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第4話 連絡④ 〜side秋斗〜

こんな人生にも、自分がゲイだという事実にもむしゃくしゃした大学3年のある日、勢いで出会い系サイトに登録した。 

初めての男とのセックスは経験人数の多い少し年上のネコだった。

彼とは月に2度ほど身体だけの関係を続けていたが、最後は彼の彼氏に出会い系していた事がバレて大モメなあげく、「彼氏より秋斗を選びたい」なんて言ってきて、荷物を持ってアパートに押しかけてきたから、断固拒絶した。怖かった。これ以上巻き込まれたくなくて一切の連絡を切った。

2人目のセフレは数回会ってセックスをするうちに、本気で好きになられてしまい、「お試しでいいから付き合ってみようよ?」と告白された。

でも、男同士の恋愛なんかその頃はすっかり興味のなかった俺は、その人とは半年でセフレ解消を告げた。そうしたら、その後しばらくストーカーのように付き纏われていた。

毎日鬼のように入る着信、メッセージ。朝起きてスマホの画面をつけるのさえ恐怖だった。 そんな事が丸1ヶ月くらい続いて、精神的に参っていた時、結局そいつには彼氏ができたらしく、ストーカー行為はあっさりと終わった。 俺にだけ、気持ち悪さや恐怖をぬりつけておいて、さっさと消えていった。こいつも最悪だ。

3人目、4人目はあんな事にはならないようにと、一度だけ会うことを条件にセックスをした。なのにまた会いたいだの、忘れられないだの言ってくる。本当にいい加減にしてほしい。

どいつもこいつも勝手すぎる。

男同士で付き合って何がある?

将来なんてなんもないだろ?

結婚もできない、周りからは差別の目で見られ続ける、一生だぞ?

男同士で付き合って幸せハッピーエンドなんか、BLの漫画やらドラマの見過ぎだ。現実はそんなに甘くない。

職場でも聞かれるのは「彼女いるの?」だ。年齢いけば「結婚してるの?お子さんは?」になるんだろ? その度に適当な嘘をついて惨めな思いをするんだ。

カミングアウトして、周りに交際認めてもらえましたー!なんてバズった同性愛カップルの動画を最近目にするけれど、あんなのほんの一握りだけだ。

そんなのが普通に受け入れられていないから……受け入れられる世界が珍しいから物珍しいくて動画がバズる。つまり、そういうことだ。

だから、性欲さえ満たされたら良い。身体だけの関係と割り切っていたら、お互い気持ちよくて、満たされて、それで良い。なんでみんなこれがわからないのかが、わからない。どちらかが好意を待ってしまったらそこで終わりだ。情だのなんだのに巻き込まれる人生なんてごめんだ。

俺は誰も必要となんてしない。今までも、これからも。

だから、俺は出会い系の条件に

『AKITO 23歳、タチ ◎恋人は作らない ◎セックスだけの関係希望 ◎唇へのキスNG ◎泊まりなし ◎ノーマルプレイのみ』と書いた。

これを記入したことで、ネコからの連絡はほぼ無くなった。そりゃキスも泊まりもNGな相手なんて、人肌求めてる恋人探しのネコにとってはひっかかりもしないだろうな。

――この条件にしてからそろそろ半年になる。

そのうちに創作イタリアンのレストランへの就職も決まり、大学も卒業して、何かとばたばたしていた4月、5月だった。

6月もそろそろ終わりに近づき、だいぶ仕事にも、新生活にも慣れてきた。 そうなると無性にセックス相手が欲しくなる。

条件、一旦取り下げようかな。とりあえず、今日一晩誰か抱きたい。そう考え始めたら、その事しか考えられないくらいムラムラし始めた。

ランチ上がりの今日は、ディナータイムの準備をあらかた済ませ、ディナー担当と引き継ぎをする。 事務所で私服に戻り退勤を打刻した。打刻したiPadの画面は16:15と表示されていた。

店の最寄りの『田◯駅』から家のアパートのある『花◯駅』までは電車でたった一駅だ。

電車で通勤はしているが、歩いても20分ほどの距離、自転車なら10分ほどで着く。

しかし、店で新作ワインのテイスティングなどをすることも多い事から、電車で通っている。交通費も出してもらってるしな。

『田◯駅』も『花◯駅』も交通の便も良いし、どちらかの駅中、駅前でほぼ全ての生活必需品が揃う。俺のアパートがある駅は近くに大学もあるため、若者がすごく多い。その分栄えてるんだろうな。

スマホをかざし、改札を出る。駅中にある人気のコーヒーショップは大学終わりの学生達でにぎわっていた。 今年の梅雨入りは例年通りだったが、雨の日は少ない。しかし、梅雨特有のじめっとした空気が、冷房で冷やされた身体にまとわりつく。

ブブッ

手のひらのスマホが震える。画面を見るとさっき頭の中で考えていた出会い系からの通知だった。

「え?」あまりに驚いて3度画面を見返した。

ここ半年、なにも通知がなかったのに、このタイミング?ウケんだけど。てか、あの条件で連絡してくるやつってどんなやつだよ?

通知を興味半分で開く。

『HINA 20歳 ネコ 初めまして。ネコですが、まだ抱かれたことがありません。経験してみたいです。初めてなので優しく抱いてくれる人を探しています。もし、こんな条件で良かったら連絡下さい』

え、なにこいつ。おもしろ。てか、見ず知らずの男と初体験しちゃっていいわけ? って俺も初体験は出会い系か。人の事言える立場じゃないか。  でも、抱く側、抱かれる側で初体験への気持ち、違いそうな気もするけどな。

えー、どーしよ、キモいやつだったら。

ま、なんにしろ初体験させてやったらいいんだし、俺も久しぶりのセックス楽しめるから、いっか。会ってみてキモそうな奴だったら何かと理由つけて断ろ。

信号待ちをしながら、メッセージを打ち込んだ。他の奴に取られないよう、キープキープ。

『連絡ありがとう。条件見てもらってるよね? 俺、今日これから空いてる。住んでるとこ近いよね?』

一応条件念押ししとこ。送信すると、2分もしないうちに返信がきた。アパートのエレベーターに乗りながら、スマホを確認する。

『こちらこそ、こんなお願いですみません。AKITOさんの条件確認致しました。初めてなんて、面倒かとおもうんですが。 家も近所そうだったので、連絡してみました。俺も今日この後時間あいています。』

ふふ、慣れてない感満載。これで綺麗な子だったら俺大当たりじゃね?って出会い系に期待しないしない。今までいい思いしたことないだろ。セックス以外。

『花◯駅、20時でどう?俺、家で会うのはNGだからラブホでいい?初めてだけど、準備の仕方わかる?わかるなら準備してきて。わかんないなら手伝うわ。』

『頑張ってみます…が、もし不十分な点がありましたら、教えて頂きたいと思います。20時了解しました!』

ふふ、こいつおもしろ。仕事の連絡のやり取りかよ?

さぁて、シャワーして、軽く飯でも食って、久しぶりのセックス楽しみますかー。

ガチャッ、

家の鍵を木のオブジェに引っかかると、ショルダーバッグを玄関にそのまま置き

歩きながら服を全て脱ぎ、洗濯機へと放った。

久しぶりの熱い夜を期待して、勝手に下半身が熱を持つ。

「だめだって。夜までのお楽しみ。あーー、お願いだー、俺好みのイケメン、こい!!」

独り言を呟きながら、シャワールームの扉を閉めた。

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