「ふっ、会ってない間も、ちゃんと後ろ使って、1人でしてたんだ?3週間あいてんのに、ちゃんとすぐ、拡がる」
「っあ、あっ、んんっ、」
どうして、こんなところに、指を入れられているだけで気持ちが良いんだろう。
「っあ、あのっ、おれ、ひとりでっ、んんっ、すると、ぜんぜん、きもちくっ、っあっ!っん、なくてっ、でも、しなきゃって……っん」
「え?気持ち良くないで1人でしてんの?は?どーいうこと?」
ずるりと指が抜けていってしまう。
「何か観ながら抜いてる?前もいじってる?ちょっと、やってみて」
ベッドに沈んでいた上半身をぐいっと起こされ、座る姿勢になった。両足を左右に大きく拡げられてしまい、人には決して見せない所を秋斗さんに全て見せてしまう格好だ。
恥ずかしすぎる、こんなの。
え?ちょっと待って、今、秋斗さん、なんて言った?やって、みて?
え?秋斗さんの前で?
全身からぶわっと汗が噴き出る。
「手、出して」
言われた通りに差し出した右手にぷぢゅっとローションを垂らされた。
秋斗さんが……見てるのに。
その瞳から逃れたくて目をキツく瞑る。
いつも1人でそっと触れているそこに中指を差し込む。
「ん……」
「もう少し、そう第2関節くらいかな?ちょっと硬いとこあんだろ?そこ、ぐにって押してみ?」
言われた通り、恐る恐るそこに触れると、身体中に電気が走る。目をつぶっているのにチカチカして眩しい。
「……っ!!!やっ、……ん、あぁっだ、だめ、みないでっ」
「ん、出来てんじゃん。ちゃんと、感じてんじゃん?ほら。……オカズ動画わかんねーなら、ネコなら、抱かれてんの想像したら、興奮しやすいんじゃねーの?」
「え……」
そ、そんなの、そんなことしたら、
秋斗さんに抱かれる事しか想像できない。
そんな事に勝手に秋斗さんを使うなんて。俺がして良いことなの?
「俺も、まぁ、抱くの想像して抜いてるし」
…っ!秋斗さんも、1人でするんだ?彼氏さんもいるのに……すごい。
『誰を抱くのを想像して?』なんて、怖くて絶対に聞けない。
現実を知るのが怖い。
このままずっと月曜日ならいいのに。
そしたら秋斗さんにずっと俺だけを見ていてもらえるのに……。
秋斗さんの汗が、俺の頬に垂れてくる。
眉根をぐっと寄せる表情がカッコ良すぎて、蕩けきった頭の中、必死に目を開けて、その表情を盗み見た。
「っ……、いくっ!……」
より一層、何かを堪えるような表情になり、秋斗さんの全身が震える。
「っはぁっ……っはぁ、はぁ、ごめん、ひさし、ぶりだから、とまんね。やば、もう7時半……はぁ、はぁ、ごめん、時間、1時間、延長してもいい?」
「っあっ、ん、は、はいっ、……はぁっ、だ、だいじょぶ、ですっ」
一度目の熱を秋斗さんが吐き出して、俺に全体重を預けながら言ってくれた。
なんて、なんて嬉しい事を言ってくれるんだろう。
まだ一緒にいられるんだ。
今日は3時間もずっと。
嬉しくて嬉しくて、身体のあちこちがひきつれるような痛みなんて、全部ふっとんで、そのまま全てを秋斗さんに預けた。
4回目のエッチも最後まで、秋斗さんに気持ちの良いことばかりされ続け、3時間が、あっという間だった。
ラブホを出て、いつものコンビニで2人でドリンクを選んでいると
「尻、大丈夫?」
突然顔を覗き込まれた。
ぶわっと顔が一気に熱くなる。
そ、そんなこと、コンビニなんかで話すことじゃないよ!!周りに人がいないから慌てて確認した。
