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第15話 次の約束①〜side秋斗〜

初めてでも無いのに、初めて全身が痺れ、頭が真っ白になるほどの快感だった。

いつになっても1番上から戻って来れない感覚。何だこれ。

大量に熱を吐き出していたみたいだ。

抜き取った自身のそこを見て、驚いた。

こんな量出るんだ……こんなん初めてだけど……。 しばらくしてなかったから?



気持ちいい。なんだこれ。

全身を陽向に預けて、息を整える。

陽向は、大丈夫か?最後、俺の方が夢中になってしまった。陽向を気遣ってあげられてなかった。

このまま眠ってしまいたいほどの、脱力感を必死に振り払い、陽向の様子を伺う。



「陽向、初体験おめでとう。どうだった?」


「す、すごかったです。あんな、世界が、あるなんて。俺、何が何だか、途中わからなくて、何か、変なことしちゃって、たら、ごめんな、さい……」


いや、本当に初めてとは思えないほど感じていたな。痛くは無さそうで、良かった。初めてで恐怖を植え付けちゃ、一生恨まれるもんな。


汗でへばりついてしまっている陽向の前髪をそっと掻き上げる。やべ。何してんの俺。

今までの相手に行為の後、こんな風に自分から触れたことなんて、なかった。終わったらとっととシャワーして、解散だ。

それがいいと今までの経験で痛いほどわかっているはずだ。


……今までセックスした相手は、行為後にスキンシップを求めてくる奴がほとんどだった。

俺は別に断る理由もなかったから相手の好きなように、だらだらと長い時間くっついて、肌を合わせていた。

肌と肌を合わせることが、別に気持ちいいとは思った事なんてない。ただ、行為後、どっと疲れてダラダラとしたかった。それだけ。

 結局、それが勘違いの原因だったんだと思う。


『エッチの後、あんなに優しくしてくれたら、自分の事好きでいてくれるって思うだろ?普通!!!思わせぶりなことしてんのはAKITOだろ!?ふざけんな!!!』

何人目だったかの相手に言われた言葉がふっと脳内に蘇ってきた。優しくしたつもりもなかった。思わせぶりだなんて、そっちが勝手に思っていただけだろ?

驚きすぎて返事も出来ないでいたら、思い切り頬を引っ叩かれた。色々と最悪すぎて、怒りすら湧き上がって来なかったな。


ってか、そんなんとっくに記憶の奥に抹消していたのに、勝手に出てくんな。

はぁ、だから、相手を勘違いさせるような余計なスキンシップなんていらない。余計なことに巻き込まれるのは、もう二度とごめんだ。シャワーして、とっとと帰ろう。


もうすぐ20時だ。チェックアウトまであと30分。受けた側は後処理もあるし、早めに入らせよう。って初めてだから俺がしてやった方がいいのか?いや、初体験したがってたくらいだから、そんくらいの知識はあるか。


「変なことなんて、なんもなかったよ。初めてであれだけ感じてるなんて。本当素質あるわ。」

うっかり撫でてしまった髪から、そっと手を外し、乱れてベッドに丸まっていたシーツを裸の陽向に向かって投げる。


「陽向?シャワーいってきちゃえよ。あと、30分しかないから……」

「あ、は、はい。そうですよね……」

陽向は眠そうにしていた目を大きく見開くと、俺をちらっと見た後慌てて顔をそらした。

何?何か言いたいことあんの?


よろよろとしんどそうに身体を起こす陽向を見ないようにスマホを探す。そうさせたのが自分だと思うとなんだかバツが悪かった。

いや、初体験したいっていったのは、あっちだし、俺はそれに応えただけだ。あんなとこにあんなもんいれるんだ、身体が悲鳴あげて当たり前だろ?そんなん、覚悟の上だったろ?

スマホの画面をつけたと同時に陽向はベッド下の床にふらっと座り込んだ。

「っおい!大丈夫か?俺が一緒に洗おうか?ごめん、無理させたよな?」


脳みそで必死に考えていた事とは違う言葉が勝手に出てくる。なんだこれ。アホか?俺?善人にでもなったつもりか?


「っい、いやっ!大丈夫ですっ!!自分で、自分で出来ますからっ」

思わず抱きかかえた細い腰に回した手を、思い切り引き剥がされた。

思っていた反応と違う。

なんだこれ。

そこは顔を赤くして一緒にシャワーしよう、とか、恥じらって抱きついてくるとこじゃねえの?

あんな眉吊り上げて怒らなくても良くね?

なんなんだ?あいつ、意味わかんねぇ。なんか、あいつと関わっていると、イライラする。

そうだ、この1週間もあいつのせいでやたらイライラしていた。

なぁ、陽向?お前は俺をどうしたいわけ?







「お、お待たせしました……」

スマホで大して興味もないニュースを流し見していると、腰にタオルを巻き、頭からもフェイスタオルを被った陽向がシャワーから出てきた。

「おう、大丈夫だったか?気をつけてたつもりだけど、傷ついたり、してなかった?」

ベッドに腰掛けて下着に足を通している陽向に声をかける。


「は、は、はい。だ、大丈夫ですっ、あの、平気で、す」

「ん、ならよかったわ、俺もパッとシャワーしてくるな、あと15分くらいしかないから、髪とか乾かしちゃえよ?」

こくこくと頷くのを見て、着てきた服一式を持ち、シャワールームへと向かう。

フェイスタオルに隠れていて、陽向の表情はわからなかった。





ふぅ、さっぱりした。

タオルでがしがしと拭くだけでほぼ乾いてしまうカットしたての髪を、鏡で確認する。

湿っていて毛先が寝てしまっているが、どうせキャップを被るからいい。





ガチャッ

「あっ、」

「お待たせ。陽向は準備できた?できてたら、もう出ようか、時間ないし。」

ベッドサイドのテーブルに置いていたキャップを被り、バッグを肩にかける。


「あ、あのっ、これっ、今日のっ、」

ベッドの端に腰掛け、私服に身を包んでいる陽向が六千円を手渡してきた。

「え?なに、これ?」

「あっ、前回、支払って頂いたので、今回は俺がっ、」


先週に引き続き今週も…社会人一年目にとって、安くはないホテル代だ。もちろん出費が痛くないわけないが、なぜか、その紙幣を受け取る気が一切起きなかった。

「いや、いらない」


ベッドに放っていたスマホを尻ポケットへ入れ、部屋のドアへと向かう。


「そ、そんなわけにはっ!AKITOさんにご迷惑、これ以上おかけできません。あ、待って、っ、きちんと、き、きちんと、最後に、するので、料金も、精算、してくだ、さい。」

うるさい、うるさい。

やっぱりだめだ、イライラする。

ガチャッ ……ガチッ

オートロックの音を背中で聞き、ホテルの廊下を大股で歩く。後ろからパタパタと陽向の足音がする。



なに?俺との関係も、精算したいってこと?

初体験できたらもう終わり?

俺はただの都合良い男だったってわけな。へぇ、


なんでこんなにイライラするのか全然わからない。わからないから余計にイライラする。

ずんずん廊下を進み、ホテル出口の自動ドアが開くのを待っていたら、ドスッと右肩に何かがぶつかってきた。

「っあ、ごめんなさいっ!俺、下見て、歩いててっ」

振り向くと陽向が額を左手で撫でていた。右手にはまだ六千円を握りしめたままだ。いらねぇって言ってんのに。


ホテルを出て、駅へと向かう。どうすんだ、このままじゃ、駅で解散だ。それで、終わりでいいのか?

いや、何考えてんだ?いや、終わりだろ。そういう約束で俺たちは会っただろう。

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