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第19話 気持ち③〜side陽向〜

あ、秋斗さんだ!!!

俺が体調悪いって知ってるの、秋斗さんだけだし。

え?まさか、仕事前に、届けてくれたってこと?

何それ、何それ、そんなの、嬉しすぎる。

この場に誰もいなかったら、「わぁーーーーーっ!」って大声で叫びたいくらいだ。


「ねぇ、ひなちゃんの友だちかっこよすぎじゃない?こんなのわざわざ届けてくれるんだもんねぇー!優しいしイケメンだし、最高っー!彼女いんのかなぁ?まー、あの容姿ならいるよなぁ。どう?ひなちゃん、何か知ってる?」

「えっと、か、か……恋人、いるみたいです……」

自分で言って、自分で自分の首を絞めているみたいだ。



どさーっと長谷川さんがバックヤードの机に倒れ込む

「だよなぁぁぁ、あんなイケメンが売れ残ってるわけねぇーよなぁーーー!はぁー、まじ彼氏ってどうやったらできんだよーー」

ぴょこっとキッチンから顔を出し、二宮さんが手を挙げていた。

「長谷川ちゃーん、私も激しく同意でーす! でも、意外だな。柳瀬くん、あんまり交友関係出してこないから。初めてじゃない?3年働いてて、友だちが店に遊びにきてくれるの」

「あ、はい、俺あんまり、友だちいないんで……」


2人にこれ以上突っ込まれないように、逃げるようにキッチンへ戻る。レジ後ろの小さな冷蔵庫に、秋斗さんからもらったコンビニの袋をしまった。


秋斗さん、秋斗さん……わざわざ、届けてくれたんだ。

どうしよう、嬉しい!嬉しすぎる!嬉しすぎるよ!!

ニヤけてしまいそうになる口角を必死で抑える。


だめだめ、仕事中だ。秋斗さんのことは考えない!!


無心になるために、粗熱の取れたマフィンを袋で包んでいく。仕事に夢中になっていれば、秋斗さんのことを、考えないで済んだ。





21:30、iPadを打刻して、店内を最後にもう一度見回る。電気の消し忘れは……ないよな。

店長と一緒に、ブラインドも降り、真っ暗な店の入り口の鍵をかけた。

「お疲れ様、柳瀬くん。チャリ置き場まで一緒にいこー!」

「はい、お疲れ様です、店長。」

東口へ向けて歩き出すと、二宮さんはぐいっと俺の顔を覗き込んでくる。俺が両手で大事に抱えていたコンビニ袋をつんつんと、つつかれた。

な、なに?

「ねぇ、この差し入れ持ってきてくれたの、もしかして、月曜日にアボ野菜ベーグル頼んでた、あの背の高い子?」

「あ、は、はい。多分そうです……」

21:30を過ぎると、日中に比べて人もまばらな駅ビルの通路をのんびりと2人で歩く。 俺は早く帰って、秋斗さんにお礼の連絡をしたいのだけれど、二宮さんがのんびり歩くので、ペースを合わせるしかなかった。


二宮さんはうんうんと頷き、突然にやっと笑う。

こんな時の二宮さんって、なんだか、何でも見透かされているようで、ドキッとする……

「いやさ、さっきも言ったけど、柳瀬くん友だち出没するの初めてだからさ、なんか、安心したよ。ちゃんと友だちいたんだーって。って、私めっちゃ失礼なこと言ってんね?まぁさ、仕事と家の往復ばかりの生活させちゃって、申し訳ないなー。若いからもっと遊びにぱーっといかせてあげたいなーって前から思ってたからさぁ」

「ははっ!何言ってんすか、店長だって十分若いじゃないですか!それに、彼は友だちじゃないですって。知り合い?です、知り合い……」



なんだか二宮さんと話をしているとうっかりと余計なことを話してしまいそうで、少し歩くスピードを上げる。

「ほらさ、1月だっけ?インフルになって死にかけてるくせに、大丈夫の一点張りで、誰にも頼ろうとしなかった柳瀬くん家に押しかけたの、私だったからさぁー。だから、ちょっと安心したの!あぁ、体調悪いの伝えられる友だち、出来たんだなぁってさ。」

