人形の起動は失敗だった。
シャンタルの記憶を受け継ぐはずだった人形は、普通のなんの変哲もない人形として目覚めた。
もちろん、シャンタルの記憶を受け継いではいない。
ボクに向かい、あの人形はまず自分の顔を指さした。
そして、次にボクの顔を指さして、お辞儀をし、首を傾げた。
これは人形の、普通の人形の主人を確認するための動作だ。
私の主人はあなたですか、と、そう言う確認だ。
本来なら、ここで主人となる人間を連れて来て主人として登録させる。
マニュアル通りの、人形の初期動作でしかない。
ボクはそんな事を、この人形のランガージュ・ド・プログラマスィオンに、制御術式に書き込んだ覚えはない。
なのにどうして、こんな動作をするのか、訳が分からない。
だが、この動作はボクの計画のすべてが失敗に終わったと、そう知らしめることでしかない。
ボクはその人形のその動作に絶句し、絶望する。
慌てて人形に名を聞くと、決められていないのか歪な音を響かせて、首をかしげる仕草だけをした。
これも初期起動時の人形の返答でしかない。
人形の名前が定められていない、というだけの動作だ。
ボクは失敗したのだ。
そのまま、ボクは失意し、人形の初期起動を止め、初期設定中の人形を強制終了させる。
何がいけなかったのか、どこで間違ったのか、いや、ボクは最初から間違っていたのかもしれない。
人の魂と遺体を使って人形を作るだなんてこと、そもそもが間違っていたのだ。
その人形は、シャンタルの新しい体となるはずだった人形は、強制終了され動かなくなる。
これは、シャンタルの新しい体となるはずの、ボクの希望だったこれは、ただの人形でしかない。
ボクは失敗したのだ。
もうボクには重くのしかかる罪しか残っていない。
そこからボクは死んだような人生を送りだす。
最低限の生活に必要な金額分だけ仕事をして、後は寝て過ごした。
何もやる気が起きない。
死んでしまいたかったが、シャンタルとの約束でボクは自ら死ぬことも出来なかった。
約束は果たせなかったのに。
おめおめと生き続けなければならない自分が憎たらしかった。
そうして、どれくらいの時間がたっただろうか。
三ヶ月? 半年? 正確な時間はボクにもそれがわからない。
ふと気づくと人形が目に入った。
新しくシャンタルの器になるはずだった、人形がだ。
一瞬、その人形に憎悪を向けようとしたが、この人形はシャンタルの遺体を元に作った物だ。
それに憎悪を向けることなどボクにはできない。
ボクは考える。
なぜ失敗したのかと。
彼女の遺体まで使ったのに。
彼女は彼女として帰ってきてくれるはずだった。
シャンタルの魂をちゃんと捕獲できていなかったのか?
わからない。
制御術式をどこで間違えたのか、それも理解できない。
その人形は今や、埃をかぶっている。
シャンタルのガラス化した遺体を使ってまで作った人形なのに、今ではただの人形でしかない。
いや、起動していないので人形ですらない。
ボクはその人形の埃を払ってやる。
これもシャンタルなんだ。そう思うと、埃を被せておくのも忍びなかった。
それから数日たち、人形を拭いて綺麗にしてやるようになった。
毎日、ボクは暇さえあれば、その人形を磨いた。
何も考えず、ボクが生きる目的が、まるでこの人形を磨くことなのだと、そう錯覚するように。
けれど、そうしているとボクは徐々に人間らしい生活を取り戻していった。
まるでシャンタルが今のままではダメだ、そう囃し立てているような、そんな気が、この人形を見ているとするのだ。
ボクはそれに逆らえない。
この人形と関わっていると、日に日に人間らしい生活を取り戻せていった。
そして、ボクがまともに生活できるようになったころ、ボクは気まぐれを起こす。
この人形をもう一度、起動しようと、そう考えてしまう。
もしかしたら、起動さえしてしまえば、そんなあるわけもない、と分かりつつも一縷の望みを抱いて。
ボクは当時のまま、埃が被ったままの手巻き発電機を手に持つ。
そして、埃を払いそれを人形に接続する。
恐らく目覚める人形は人形であり、シャンタルではない。
そのことは理解できている。
それでもボクはどうしても希望を持ってしまう、手巻き発電機のハンドルを回し、起動信号を人形に送る……
そして、人形は目覚める。
もちろん、人形として。
だから、ボクはその人形に、人形と、プーペと名付けた。