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【第六十五話】人形と敗北

 まずは軍用人形であるミリテールとかいうものと距離を取ります。

 一撃でも攻撃を貰えば、私の外骨格では受けきれません。

 ですが、外見からでも、おおよその攻撃範囲は予測できますからね。

 そこに入らない様に注意しながら、立ち回りましょう。

 そうすれば、とりあえずは危険はないはずです。


 ガシャン、ガシャンと足音を立てて、鋼鉄の外骨格を持つ人形が動き回ります。

 やはり動きはそこまで早くないですね。

 間合いにはいらないようにすれば、問題はなさそうです。

 もしくは人質を取ってしまうかですね。

 人形は基本的に個別に命令でもなければ、人に危害を加えられませんからね。

 ですが、私にはその制限がないので別です。

 他の人形にはできない人質を取ると言った行動も可能です。

 その上で、軍用人形に命令を出す人形技師でも無力化にとってしまえば、もう私の勝ちですね。


 それはと別に、まずはメトレス様を追わせないようにしないといけません。

 メトレス様の安全第一です。

 それには、あの市警を指揮しているあの人を…… まず無力化です!


 私は身を低くして市警さん達がまとまっているところに素早く駆け寄ります。

 剣や棍棒を構えてはいますが、人形相手にそれはあまりにも無意味ですよ。


 いえ、剣はともかく棍棒はまずいかもしれないですが。

 どちらにせよ、私には当たらないので意味がないのですけども。


 私に向かい剣や棍棒が振り下ろされますが、私の目にはその軌道がありありと見て取れます。

 こんなものにあたる訳がないです。


 華麗にかわしつつ縫うように市警さん達の合間を抜け、指揮をしている人の前に立ちます。

 指揮をしていた方は茫然と私を見上げます。

 私は指揮をしていた人の首に手刀を打ち込みます。

「グエッ」

 と、言って指揮をしている方が気絶…… あれ? しませんね?

 おかしいです。

 小説ではこれで気絶していたのですが、少し手加減しすぎましたか?


「こ、この…… ミリテールを……」

 痛みに耐え指揮をしている市警さんは更に命令を下そうとします。

「無理ですよ、巡査! ここは味方が多すぎます」

 と、軍用人形を扱う人形技師から悲鳴じみた声が上がります。

 なるほど。確かに軍用人形さんは図体も大きいですからね。

 人が大勢いるような場所では行動しにくいですよね。

 まずこっちに来て正解でしたね。

「この人形を捕まえろ! 早く! そして、メトレス・アルティザンを捕まえに行くぞ!」

 けど、指揮している市警さんはそんな事を叫びます。

 私の目の前で叫んでくれます。

 いい度胸ですね。

 私の目の前でメトレス様を捕まえるだなんて、そんなこと言えるだなんて。


 そう言われてしまったら私としてはこうするしかありません。

「それはダメです!」

 もう一度、今度は違うほうの首筋に手刀を叩き込みます。

「グワッ」

 と、巡査さんでしたか? そう悲鳴を上げて、今度こそ気絶してくれます。

 死んでは…… ないですね? ちゃんと心臓の鼓動が聞こえています。

 やっぱり力加減が難しいですね。

 でも今ので、大体の力加減は覚えましたよ。


「巡査!? おまえら、どけ!! ミリテールを寄せらんねぇ」

 次は、そう言っているこの市警の人形技師さんですよね。

 市警の方々が私を取り囲むように動いているため、軍用人形さんの動きが逆に制限されているようです。

 この人を気絶させれば…… いえ、そうしたら軍用人形さん達の命令を止めることが出来なくなりますね。

 下手をしたらずっと私が狙われ続けけてしまいます。

 まずは、この市警の人形技師さんに軍用人形の停止を命令させる方が先ですよね?

 でしたら、この方を人質にしてしまうのが良いですね。

 軍用人形の命令系統を抑えてたのも同じことですし。

「あなたが人形技師ですね?」

 そう言って市警の人形技師の前まで移動して、私はその人の前に立ちはだかります。

 他の市警さん達は私の動きについて来れていないですね。

 ふふ、相手にもなりません。

「さあ、痛い目を見たくないなら、軍用人形を止めてください」

 そう言って脅して見せますか、市警の人形技師さんは顔を強張らせながらも、

「そんな要求飲める訳ないだろう?」

 と、返事をします。

 強情ですが、犯人の要求を飲まないのは市警の鏡ですね。


「私もメトレス様もすぐにこの町を離れます。それでいいじゃないですか?」

 もうこの街には関わらないです。

 それではダメなのですか?

「逃すわけないって言ってんだよ!」

 市警から、人形技師さんから見ればそうなのかもしれませんね。

 私からすれば、どうでもいい事なのですが。

 でも、利害は一致してませんか?

 このグランヴィル市には迷惑かけてませんし、ほっておいて欲しいですよ。


「じゃあ、少し痛い目を見てください」

 私はそう言って人形技師の手を掴みます。

 そして、少しだけ力を込めます。

 人形技師さんの骨が折れない程度です。

 結構痛いとは思いますけども。

「クソ、何でこの人形は命令もなく人間に危害を加えられる?」

 痛みに耐えながら、人形技師さんはそんな事を言います。

 その理由は私もさっき知ったばかりなんですよね。

 私には制限がないそうですよ。


 なので、

「私は自由ですので」

 と、自慢げに答えてあげましょう。

 私の返事を聞きながらも、人形技師さんは、顔を痛みでこらえながらも、したり顔って奴をしています。

「けど、オレに気を取られすぎたな」

 いえ、大丈夫です。

 ちゃんと軍用人形が私の背後に迫っていることは理解してますよ?

 だって、人形の全身は耳のようなものですからね。

 全身で振動を、声を感じ取っているのですから。

 そちらを見ていなくても分かっています。

 でも、軍用とはいえ、人形は人形です。


「いえ、問題ないですよ。あなたを人質にとれば……」

 そう言って、人形技師さんの目を見ますが、その目は覚悟の決まった人間の目でした。

「バカか。ミリテールは普通のランガージュ・ド・プログラマスィオンじゃないんだよ。戦闘用のを使ってんだ」

 戦闘用の? 普通のランガージュ・ド・プログラマスィオンではない?

 それは聞いてないですよ?

「え?」


 次の瞬間、私に強い衝撃が走り、宙を舞いました。

 人形技師さん共々、軍用人形の一撃を受けました。

 まさか、人形技師を、自分の主人を巻き込んで攻撃してくるのは予想外でした。


 まずいですね。

 私の破片が飛び散っています、私の外骨格が砕けています。

 私は人形なので大丈夫ですが、この人形技師さんは危ないですね。


 仕方がないです。

 私が守らないと。

 壁に打ち付けられる瞬間、私はこの人形技師さんを抱きかかえて守ります。


「なんで、オレを庇った? や、やめろ、もう止まれ、追撃はいい。そもそも壊すなって命令したろ!」

 そのおかげかはわからないですが、人形技師さんはすぐに起き上がって、軍用人形の動きを止めてくれます。


 後は、私がこの人形技師さんを無力化すれば……


 と、思ったのですが、私の右手が動きません。

 というか、なくなってます。


 ああ、右上半身が全て砕けてしまいました。

 外骨格だけでなくネールガラスまで……

 これはまずいですね。

 ネールガラスを壊されたら、人形は動けません。


 しかも、右半身だけでなく体全体が上手く動かせないですね。

 これはお手上げです。どうにもなりません。


 メトレス様…… どうかおひとりでお逃げください。

 プーペはまた失敗してしまいました。






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