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第11話 休日②〜side秋斗〜

平日の昼間の穏やかな時間に、出会い系のアプリを開いて今夜の相手を探すなんて。なかなか俺もいかれている。

とりあえず自分のホーム画面から設定を編集する。条件欄を一気に消していった。あー、一晩だけ希望なんて丁度いいやついねーかなー。

画面をスクロールしながらこれといってパッとこないネコ一覧を流し見する。

「おっ、お待たせしました。アイスコーヒーと、アボカドと夏野菜のベーグルです……」

「ん、陽向くん、せんきゅ。」

トレーを片手で受け取り、スマホ画面に目線を戻す。ん?商品を渡し終えたはずの店員が一向に動く気配がない。

「……?な、なに?」

怒っているのか、困っているのかよくわかんない表情の陽向が両手を握りしめて俺の斜め後ろに突っ立っていた。

「お、俺っ、仕事っ、18時っ、上がりですっ、あ、あのっえっとっ」

「え?」

思ってもいなかった事を告げられて、一瞬フリーズした。なんて、言った、陽向?

「い、いやっ!ごごごごめんなさいっ、忘れてますよねっ、す、すみませんっ、えっと、あ、独り言ですっ、あのっ、お気になさらずっ、あ、ベーグルっ、ごゆっくり、どうぞっ」

真っ赤になって泣きそうに後退りしていく陽向の細い手首を捕まえる。

「忘れる?何で?俺が言ったよね?また来週って。……18時過ぎにこの前んとこで、待ってる」

「あっ、あ、……は、はいっ、」

掴んでいた手首をバッと思い切り外された。真っ赤な顔をしながら逃げるようにカウンターへと戻っていく陽向。

なんだ、あいつ……。やべぇ、可愛い。


ん……?俺今なんて思った? ははっ、可愛いは無いだろ。20歳も超えた男に、可愛いって。

ふ、ふふっ。何故か頬が勝手にゆるむ。なんだこれ。表情筋壊れたか?キモ、俺。

それを紛らわすかのように綺麗に盛り付けされたベーグルに大きな口で齧り付いた。



予約していた美容室で、いつものようにカットしてもらったあと、ぶらぶらと駅中のショップをぶらつく。服も大して欲しいものもなく、シルバーのリング型の軟骨用ピアスを一つだけ買った。 トイレに寄ったついでに、新品のピアスに付け替える。うん、悪くない。主張もしすぎないが存在感はちゃんとある。


あぁ、18時までまだ3時間近くもある。暇だ。家帰ってもする事ないし……映画でも観るか。

南口から出てすぐの映画館へとむかった。平日の15時台は最近話題らしいBL映画と人気のアニメの2本の上映のみだ……。平日なんかこんなもんか。

BLなんか観ても現実味なくて冷めるから、アニメにしとくか。これでまぁ、2時間近く潰れるし、そのあとは軽くファストフード店とかで待っとくか。んー、長いな。まぁ、夜の楽しみのためだ。こんくらい待っててやる。勝手に上がる口角にぎゅっと力を入れて引き締めた。




大して面白くもない映画だった。何も心に残らない。半分は眠っていた。もっとこう、心にぐっと響くもんないのかな俺。……何に対しても大抵これだ。

仕事は楽しさも感じるが、基本は大変だ。でも仕事だからと割り切ってやってる。給料もらえなきゃ生活できないからな。

プライベートなんか友だちもいない。でもこの数年、別に1人でも何も困っていないし、欲が溜まった時には出会い系がある。

欲しいものも大してない。……ふん、こう考えたら俺って何のために生きてるんだろうな。何か夢中になれる事、見つかるといいんだけど。

この先も、なんとなく、毎日を生きていくだけなのか?

朝が来て、夜になって、また朝が来る。日付だけが変わっていく何も味気のない毎日。はぁ、つまんね。とりあえず今日だけは、あいつの初体験を頂くことだけが、俺にとっての唯一の楽しみだ。


あいつ、律儀に1週間ちゃんと準備してたのかな……。あんな顔真っ赤にして、そんなに初体験が楽しみだったのかね?

俺は抱かれる側の気持ちなんてちっとも理解できないわ。



映画館向かいのファストフード店で、適当にゲームアプリをして時間を潰していたら、18:05となっていた。 やべ。あいつ、仕事終わんじゃん。

ぬるくなった炭酸をズズッと勢いよく啜ると、一口だけ残っていたバーガーを口に詰め込み、包みをぐしゃぐしゃに丸めた。

紙袋に入れてあるLサイズのポテトを確認すると口をぐるぐると丸めた。

あいつ、腹減ってるだろうからな。

ダストボックスの上のガタガタに積み上がっているトレーを整えてしまう。職業病だ。いや、んなことしてる場合じゃない。早く東口に戻らないと。

「ありがとぉございましたぁー」舌ったらずな気持ち悪い女の声にイラっと来た上に、のんびり開く自動ドアにさらにイラっとした。早くしやがれ。

駅中をちんたら歩く、会社帰り、大学帰りの人間達が邪魔で仕方ない。道を塞ぐな。


早く、早く、陽向が待ってるかもしれないだろーが……。



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