんて

異常な存在だと、世の中というものを知るたびに、思い知らされるばかりだった。



そこからは一切、他人と感情を持って接するのをやめた。

大学の時は誰一人友だちなんて言える奴はいなかった。

というか、作らなかった。

いらなかった。


男が好きな奴と、誰が友だちになんてなる?

男が好きだと告げた瞬間から変な目で、化け物でも見るような目で見られるだけだ。

ゲイがこの世にいるなんて思いもしない奴らは

彼女いんの?経験人数どんくらい?どんなやつがタイプ?

お前モテんだろーから、選び放題だろー?

今度女紹介しろよ。 〇〇がお前に彼女取られたってよ?


こんなお決まりの言葉ばかり投げつけてきて

人の心をズタズタにする。

もちろん相手になんの他意もないことはわかっている。

それでも

まだ10代だった俺の心を傷つけるには十分なナイフだった。



何人か性欲処理のために会ったセフレ達も

今じゃ名前はもちろん、顔すらも出てこない。

相手の生活スタイル、性格、好きなもん、そんなん全く興味なんて湧かなかった。

とりあえずセックスができれば良かった。



あいつ……

陽向も最初はただの興味半分、性欲処理のためだった。

なのに……


自分から会いたいなんて思う相手……今までいなかった。

笑顔が見たいなんて思う相手

月曜日だけじゃない、毎日顔がみたい、

何をしてるのか知りたい

あいつの気持ちが知りたい

あいつを傷つける存在から、あいつを全身全霊で守ってやりたい。


こんな気持ち……。

俺の人生の中で初めて湧き上がってくる、どうしようもない気持ち。


これが好き……

人を本気で好きになるって事なのか……?



月曜日が待ち遠しくて仕方がない。

早く会って、この気持ちが本当なのか、確かめたい。

こんな時に限って、スマホの調子も悪く

陽向とまともに連絡も取れない。

でも、無事だということはわかった。




こんなに長い1週間は、初めてだ。

水曜日にやっと届いた陽向からのメッセージ。

『月曜日、行けなくてごめんなさい。ずっと待たせてしまって、ごめんなさい。今度の月曜日、話したい事が、あります』

あの、二宮?だっけな、店長から俺のことを聞いたのだろう。

2日ぶりに取れた連絡に心底安心した。

しかし、やっぱりスマホの調子が悪いのか、

陽向からなかなか返事が返ってこなくなった。

まず、こっちからのメッセージも送れているのかも謎だ。

確かめようにも他にメッセージなんてする相手もいないから

何が原因かもわからない。

アップデートもされている。

どうしたんだろう。陽向の方がスマホに詳しそうだから月曜日に会った時に聞いてみようか……。

てか、話ってなんだろ?

陽向の事だ。この前の月曜日に、行けなかった事の謝罪だろう。

別にいいのに。

陽向が無事なら、それで。








好きだと気がついてから

初めて会った陽向。まだ体調は万全ではないのか、疲れた顔をしていた。

だけど……もう、目の前に現れた陽向に、

我慢の限界だった。

やべぇ、可愛い。

抱きたい、

抱きたい。

俺だけのモンにしたい。



何度目かのラブホのベッド。

足がもつれてしまい、陽向に思い切り体重をかけて押し倒す形になってしまった。

細い手首を握りしめ、首筋に舌を這わせる。

仕事後なはずなのに、汗の匂いなどなく、ふわっと香るコーヒーの落ち着く香りと、ココナッツのような甘い味がする。

手のひらで触れた肌はまるで吸い付くかのように、もちっと弾力があり、

たまらず身体のあちこちに触れ、唇で吸い付いた。

「ごめん、1ヶ月、してないから……余裕、ない、痛かったら、ちゃんと、いって」

初めてセックスをすんのか?というほど、

全く余裕なんてなくて。

早く抱きたい!陽向の目に俺だけを映しておきたい!


