歩きながら勝手にニヤけてしまう頬を止められない。
わぁ、わぁっっ!!!3時間、3時間も一緒にいられた!しかも、笑ってくれた!
秋斗さん、秋斗さん!
嬉しくてたまらない。この3時間だけは、秋斗さんが自分だけを見ていてくれたのかと、自分とだけ、いてくれたのだと思うと、胸がぎゅっとなる。
パタン……。
よろよろと靴を脱ぎ、冷蔵庫の前に座り込む。
トートバッグからすっかりぬるくなってしまった、ペットボトルを取り出した。
プシュッ!!!!シュワシュワシュワ!!!!
「あっ……」
振り回されて逃げ場を失った炭酸が溢れ出てくる。
どんどん溢れ続け、ジーパンの染みを広げていく泡をぼーっと見続けた。
なんか、なんか、俺みたいだ。
溢れて止まらない、好き、の気持ち。
秋斗さん、やっぱり、大好きだ。
抱かれれば、抱かれるほど
どんどん好きが溢れていってしまう。
このまま抱かれ続けたら、俺はどうなって、しまうんだろう?
溢れきって、3分の1ほど減ってしまった炭酸飲料が、小さな泡を立てて、静かにゆれた。
溢れ出過ぎたら……無くなっちゃうのかな、こんな風に……。
この気持ちも、いつかは、消えていくのかな?
だと、いいんだけど。
『今んとこ、次の月曜、予約2件だけだから、大丈夫そう』
『いつも通り18時すぎに、いつもの場所で』
『陽向、仕事終わりだから、なんか食べたいのあったら買っとくけど。』
秋斗さんから送られてくるメッセージを宝物にして、次の月曜日を心待ちにする。
秋斗さんと会えることを考えたら、何でも張り切って頑張れた。すごい、秋斗さんパワー。
月曜日の仕事はいつも以上に時間が経つのが遅くて、つい時計ばかりみてしまう。
早く18時になれ!でも、仕事に手を抜くわけにはいかない。
退勤時間丁度に来たお客さんの接客を終えると、急いでバックヤードへと向かった。
早く、早く。秋斗さんが、待っててくれる。
2週間連続で会える!!!やった、やったぁ!!!今日は……今日も、延長、してくれないかなぁ……なんて。欲張りすぎ、かな?
「いただきまーす!」
ラブホのベッドで、秋斗さんが買ってきてくれたハンバーガーに齧り付く。こんなもの食べる場所じゃないし、せっかくの2人きりの時間を無駄にしたくなかったから、家に持って帰ると言ったら、
「いーから!腹減ってんだろ?食え。食わないとセックス中へばるぞ?」
と包み紙を剥かれた具が沢山入ったハンバーガーを目の前にぐいっと出された。
「んーーー、おいしいっ、すごい野菜たっぷりだぁ」
「野菜好きなんだ?甘いのは?」
秋斗さんは俺の隣に座り、俺が食べているのをじっと待ってくれている。
ここはこんなのんびりハンバーガーを食べる場所じゃない。少し焦りつつ、口についたマヨネーズを、紙袋に入っていた紙ナフキンで拭った。
「甘いのも好きです!ケーキとか、タルトとか、パフェとか!見た目も可愛くて食べるのもったいなくなっちゃいますよね?」
「ははっ、ぽいわ。俺は甘いの苦手だから、もったいないとか、わかんねーけど」
秋斗さん、甘いの苦手なんだ。一つ秋斗さんの事、知れた。嬉しい。今度、何かいつものお礼に、甘くないものお返ししよう。
ハンバーガーをあと2口くらいで食べ終わりそうになった時、
ピリリリリリ、ピリリリリリ、ピリリリリリ……
秋斗さんの黒いジーンズの尻ポケットに入れていたスマホが鳴った。
「あ……わり、ちょっと、出るわ」
スマホの画面を見た途端、秋斗さんの表情が険しくなった。
ガチャ……。ガチャン。
スマホを持って部屋を出て行ってしまう。……なんだろ、俺に、聞かれたらまずいこと、なのかな?
いけない事とはわかっていても、何を話しているのか気になって耳を澄ませてしまう。
誰だろ……?