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第7話 緊張①〜side陽向〜

20時ちょっと前、駅前に着き、AKITOさんからの連絡を待つ。こんなにすぐ出会えるもんなのかな?騙されてないかな、俺。

ブブッ、震えるスマホを見ると、出会い系のアプリからのメッセージの通知だった。

AKITOさん、着いたんだ。ん、どこだろ。

えっ……めっちゃイケメンだけど……。まさか、あの人?背高っ。ねぇ、なんかモデルっぽい異次元スタイルだよ?え?嘘だよね?でも、でも黒キャップに黒T、ジーンズって……あの人しかいないよね?

やっぱり、俺、騙されてる?あんなイケメンなら彼氏の1人や2人いて、セフレだって選び放題な感じだけど。

いや、でも経験豊富な人の方が、初めてでも優しくしてくれそうだし!よし、よし、今日こそ童貞脱出だ!って、抱かれる側で童貞っていうのか?いや、もう何でもいい!勇気だせ!俺!




……。

やっぱり慣れている。緊張して、何を話しているのかわからない間にラブホに連れてこられていた。

初体験のラブホ。彼は手慣れたように入っていく。俺はホテルに入る前に知り合いがいないか、挙動不審なくらいにキョロキョロとしてしまった。いや、いけないことしているわけじゃない! 大人としての、社会経験だ!

うわぁ、ラブホってこんな感じなんだ……想像していたのと全然違った。ピンクでイヤらしい雰囲気なのかと思っていたけれど、入り口を入ると一般のホテルとあまり変わらない。なんならカフェにでもなりそうなオシャレな照明、観葉植物、白と温かみのある茶色で統一された落ち着く空間だった。


 AKITOさんから今日会おうと言われ、伸び切った味のしないラーメンを大急ぎで啜った後、ゲイサイトを見ながら受入れる側の準備をした。

日頃、1人でする時に興味半分で恐る恐る触れた事はあるけれど、すぐに怖くてやめてしまった。 でも、今日は…ここに……。こんな所に本当に入るのかという怖い気持ちと期待とで頭が破裂しそうだ。

さっきから、心臓も変な音がする気がする。大丈夫か、俺。

日頃、動画で見ている気持ちよさそうな受ける側の姿を思い出し、自分ならどうなってしまうんだろう、と何年間も想像していた。それが今夜。ついに……。

少し痛くたっていい。最初は痛いって聞くから。でも、でも優しく優しく包み込むように抱いて欲しい。幸せに満た気持ちで初体験を迎えたい。



そんな淡い期待を抱いて、いざ勇気をだして望んだ初体験。

ラブホに連れてこられて5分もしないうちに、まさか自分の下半身を他人に……さすがに想像を超えすぎていて、脳みそが爆発しそうなほどパニック状態だった。

必死に抵抗しても無意味とばかりに好き放題されてしまった。刺激が強すぎて自分が何を口走っているのかもわからない。


AKITOさんの指が頑張って準備してきたそこに触れた時、俺は許容量はもう限界だった。

そこからはほとんど意識がない。いや、正確には驚きすぎて、何をされているのかがわからなかった、だ。

意識がはっきりと戻ったのは、強烈な2度目の快感から解き放たれた後だった。


「ふぅ、っありがと、HINA。今日はこれで、終わろう」

「えっ……!?」

冷水を頭から一気にかけられたかのように、すっと熱が引いていくのがわかった。

えっ!?俺、なんか失敗した?いや、やっぱり初めての男なんて無理って思われた?気持ち悪かった!?な、なんで、なんで最後までしてくれないんだ?まだ、時間あるよな?


「な……あの、やっぱり、だ、だめでしたか?あの、何かおれ、失敗しましたか?ご、ごめんなさい、」

「いや、違うって。HINAは何も失敗なんかしてない。今日はこれが限界。初めてで最後までって方が普通に難しいからさ。」

ベッドから身体を起こすAKITOさんの腕を思わず掴んでしまった。一瞬驚いた表情になったAKITOさんはまるで子どもをなだめるかのように、頭を優しく撫でてくれた。


「HINA、来週、また会おう」

え?今夜だけって、言ってたのに?一度きりの関係がいいって言ってたのに?ちゃんと最後まで出来なかったのに?

「え……ま、また、会ってくれるんで、すか?」

「初体験、したいんだろ?そっちの条件クリアするまで、付き合ってやるよ。」

あ、そういうことか。俺の条件気にしてくれてたんだ。

「あ、ありがとうございます!てっきり、俺が出来なさすぎて、嫌になられちゃったかと、あぁ、良かった、ありがとうございます!」

この人本当に優しい人なんだな。話し方もぶっきらぼうな感じだし、表情もあまり変わらないけれど。優しいのがわかる。

さっき「男同士で付き合って、どうすんの?結局は、性欲さえ満たされたら、満足じゃない?男同士で付き合ってたって、何の未来もないだろ?」なんていっていたけれど、

きっとあれは俺への牽制だ。

出会い系サイトの条件にあった、恋人いらない、キスもしない、泊まりもなし。って、俺を好きになるなよって念押しだと思うし、やっぱり大事な本命がいるからこそだし。なにより、この人の触れ方が、本当に優しかった。だからあんな風に条件をつけないと、今までのセフレに好かれてしまって困っていたのかも……。

でも、でも、

こんなことして大事な彼氏さんにバレて怒られたりしないのかな?それとも遠距離中とか?って余計なお世話か。それぞれ事情もあるんだろうし。出会い系で出会った身体だけの関係の人なんだ。余計なプライベートは詮索しちゃだめ。

AKITOさんに優しく抱かれている彼氏の姿を勝手に想像してしまい、胸に何か突き刺さったような痛さを感じた。

いて、何これ。あぁ、人様の物に手を出してしまった罪悪感かな、これ。相手の方にも迷惑にならなければ良いけれど……。

きちんとAKITOさんの条件守っていれば、大丈夫だよな?会う日もAKITOさんに合わせて、決して迷惑にならないようにしなくちゃ。 何だか、こんな風に優しくしてもらっちゃったら、申し訳ない気持ちになるなぁ。 俺が優しくして、なんて変な条件つけちゃったからかな…律儀に守ってくれているんだろう。 

次回はAKITOさんの好きなようにしてもらえるよう伝えよう。うん。初体験をして欲しい、なんて、面倒くさい俺なんかを相手してくれる貴重な人だ。


「シャワー、いってくるわ」

あ、無意識に握ってしまっていた手を乱暴に振り解かれて

しまった。

なんか、刺激的な体験の後だから、人肌に触れて余韻に浸りたかったんだけどな。仕方ない。こんな出会ったばかりの身体だけの関係だもんな。 きっと、彼氏には優しく抱きしめたり、キスしたり、してるのかな?俺だって、俺だっていつか、いつか本当に好きな人に、優しくされたい。

もやもやっと心臓の辺りが気持ち悪くなる。それに気がつかないフリをして大きすぎるベッドに潜り込んでシャワーの水音を聞いていた。


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