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第22話 相性③〜side秋斗〜

ピロン!

薄目を開けてみたカーテン越しでもすっかり外が明るいのがわかる。

「ん……何時だ?」

スマホの画面を点けると12:00ちょうどだ。

やべ、起きねーと。

「っわ!!」

毎日やり取りをするようになって、すっかり見慣れたコーヒーカップのアイコンが寝ぼけた頭を一気に覚醒させた。

なんて、返事だ?……ふぅ。深呼吸してからそっと通知をタッチする。

うわ、長っ、



『秋斗さんこんにちは!

今メッセージ見ました!

夜にメッセージ下さっていたのに、返信遅くなってしまってすみません。

次と来週の月曜日の件、了解しました!お仕事大変ですね、頑張ってください!!

月末には会えるとよいのですが…。その日ももしお仕事入ってしまった際はまた教えて下さい。

また会える日を楽しみに待っています!

俺はこれから出勤です!

秋斗さんはディナーですか?いつか秋斗さんのお店のご飯食べてみたいなー!!なんて、図々しいですよね…すみません。

では、また、連絡して頂けたら嬉しいです!』


 何故、何故、夜に見ていたはずなのに、今見たと嘘をついたんだろうか。嘘つくことじゃ、ないだろ?


まぁ、眠くて、返事できなかったなら、朝起きたら送ればいいのに……。

何故こんな時間なんだろう……。


何だか今すぐ陽向に会って、顔を見て、理由を聞きたくなった。

あいつは、どんな気持ちなんだ?どういう顔でこれを送ったんだ?

こんなメッセージじゃ何もわからない。



陽向が体調を崩して以降、出勤前にHARE Caffe店内をそっと覗いて、あいつの生存確認をするのがルーティンになっているが……。


今日はコーヒーでも、買っていくか。

スマホを枕に放り投げ、洗面所へと向かった。





14時。少し早めに家を出た。コーヒーを買うためだ。

「いらっしゃいませ」

入り口近くのテーブルを拭いていた店員がこちらを振り向いて接客挨拶をする。

何度か見たことのある店員だ。名前なんて興味ないから覚えられないけど。

にこっと会釈されたが見なかったことにしてレジへとすすむ。

今日の目当てはアイスコーヒーだけだ。


レジには、以前、陽向が体調が悪いと言っていた時に、スポドリなどを預けた女だ。

「あら、いらっしゃいませ。陽向くん、呼んできましょうか?今、商品のラッピングしていますよ?」

「っえ?な、なんで……?」

何故、陽向の名前を言われたのか分からず、その女の顔を見る。こいつ、何だ?


「お客様、以前、陽向くんが具合悪い時に、差し入れされていたお友だちさんですよね? 今日は陽向くんに会いにいらっしゃったのかなーと思ったのですが……私の勘違いでしたら、大変失礼致しました。」

「あ、いや、……えっと、ひ、陽向……」

その女はふふっと気味の悪い笑い方をすると、頭を下げてから、レジから離れると、まぁまぁ店内に響くくらいの声で

「ひなちゃーん!お友だちきてるよー!レジバトンタッチー!」

と馴れ馴れしく陽向を呼んだ。

や、やば。えっと、待てよ。今、陽向と会って、俺どーすんだ?

あれ、なんで俺、ここに来たんだっけ?

頭の中がぐるぐるぐるぐる攪拌されたようになる。


「え……友だち?誰だろ……」

やば、陽向がペーパータオルで手を拭きながら、こっちへ向かってきてしまう。

一旦当たりを見渡して、どこか隠れられる場所がないか探したが、もちろん、なかった。その前に隠れて、どーすんだ。



「……っ!!!あ、秋斗、さん。な、なん、で?」

「あ、いや、あの店員が、陽向呼んでくるっ、て。言って」

昼過ぎのほぼお客さんのいない時間で良かった。

アイスコーヒー1つでこんな時間をかけていたら、ピーク時だったら出禁になっていたかもしれない。


日頃会うのは夜のみだから、昼に会うとまた、雰囲気が違ってみえる。昼間に会うのはそうだ、初めてセックスした、あの月曜日以来だ。

その時はここで陽向が働いているなんて思いもしなかったから、驚いた。


陽向が動くたびに、ほわっと陽向のまわりだけ、明るく見える。ひなた、って名前なだけあるわ。

目の前に来た陽向は、目が真っ赤で、疲れたような顔をしていた。なんだ?そんな仕事ハードなのか?

一瞬目が合うとキャップを目深に被り直し、俺に顔を見せるつもりは無いらしい。

ま、あんな身体の関係なの周りにバレたくないだろうからな。


「ご、ご注文……は?いかがなさい、ますか?」

「あぁ、アイスコーヒーひとつで」

淡々と接客用語を話される。


シャリーン。電子音がなる。


レシートを受け取る際、震えている陽向の指先に気がついた。

そんなに、緊張してんのか?なら、接客向いてないんじゃないか?

いや、もしかして、俺に、だけ?

俺が勝手に、月曜日でも無いのに、会いにきたのが、嫌だった?

ぐるぐるとまた脳みそが勝手に動き続けているうちに、

いつまでも受け取ってもらえないレシートを持った、陽向の右手の中指と人差し指をパシッと掴んでいた。

そのまま、また勝手に言葉が口から出てきてしまう。

「月曜、2週も仕事で……昨日もメッセージしたけど、さ」

陽向の手からレシートがひらひらと舞い、俺の足元に落ちる。

「あ、レシートっ、あっ、……て、手……、お、お仕事、大変ですね、が、がんばって、下さい。……あの、えっと、俺のことは、えっと、」

「ま、また連絡するわ。」

そろりとキャップから俺の方をみる陽向と目が合った。

赤く充血している、そのまんまるのガラス玉みたいな瞳は水の膜に覆われていて、今にもその水の膜はぽろりとこぼれ落ちそうだ。

な、泣いてんの、か?

その水の膜を拭おうと手を伸ばそうとした時

「えっと、こ、こちら、アイスコーヒー、ですっ、ありがとうございましたっ」

これで終わりというように、アイスコーヒーを目の前に差し出された。


「陽向?怒ってる?……月曜、ごめんな?」

なんでそんなことを聞いたのかも全然わからない。

なんせ、最近の俺はおかしいから。


ぶんぶんぶんぶんっ!と首がもげそうなほど頭を左右に振る陽向に、何故かホッとして、その頭にキャップ越しにぽんっと触れた。

「ん、じゃ、また、連絡するな。仕事頑張れよ…。」

「は、はい……秋斗さんも、頑張って、下さい……」


陽向の返事を背中で聞いて、陽向の頭に触れた左手を眺める。

別に、火傷してない、よな。

一瞬、びりびりって、電気が走ったように、熱く、痺れて

痛かった。

……静電気、か?


アイスコーヒーをズッと一口啜り、

HARE caffeから、出て改札へと向かった。


陽向に触れた左手は、その後しばらく熱かった。



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