私はメトレス様を抱きかかえ、メトレス様が私にしがみ付いた状態で教会へと向かいます。
良いですね。
けど、どちらかというと私としては抱きかかえられたいのですが、人形の私相手ではそれは無理ですね。
一応、街中なので周りに気を着けてはいますが物凄い速度で教会へと駆けていっています。
確かに目立ちますが、その情報を聞きつけて市警が来る頃には、私は遥か遠くに走り去った後です。
何も問題ありません。
もはや周りなど気にせずに、一気に教会へと向けて突き進むのみです。
いえ、いえいえ、ちゃんと安全には気を着けていますよ?
なにしろ私は人形ですからね。
人にぶつかってしまっては、その人が死にかねません。
余裕を持って人を避け、交差点などには特に注意を払っています。
目には見えなくとも、声を振動として捉える人形には、周囲の振動で人形は周囲の状況を察知できるんです。
なので、なんの問題もないですね。
まあ、私以外の人形がそこまでできるかどうかはわかりませんが。
少なくとも私は振動である程度、周囲の状況を把握できますね。
そんな能力を駆使して、石畳の道路を揺らし、道行く人々を避け、私は突き進みます。
でも、流石にメトレス様とおしゃべりしている余裕はないですね。
その点だけは残念です。
せっかくのメトレス様と一緒に街中を歩けるチャンスでしたが、場合が場合ですので。
こんな時でもなければ、ゆっくりとメトレス様と街中を歩きたかったものです。
それだけで私は幸せでしたのに。
このあとは街を出ていくので、もうそんなチャンスはないのですよね。
それもまた残念ですね。
メトレス様と街中をおしゃべりしながら歩いてみたかったのですが、こればっかりは仕方ありません。
それらとは別に人形である私が全力で走る中、メトレス様が口を開いたりでもしたら、それこそ舌を噛んでしまいます。
まあ、現状では色々と無理ですね。
きっぱりと諦めましょう。
ついでに、一緒にカフェを楽しみたかったのも、もう諦めるしかありませんね。
いつしか、私が街に帰ってこれる様な、そんな日が来ることを祈るしかないですね。
メトレス様と一緒であるのであれば、そんな事は些細なことでしかないですけどね。
ディオプ工房から教会までは少し距離があります。
また高低差も少しあります。
教会は小高い場所にあるんですよね。
だから井戸がないのでしょうか?
また別の理由で井戸がないのかも、わかりませんが。
まあ、あの教会も古い建物ではありますから、何かしらの理由があるのでしょう。
でも、もうその教会を目視することが出来ます。
まだ、だいぶ距離はありますが、私の脚ならすぐですね。
白い壁に青い屋根。
大きな鐘を吊り下げている鐘塔も見えます。
後はあそこまで走れば、メトレス様の用事も終わりです。
晴れて二人で逃亡劇の再開ですね!
人気のない山小屋でメトレス様と二人で生活……
それもまた素敵じゃないですか。
と言ったことろで、目の前に人が立ちふさがります。
この服装は…… 市警の制服ですね。
先回りされたのですか?
考えれば無理もない話ですか。
行き先も教会と既に分かっているでしょうし。
でも、猛進してくる人形の前に立ちふさがるだなんて、勇気ある人達ですよね。
私にぶつかられたら、まず助からないでしょうに。
これは私の方が避けてあげなくちゃいけませんね。
でも、人形は急には止まれないんですよ。
まったく。
なので、私は市警さん達を避けるように飛び、勢いに任せて、そのまま壁に飛び移り壁を走りぬけて市警さん達をかわしてから、再び道路へと着地し直走ります。
多少、壁にヒビのような跡が残ってしまいましたが、仕方がないですね。
後で市警さんの方で直して置いてくださいよ。
私が壁を使って市警さん達を飛び越えると、市警さん達から様々な怒号が飛んできますが、もちろん、それも無視です。
中には怒りたくなるような言葉も飛んできていましたが無視です。
相手になどしてあげません。
ただそれらとは全く関係ない話しですが、メトレス様がギョッとした顔で私にしがみ付いて来てくださっているのは、良いですね。
とても良いです。
と、言ったところで、私はとある振動を既に感知しています。
その振動の主が黒く大きな影が建物の影からぬるりと出てきて、私の行く手を阻みます。
人間ではありません。
シルエットこそ人型ですが、かなり大きいです。
こうなることを予期して、建物の影にあらかじめ待機してたのですか?
あれが…… 軍用の人形でしょうか。
鋼の全身鎧、それが外骨格となっている軍用人形、という奴ですね。
凄い威圧感ですね。
確かに、これは…… 勝負になりませんね。
まず、こちらからからの攻撃は通りませんし、相手の攻撃を私が受けると一発でこちらの外骨格を割られてしまいます。
これでは確かに逃げの一手しかないですね。
走る速度だけでも勝っていればいいんですか……