そればかりで、腕の中に陽向がいることが、こんなにも胸がいっぱいになるのかと、驚いた。


「っあ、あぁっ!!あ、っあきと、さんっ、んっ、そこっ、……!」

陽向のゆるく開いた唇から、とろとろとした甘い声が漏れきて、

その声は自身の下半身に痛いほど響く。

「ひなたっ、ひなた!……っ陽向!」

何度も何度も口が勝手に陽向の名前を呼ぶ。

それ以外の言葉を忘れてしまったかのように、

気がつくと陽向としか、言っていなかった。


「ゆっくり、ゆっくり、挿れるな?」

それは陽向へ向けてではなく、自分へと言い聞かせた言葉だ。

ふぅ……

大きく息を吐く。

欲望に負けて一気に突っ込んでしまったりしないよう、

決して、陽向の身体を傷つけたりしないよう……。


先端をぐぅっ、と潜り込ませた途端、

目の前が真っ白になるほどの締め付けにあった。


うわっ、やっば……!!!!

全身に電気が走る衝撃に必死で耐えながら、

半分ほど勢いに任せてねじ込み、そのまま陽向に抱きつき、必死に店のワインの名前と産地を思い出す。

そうでもして気を紛らわせなければ、みっともなく、挿れただけで一度目の熱を大量に吐き出してしまう所だった。


ぎゅっときつく陽向を抱きしめ、

一度目の大きな波をなんとか超えていく。

はぁ、はぁっ、はぁ……

勝手に乱れる息を整えながら、陽向の顔を覗き込み、血の気が引いた。


きつく瞑った目尻から、つつっ、と涙が伝い、シーツにまで染みを作っていた。

え……!い、痛かったのか!?やばいっ!

きちんと、ゆっくり慣らしてあげないまま、挿れてしまった自分を殴りたくなる。


「陽向?泣いてる。やっぱ、痛い?無理してない?」

恐る恐る尋ねると

陽向はふるふるとゆるく首を振り、そっと俺の背中に手を回してくれた。

よ、よかった……、嫌われて、ないだろうか……。



ゆるく開いた、陽向の熱で赤く染まる唇が目に入る。

キス、したい。

キスしたい。

ここに触れたら、どれほど気持ち良いのだろう。

キスしたまま繋がったなら、自分の気持ちが伝わるかもしれない……。


「な、陽向?…………キス……しても、いい?」

もうキスする前提で、唇が触れ合うギリギリの所で踏みとどまって、親指で真っ赤なそこをなぞり、一応、確認してみた。

陽向も、俺を好きなら……良いと言ってくれるだろう。

陽向が頷くのを待ちきれずに少しずつ唇を近づけていく。


鼻先がぶつかる。あと、少しで、唇が触れ合える。

そっと目を瞑りかけたその時、


「キ、キスは……こ、こ、恋人と、したい!……です」


思い切り顔を逸らされてしまった。

……そ、そうか、俺たち、恋人でもないし、

しかも、俺がキスしないって条件をしていたんだ。


そうだよな、突然こんなこと言われたら、

困るよな。

ちゃんと、俺の気持ち伝えてないから……


「そっか、そうだよな。恋人とするもんだよな……あのさ、陽向は…………っ、いや、違う、今じゃないよな……、うん、ごめん」


こんな状態で、陽向のこと、好きになったなんて言われたくないだろう。

きちんと、きちんと向き合って、伝えないと。

キスはそれからだ。


って、先に身体から入る関係でいいのか?

本来なら、好きになって、告白して、付き合ってから、キスをしてからセックスだろう。

陽向はそれで良いだろうか?

このまま、恋人になりたいと言って、信じてくれるだろうか。

身体目当ての奴だと思われないだろうか……。

……人を好きになるって、大変だ。

今まで考えた事もないことを必死で考えて、

答えも出ないことの答えを延々と探している。


でも、何だろう。

今までには感じたことのない、胸がぎゅっとなって、あったかくなって、それを考えずにはいられなくなる。


熱を差し入れているそこがきゅうっと思い切り熱を締め付けてくる。

もう動いて、良いだろうか?

少しだけ腰をゆする。

「っあ……、ん、、」


陽向の口から甘い声が漏れた。


大丈夫そうだ。

ゆっくりと、ゆっくりと、と思うのに

結局その中の気持ちよさに抗えず、

自分の良いように動く。


繋がってる。俺と、陽向。

全部、このまま全部欲しい。陽向のこと。



夢中で陽向の感触、甘い声、香り、全てを全身で堪能した。

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