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第29話 困惑③〜side秋斗〜

「あぁーーー、秋斗さんっ、本当にごちそうさまでしたっ!すんごい美味しかったです!!あぁー、もうあんなにケーキ食べたの生まれて初めてで、幸せですー!」

ホテル近くの駅ビル。そのまま電車に乗って帰る気は何故か全く起きず、自然と吸い込まれるように店の中に入って行った。

特に見たい店なんかないけれど、とりあえずぶらぶらとしてみるか。

陽向はいつも後ろをちょこちょこついてくる。

隣歩けばいいのに。何で後ろなんだ?


ちらっと後ろを振り返ると、軽く浮いているんじゃないかと思うほど、上下にぴょんぴょん跳ねる陽向がニコニコしていた。

 そのぴょんぴょん跳ねる身体から細い腕を捕まえると、ぐいっと引き、自分の隣に移動させた。

「えっ………?」

「なんか後ろからついてこられんの、なんかぞわぞわするからやめてくんない?」

陽向のさっきまでの笑顔が固まって、真顔になってしまった。やべ。

「あ、えっと、そうですよね、なんか後ろからじゃ、ストーカーみたいですよね、ご、ごめんなさい」

「いや、別に……謝ることじゃ、ないけど……」

突然、叱られた仔犬みたいにしょぼんと隣を歩く陽向。え?俺のせい?

いや、別に怒ってねーし。本当のこと、言っただけだろ。


意味のわからない沈黙が続く。

欲しいもんもないし、陽向が何が好きかもわからずただ、いくつもある店舗をぶらぶらと覗くだけだ。


あ、あっちにアクセサリーの店がある。ピアス見たいわ。この間は軟骨のしか買わなかったからな。

「あっち、見ていい?」

指を指そうとした瞬間、ぱしっと陽向の手に俺の手がまともに当たってしまった。

「あ、わり……」

え?……謝ろうと見た陽向の頬は、茹でられたみたいに真っ赤に染まっていった。

「あっ、だっ!だいじょぶっ!です!アクセサリー!俺も見たいですっ!い、いきましょ!」

突然AIロボットみたいな喋り方だ。なんだこいつ?歩き方もぎしぎししていて、完全ロボだ。変なの、なんなんだよ、ほんと。

 なんか、いちいち、ほんと、見てて飽きねーやつ。



「わっ、これ、すごい綺麗!」

リングのピンクゴールドのピアスを見ながら陽向は目を輝かせている。

「あぁ、でも、8700円かぁ……ピアスにこんな、出せないよなぁ」

ぶつぶつとピアスに話しかける陽向。

それは形がシンプルで、男女問わずつけられることから、カップルなどがお揃いで付けられると人気らしくて、

色も黒、ゴールド、シルバー、ピンクゴールドの4色がある。

そのコーナーの周りには男女がお揃いで付けている耳のポスターがいくつも貼られていた。

確かに……シンプルな作りだが、発色がとても綺麗だし、変にゴツさもないから、どんな服でも違和感なく付けられそうだ。

「んー、なーんか、俺でも買える、お手頃なのないかなぁー」

陽向はぶつぶついいながら店の奥のコーナーを覗きに行った。

陽向に、似合いそう。

……勝手に手が動き、黒のリングピアスと、ピンクゴールドのリングピアスを手に取っていた。



「プレゼント用にお包みできますが、いかがなさいますか?」

左右にじゃらじゃらと、明らかに付けすぎなほどピアスをつけた女の店員が聞いてきて、ふっと我に返る。

え……?

俺、これ、どーするつもり?

2万円近い会計をカードで済ませてから我に返った。


自分では絶対に付けるはずのない、ピンクゴールドのリングピアスが

透明なケースの中で光っている。店員が早くしろ?と言うように俺の顔をじっと伺う。


「あ、こっちは、ぷ、プレゼントで……」

プレゼント?は?な、なに、言ってんだよ、誰が?誰に?

「かしこまりました。メッセージカードもお付けできますが……」

め、メッセージ!? 俺が固まっているのを見かねたのか

「お誕生日でしたら、こちらとか、日頃の感謝…とか、サプライズプレゼントとかでしたら、こちらとか」

『happy birthday!』『for you』『いつもありがとう』『だいすき!』など身体が痒くなってきそうなほど、ハートだらけのカード一覧を見せられる。

「あ、いや、普通に……、あの、なんもなくて、いいです」

「かしこまりました。ラッピングに少しお時間頂きますので、店内をご覧になってお待ち下さい。」

と言うと、女店員は自分用の黒いリングピアスを小さな紙袋に入れて、渡してきた。

それをなぜか隠すようにショルダーバッグの中に突っ込んだ。


いや、本当に待て、俺。

何してんだ?あんなん、陽向に渡してどうすんだ?

しかも、ただの身体だけの関係の奴にピアスなんてもらって、気持ち悪くないか?


困ったように「え、こんなの、もらえないです」

と突き返される映像を頭の中でリアルに想像してしまった。

今なら、返金してもらえるか?するなら、今だ。自分用の黒いピアスだけで、十分だ。

受け取ってもらえないなら約9000円、捨てたようなもんだ。さすがに痛い出費すぎるだろ。

そうだ、早い方がいい、ラッピングが終わる前に……

身体の向きを変えレジへと戻る。前屈みになりながらラッピングをしている女店員に声をかけた。

「あ、あのっ!」

「あ、お客様、お待たせ致しました。丁度ラッピング終わりましたよ。はい、こちら商品でございます」

早く受け取れ、とばかりに持ち手に無駄に高そうな紐が使われた、小さな紙袋を目の前に突き出された。

「あ……、ありがとう、ございます」

今更、やっぱりいらないと言うタイミングがなかった。

どうすんだ、これ。

「ありがとうございました。またお越しくださいませ」

お決まりの挨拶をされ、その場から動くしかなかった。








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