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【第六十四話】人形と戦い

 完全に囲まれましたね。

 生身の市警さん達はどうにかなると思いますが、軍用の人形はどうにもなりませんね。

 巨体故に私よりは動きが遅いのが救いかもしれませんが、それでもメトレス様を抱えたまま逃げ出すのは無理ですね。

 となると……

「メトレス様、私が時間を稼ぎます。先に向かっていてください」

 私が時間を稼いでいるうちにメトレス様には教会に向かってもらい、私もきりの良いところで逃げさせてもらうというのが、合理的でしょうか?

 私一人なら、何とか逃げ切れると思いますし、狙いは私でしょうから。


 私の言葉を聞いたメトレス様は目を見開き言います。

「そんなことできる訳が……」

 ああ、ああ、その言葉だけでプーペは嬉しく思いますよ。

 とても、とても、嬉しいですよ!

 ですが、現実的に考えて、メトレス様を抱えながら逃げ回るのは無理なのですよ。

 私が本気で跳ね飛び回ったら、それこそ人間には耐えきれません。


「ですが、メトレス様を抱えてたままでは……」

 私の本来の性能を発揮出せなのですよ、メトレス様……

 私もですね、本音を言うとこのままメトレス様を抱えてはいたいのです。

 ですが、この状況がそれを許してはくれません。

「攻撃をかわせない…… か……」

 そうです。

 メトレス様もやっとわかってくれたようです。

 あれですね、メトレス様が私に市外に先に出ていてくれと言われたときの気持ちですね。

 今なら理解できます。歯がゆいです。

 でも、実際問題として、このままでは二人とも捕まってしまいます。

 それに、メトレス様を抱えていなければ、私も本気で動けます。

 あんな愚鈍な鉄の塊に捕まるようなへまはしません。

 何も問題ないのです。


 ただ、こんなに弱っているメトレス様をお一人で行かせなければならないのは心配でならないのですが。

「すいません。弱っているところに」

「いや、いい、もうかなり近くまで来ている」

 確かにかなり近くまでは来れていますが……

 それでもかなりの距離がありますよ。

 大丈夫でしょうか、メトレス様。

 弱っているメトレス様を一人で行かせるのは心苦しいですが……


 そこで、市警さん達が話している内容が人形の私には聞こえてきます。

 人形は声を振動として捉えるので、雑音が多い中でも私には人の声を把握することが出来ます。

「それに…… どうやら私だけでなくメトレス様にも手配が回っているようです」

 そう、市警さん達の上げる声の中に私の事だけなくメトレス様の確保の声も聞こえてきています。

 市警さん達が殺さずに確保と言っているのは、万が一の時には一安心ですが。

 そう簡単にメトレス様を確保させるわけないじゃないですか。

 でも、そうなるとメトレス様を一人で行かせるのは余計に心配ですね。

「そうか、そうだよな。この情報が教会に渡れば、市長は終わりだからな」

 メトレス様はそう言って大事そうに抱えている鞄を見ます。

 恐らく市警は、というか市長は、ですかね? メトレス様の人形技師としての腕、恐らくフリットさんから情報がわたって、ランガージュ・ド・プログラマスィオンを解読できることが理由のようですね。

 そんな理由からと、市警さん達の会話から推測できますね。

 メトレス様は優秀すぎるのですね。

 流石ですね! メトレス様は!

 でも、そうすると市長は身を亡ぼすとは、これっぽっちも考えていない、という訳ですか?

 それとも、どちらにせよ捕まえてしまえばよいと、そう考えているんですかね?


「すまない。プーペ、必ず市外で落ち合おう」

 メトレス様が決心したようにそう言ってくれます。

「はい、約束ですよ、メトレス様」

 西門を出てしばらく行くと見える一本杉の元ですよね。

 ちゃんと承知しております。

 その一本杉がどこにあるかは、私は知りえませんが、メトレス様が目印に、というくらいなのですぐにわかるのでしょう。

 問題ありません。

 それにメトレス様との約束です。

 私が破るわけないです。


 抱えている手を緩めて、メトレス様を立たせます。

 メトレス様はおぼつかない足取りですが、走って教会を目指していきます。

「メトレス・アルティザンが逃げたぞ、追え!」

 それを見た市警さん達がそう声を張り上げます。


 そこへ地面から拾い上げた石を市警さん達に向かって投擲します。

 もちろん、当てないですよ。

 人形の力により投擲された石は近くの塀に当たり、塀を粉砕しつつ粉々に砕け散ります。

「私がいる限り、メトレス様は追わせませんよ」

 そして、驚いている市警さん達にそう声をかけます。

 これで、そう簡単にメトレス様は追えなくなりましたよね?

 この威力で牽制したのですから。


 それを見た市警の、多分、一番偉い方ですか?

 恐らくは巡査くらいの人でしょうか。

 私が喋っているのを見て、

「人語を喋る人形…… 人形の対処はミリテールにやらせろ! ただし、破壊はするな!」

 と、指示を飛ばします。

 あの人がここの現場の指揮官ですかね?

 ミリテールとは…… なんでしょうか?

 いえ、わかります。

 予測はできますよ。

 恐らくは軍用人形の事ですよね?


「ミリテールはそんな便利にできてませんぜ」

 と、恐らく市警の人形技師の方がそう言い返しているのが私には確認できます。

 あの方が軍用人形の主人ですよね?

 あの方も要チェックです。

「無理でもやらせろ」

 と、指揮官の人が叫び返しています。

 技術者の意見を全無視なのは、良くないですよ。

 でも、そうしないと市警の現場責任者なんてできないんですよね、きっと。


 でも、まずは狙うのは、あの偉そうな人ですね。

 ここから先は私も本気ですよ!

 誰も殺さないように。

 それでいて、メトレス様との約束を守れるように。

 私も本気で行きますよ!






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