ぶわぁっと冷や汗が出てくる。

「そ、その節は、本当にすみません、でした……いや、あんなにひどく、なるとは……」


当時は家に体温計もなく、身体の節々がとてつもなく痛み、食欲もなく、飲み物だけでも、と思ったが動けないためどこへも買い物へいけず……、病院へ行こうにも、どこの病院へ行ったら良いのかもわからずだった。

きっと寝たら治る!と寝ていたらどんどん悪化してしまい、次の日無断欠勤した俺を心配して、二宮さんが店を臨時休業してまで俺の住所を調べて尋ねてきてくれたのだ。


二宮さんが呼んでくれたタクシーの運転手さんに抱えられ、タクシーに詰め込まれ、病院へ行くと、即点滴をされ、40℃の熱がその後3日も続いてしまった。

結局仕事は2週間も穴を開けてしまい、

熱が下がった頃に、二宮さんに、ここまで酷くなるまで黙っていたことをこてんぱてんに叱られたのだった。

そういうこともあり、俺は二宮さんには頭が上がらないんだ……。

両親に熱なんて出したと言ったら、もう一人暮らしなんてダメ!!実家に帰ってきなさい!!と過剰に心配されそうだったから、結局親には言わなかったんだ。


「だからさ、柳瀬くんはちゃーんと人に頼ったり甘えたりしなきゃダメだよ?柳瀬くんの力になりたいって思っている人は、意外と沢山いるんだからね。その、知り合いさんにもさ!」

「は、はい……」

まさか、秋斗さんに頼るなんて……できない、と言いたかったけれど、また二宮さんに色々突っ込まれるのが怖くて、口を結んだ。

秋斗さんに、甘えられたら、どれだけ幸せ、なんだろう……。叶わない、夢だけどな。



二宮さんと駐輪場で別れてから、すぐにスマホを取り出す。

『スタッフから栄養ドリンクなど受け取りました!秋斗さんですよね?ありがとうございます!!すごく嬉しかったです!』

あっ……勢いに任せて送信してしまった。

21時半を過ぎているのに、送ってしまった。彼氏さんと一緒の時間、邪魔してしまっただろうか……

メッセージを読み返して、怪しまれるような言葉が入っていないか確認する。うん、多分、大丈夫……だよな?


スマホと秋斗さんからの大事な差し入れをバックへしまい、自転車でアパートへと向かう。

嬉しい、嬉しいな。これ、飲まずに大切に取っておこ。



早く早く月曜日になれ!あと、5日……。早く会いたい、秋斗さん。

梅雨独特のじっとり肌にまとわりつく空気も不快に感じないほど、幸せな気持ちのままアパートへと急いだ。







ガチャ、

……はぁ、昨日熱を出していたせいか、帰ってきた瞬間どっと疲れた。座っちゃったら動けないやつだ、これ。先にシャワー浴びよう。

トートバッグから差し入れの袋、財布やスマホを出していく。

念の為スマホの画面を点けたが、欲しかったメッセージは無く、大して興味もない今日のニュースが入っているだけだった。

……ほら、やっぱり、夜は彼氏さんと、会ってるんだきっと。 というか……一緒に、住んでる? だから、彼氏さんの帰ってくる夜は、メッセージ返ってこないのかもな。


彼氏さんと、何話してるんだろう。

今日の楽しかったこと?

明日の予定?

次の休みの話?

お互いの……好きな所?

将来の、こと?

ちく、ちくっと何かが心臓に突き刺さる。


俺には、一生できないことだ。

いいな、

いいなぁ。

俺も、もっと出会うのが早ければ

秋斗さんと付き合えたり、したの、かな?


悔しくて、悲しくて、いけないとわかっている、こんな気持ち。虚しくなるだけだと、わかっているはずなのに……


秋斗さんを好きな気持ちはどんどん膨らみ続けていってしまう。

止めなきゃ、止めなきゃ、ダメだよ、

後戻りできなくなる前に、こんな気持ち、止めなきゃ……。

会わない選択をすれば良い、連絡を一切しなければ良い。そんなこと、わかっているはずなのに

そんなこと……できないよ……。


ザーーーーー。

冷たいシャワーが肌にまとわりつく汗を流してくれ、身体がすうっと冷えてくる。

あぁ、秋斗さんへの想いも、こんなふうに流せたら、楽なのになぁ。

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