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第14話 初めての夜③ 〜side陽向〜



「ローションなくなるくらい、毎日、ちゃんとほぐしたんだ?そんなに初体験、したかった?」

 先週と同じラブホへ入り、そのままで良いとベッドへと押し倒されてしまったが、必死にお願いして、シャワーを浴びさせてもらえた。

これで汗臭いのは回避できた。後ろも、少し準備できたし。つ、ついにだ。

準備してきたそこにそっと指を入れられる。

「ほんとだ。これなら、すぐ2本は入りそう」

「っあ……んん、な、なんでっ、気持ち、いい……」

この1週間、自分でしても全く気持ち良さを感じなかったのに、おかしい。AKITOさんに触れられるとびりびりと常に電気が走っているかのように全身が痺れる。



「ふ、上手。そんな気持ちいいんだ?……そろそろ、いいかな?」

どれほど身体の奥をいじられ続けていたのだろう。

時計など見ている余裕なんてあるわけがない。全身が溶けてしまうのではないかというほど、丁寧に身体の隅々を探られた。

あまりに気持ちがよくて、意識が何度も飛びそうになるが、それを許してもらえない。

「息、吐いて?」

大きく硬い熱が蕩けた身体にゆっくり、ゆっくりと捩じ込まれる。

「あ、ま、まって……っうぁぁあっっ」


そこからは、全く記憶が無い。

必死に、頭から足の爪先まで痺れる快感をどうにか逃そうとするが、どんどんAKITOさんから与え続けられる快感に頭が真っ白になってしまった。


「陽向、見てごらん?ちゃんとはいってるよ?ほら」

「っあ、や、やぁ、」

身体を起こされ、うっかりと目を開けてしまった。す、すごい。俺の身体……きちんとAKITOさんを受け入れている。

恥ずかしくてたまらない。再び固く目を瞑る。



ぎゅっと爪が食い込むほど握りしめていたシーツを、そっとはがされ、手を絡められる。これ、恋人つなぎってやつだ……。

「痛く……ない?」

「ううん、っあ、っあ、そこ、だめっ」

「ここ?初めてなのに、奥気持ちいいんだ?素質あるよ陽向……って、俺も限界。ちょっと、激しくさせてな?」


全身をがくがくとゆさぶられて、口からは自分のものとは思えない、高く甘ったるい声が勝手に漏れてしまう。


今までの人生で感じたことのない感覚だ。

頭がずっと真っ白で、AKITOさんにゆさぶられる度に、キツくつぶった目の奥がチカチカとする。

いつ、自分が熱を吐き出していたのかもわからなかった。

「またいってるね。気持ちいいんだ?……っはぁ、ごめん、俺もっ、……」

AKITOさんが「っく……!」と苦しそうな、耐えるような声を出し、震えながら俺に全体重を預けてきた。

重なる肌がぬるつく。お互いの汗なのか、自分のものなのかはわからない。


どさっ、

「はぁ、はぁ、はぁ……はぁっ、」

どちらのかわからない、荒い息遣いだけがしばらく部屋を埋め尽くしていた。


ずるりとAKITOさんの熱が、俺の中から抜けていってしまう。

なに、この寂しい感じ。まだ、もっと繋がっていたい。

繋がりが解かれた瞬間から、とてつもない睡魔に襲われて、瞼がとろとろとしてきてしまう。

「陽向、初体験おめでとう。どうだった?」

「す、すごかったです。あんな、世界が、あるなんて。俺、何が何だか、途中わからなくて、何か、変なことしちゃって、たら、ごめんな、さい……」

汗でへばりついてしまっている前髪をAKITOさんの大きな手で優しく掻き上げられた。髪を撫でてくれる手の温かさが気持ちよくてうとうとしそうになる。

「変なことなんて、なんもなかったよ。初めてであれだけ感じてるなんて。本当素質あるわ。」

褒められてしまった。何だか、初めてでも感じる変態だ、と言われているみたいで恥ずかしい。でも、本当に気持ちが良かったんだ。AKITOさんが優しく抱いてくれたおかげだろう。

あぁ、全身をゼリーに包まれてるみたいに気持ちがいい。ふわふわする。このままずっとAKITOさんとここにいたい……。

「陽向?シャワーいってきちゃえよ。あと、30分しかないから……」

「あ、は、はい。そうですよね……」


一気に冷水をかけられて、現実に戻された気がした。

そうだAKITOさんと、俺は、今日限りの、ホテルの2時間の間だけの関係だ。

経験したことのない行為の数々、その衝撃の余韻に浸っている場合じゃない。きちんと条件を守らなくちゃ。

腰やお尻にとてつもない違和感を感じながら、よろよろと身体を起こし、ベッドの淵に腰掛ける。

ベッドから降りようと立ち上がるが、足に力が入らず床にしゃがみ込んでしまった。

「っおい!大丈夫か?俺が一緒に洗おうか?ごめん、無理させたよな?」

「っい、いやっ!大丈夫ですっ!!自分で、自分で出来ますからっ」

腰を支えられた手を引き剥がし、壁をつたいながらシャワールームへとなんとか辿り着いた。

いやだ、これ以上一緒にいたら、これ以上優しくされてしまったら……。俺……




身体が悲鳴を上げている。先ほどまでの行為を断片的に思い出して、顔が熱くなる。

AKITOさんが、俺の初めての人になってくれて、本当に良かった。見ず知らずの俺を、あんなに優しく抱いてくれるなんて。

あんな風に、他の人にも、優しくしているんだろうな。

彼氏さんだったら、どれだけ優しくしてもらえるんだろう。

いいな……。あの人に、愛される人が、羨ましい……。

こんな出会い方じゃなきゃ、もっと出会うのが早ければ、あの人の恋人に、なれてたりしたのかな……?

住んでいる所、同じ駅なんだし、偶然何かで出会って、それで漫画みたいに恋に落ちていたら……。

……ははっ、なに、考えてんの?俺。あと、数分でさよならの相手だぞ?

あの人は……好きになんてなったら、絶対にいけない人。今日だけ、身体だけの関係の人。だってほら、名前しか知らないじゃんか。しかも下の名前だけ。


優しく抱かれて、身体は満たされたはずなのに……なにこれ。心が空っぽでひどく息苦しい。



高い位置に固定されたシャワーのお湯が、目から勝手にこぼれ落ちる雫を、排水口へと流していってくれた。



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