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【第七十五話】覚醒

 人形の起動は失敗だった。

 シャンタルの記憶を受け継ぐはずだった人形は、普通のなんの変哲もない人形として目覚めた。

 もちろん、シャンタルの記憶を受け継いではいない。


 ボクに向かい、あの人形はまず自分の顔を指さした。

 そして、次にボクの顔を指さして、お辞儀をし、首を傾げた。


 これは人形の、普通の人形の主人を確認するための動作だ。

 私の主人はあなたですか、と、そう言う確認だ。

 本来なら、ここで主人となる人間を連れて来て主人として登録させる。

 マニュアル通りの、人形の初期動作でしかない。


 ボクはそんな事を、この人形のランガージュ・ド・プログラマスィオンに、制御術式に書き込んだ覚えはない。

 なのにどうして、こんな動作をするのか、訳が分からない。

 だが、この動作はボクの計画のすべてが失敗に終わったと、そう知らしめることでしかない。


 ボクはその人形のその動作に絶句し、絶望する。

 慌てて人形に名を聞くと、決められていないのか歪な音を響かせて、首をかしげる仕草だけをした。

 これも初期起動時の人形の返答でしかない。

 人形の名前が定められていない、というだけの動作だ。


 ボクは失敗したのだ。

 そのまま、ボクは失意し、人形の初期起動を止め、初期設定中の人形を強制終了させる。

 何がいけなかったのか、どこで間違ったのか、いや、ボクは最初から間違っていたのかもしれない。

 人の魂と遺体を使って人形を作るだなんてこと、そもそもが間違っていたのだ。


 その人形は、シャンタルの新しい体となるはずだった人形は、強制終了され動かなくなる。

 これは、シャンタルの新しい体となるはずの、ボクの希望だったこれは、ただの人形でしかない。

 ボクは失敗したのだ。

 もうボクには重くのしかかる罪しか残っていない。


 そこからボクは死んだような人生を送りだす。

 最低限の生活に必要な金額分だけ仕事をして、後は寝て過ごした。

 何もやる気が起きない。


 死んでしまいたかったが、シャンタルとの約束でボクは自ら死ぬことも出来なかった。

 約束は果たせなかったのに。

 おめおめと生き続けなければならない自分が憎たらしかった。


 そうして、どれくらいの時間がたっただろうか。

 三ヶ月? 半年? 正確な時間はボクにもそれがわからない。


 ふと気づくと人形が目に入った。

 新しくシャンタルの器になるはずだった、人形がだ。


 一瞬、その人形に憎悪を向けようとしたが、この人形はシャンタルの遺体を元に作った物だ。

 それに憎悪を向けることなどボクにはできない。


 ボクは考える。

 なぜ失敗したのかと。

 彼女の遺体まで使ったのに。

 彼女は彼女として帰ってきてくれるはずだった。

 シャンタルの魂をちゃんと捕獲できていなかったのか?

 わからない。

 制御術式をどこで間違えたのか、それも理解できない。


 その人形は今や、埃をかぶっている。

 シャンタルのガラス化した遺体を使ってまで作った人形なのに、今ではただの人形でしかない。

 いや、起動していないので人形ですらない。


 ボクはその人形の埃を払ってやる。


 これもシャンタルなんだ。そう思うと、埃を被せておくのも忍びなかった。

 それから数日たち、人形を拭いて綺麗にしてやるようになった。


 毎日、ボクは暇さえあれば、その人形を磨いた。

 何も考えず、ボクが生きる目的が、まるでこの人形を磨くことなのだと、そう錯覚するように。


 けれど、そうしているとボクは徐々に人間らしい生活を取り戻していった。

 まるでシャンタルが今のままではダメだ、そう囃し立てているような、そんな気が、この人形を見ているとするのだ。

 ボクはそれに逆らえない。


 この人形と関わっていると、日に日に人間らしい生活を取り戻せていった。


 そして、ボクがまともに生活できるようになったころ、ボクは気まぐれを起こす。

 この人形をもう一度、起動しようと、そう考えてしまう。


 もしかしたら、起動さえしてしまえば、そんなあるわけもない、と分かりつつも一縷の望みを抱いて。


 ボクは当時のまま、埃が被ったままの手巻き発電機を手に持つ。

 そして、埃を払いそれを人形に接続する。


 恐らく目覚める人形は人形であり、シャンタルではない。

 そのことは理解できている。

 それでもボクはどうしても希望を持ってしまう、手巻き発電機のハンドルを回し、起動信号を人形に送る……


 そして、人形は目覚める。

 もちろん、人形として。


 だから、ボクはその人形に、人形と、プーペと名付けた。







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