「だ、だ、大丈夫ですっ!あ、ちょっとは、なんか、あれ、ですけど」
「あれって、何?」
じっと目を見られて急いで目を逸らせた。
バムッ
冷蔵庫を開け、目の前の炭酸飲料を掴んでレジへと逃げる。
「いいよ、俺が出す」
すぐに追いつかれ、両手に握りしめていた炭酸をすっと引き抜かれた。
「あ、っえ?」
止める間もなく、同じ炭酸飲料のバーコードをレジの店員が読み取ってしまった。
「ん、」
コンビニの出口へ向かいながらペットボトルを手渡された。
秋斗さんからもらえた物は、何でも嬉しい。
炭酸がぬるくなるのなんてどうでもよくて、ぎゅっと抱きしめる。Tシャツに染みが広がるのなんて、関係ない。
コンビニの自動ドアが閉まり、夜9時を過ぎたというのに、一向になくならない熱気が全身にまとわりつく。
「あ、ありがとうございますっ、あの、いつも、支払って頂いて……あ、あっ!そうだ、これ。」
炭酸を脇にはさみ、トートバッグに入れておいた、100円ショップで購入した封筒を差し出す。
「え、なに?」
「あ、あの、前回も、ホテル代、その、受け取ってもらえなかったので、あの、前回と今回分。ちゃんとした方が良いと、思って……」
急に秋斗さんが怒ったような表情になる。
え?なんで。いつもそうだ、ホテル代、安くもないのに何故かいつもちゃんと受け取ってもらえない。
「いいって言ってんだろ?なんで聞かないわけ?」
「や、で、でも……秋斗さんの負担になることは、したく、なくて」
なかなか受け取ってもらえない封筒をぎゅっとにぎりしめる。
「あー、もう!!俺がしたくて誘ってんだから、陽向は払う必要ないって言ってんだよ。てか、3週間も俺の仕事で会えなかったんだから、そんくらい俺が払う。てか、毎回毎回、このホテル代でイチイチこんなして揉めんのやめねぇ?うざいわ」
あれ、そうだったっけ?
俺が、して欲しいっていってお願いして会ってもらってた気がしてたんだけど……。
秋斗さんも、したいって、思ってくれてるって、こと?
でも、でも、秋斗さんに負担ばっかりで……。
てか、うざいって、言われてしまった。うざい、よな、俺。
「う、うざい、ですよね、俺。ご、ごめんなさい」
「は?最後だけ聞いてんじゃねーよ。いいから!これからもホテル代の事はいちいち気にすんな。俺が金欠ん時は言うから、そん時は陽向が払え。わかったか?」
もう終わり!と言うかのように封筒を乱暴に取られ、肩から下げていたトートバッグへ突っ込まれてしまった。
怒らせてしまったのかとびくっと震える俺の髪を、優しい大きな手がくしゃくしゃっと撫でてくれる。
「んじゃ、また来週な。ま、仕事入んなきゃだけど」
「は、はい。今日も、ありがとうございました!あの、お疲れ様です!」
ぷっ、と秋斗さんが突然笑った。え?どうしたんだろ?
意味がわからなくて首を傾げていると
「お前さぁ、その部活だか、仕事だかの終わりみたいな挨拶。毎回なんとかなんねーの?」
「あ、でも、じゃあ、なんて、言ったら……?」
何だかこんなに長い事笑顔の秋斗さん、初めてだ。
「んー、そーだな、『気持ちよかったです。また抱いて下さい』でいんじゃね?」
意地悪な顔をして耳元でこそっと言われた。
ちょっと唇で触れられた左の耳たぶが、火がついたように痛い。
「もう、いいですっ!ま、また来週ですっ!おやすみなさいっ!!」
どんっと目の前の秋斗さんの肩を押し返す。
秋斗さんに沢山抱かれ、悲鳴をあげている身体を懸命に動かしてアパートへと向かう。