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【第五十二話】人形と逃走劇、伍

 私は竈の前にメトレス様を寝かしたまま、廃修道院からでました。

 この廃修道院は高い壁に囲まれていますが、人形の私からすればどうということはありませんしね。

 壁など一っ飛びです。どちらかというと着地の時になる音の方が問題ですね。

 まあ、それも私は華麗な着地でそれほど音を立てませんが。

 いえ、人形の重量を考えれば無音の着地など無理です。

 確かに塀の上から飛び降りたとき、ドスンとかなりの物音をさせました。

 ですが、周りに人はいません。

 誰にも気づかれてはいません。

 なので、なにも問題ありません。


 問題ないとはいえ、私の外骨格は特別製とはいえ陶器です。

 通常のものより硬く頑丈で割れにくいですが、やはり衝撃にはあまり強くはないです。


 こういった強い衝撃を受ける行為には気を着けないといけないですね。

 なんで人形の外骨格は陶器なのでしょうか?

 金属製とかの方が良かったんじゃないんですか?

 そんなことを私は考えてしまいます。


 人形の外骨格には陶器を使わなくてはならない決まりでもあるのでしょうか?

 まあ、そんな事はどうでもいいですよ。

 今はスープを、温かいスープを作らないといけませんし。

 早く帰らなくてはいけません。


 外から廃修道院を改めて見ます。

 竈に火をつけたままですが、特に煙が目立つほど出ていません。

 あの椅子も乾燥しきっていましたからね、煙もあんまりでないのでしょうか?

 これなら煙で外からバレることもないでしょうか?

 やはり問題ありませんね!


 さて、何か温かいスープを、スープの具材になるような物を買いに行きましょう。

 メトレス様の傍にもいたいですが、そうも言ってられませんしね。

 逃げ出すときに汎用の人形用メイド服を着てきて正解でした。

 これなら街中をあるいても目立ちません。

 地下水路もこれで歩いて来たので、濡れてしまってはいますが、もう大分渇いています。

 問題ありません、よね?


 問題があるとしたらお金でしょうか?

 メトレス様のポケットに入っていた三グランと五ミヤンしかありません。

 本当に小銭程度しかありません。

 ポケットに入れておく小銭程度の金額です。

 あと一応、三プティもありましたが、こちらは本当に小銭過ぎて、なんの意味がないですよね。

 端数という奴ですね。

 一グランが二十ミヤンで、一ミヤンが十二プティです。

 ミヤンやプティは、まあ、気にする必要はない少額ですね。

 けれど、三グランだけでは大した物を買うことはできませんね。


 ちゃんとした財布があればよかったのでしょうが、見つかりませんでした。

 メトレス様はどこに財布を持っていたのでしょうか?

 まあ、それは良いです。見つからなかったので、いつまでも悔やんでいては仕方ありません。

 今は急ぐ方が大事です。


 もう日が昇っています。

 朝市も始まっている頃でしょうか。

 きっともう人も多いでしょうが、それ以上に人が増える前に、さっさとメトレス様の為に食材を買って来なければなりませんからね。

 もたもたしていれば、それこそ人であふれかえってしまいますし。

 あまりお金もないですし、手頃なもので、体が温まる様なものを……

 そう言えば、生姜が体を温めると聞きましたが、手持ちで買うことは無理ですよね。

 あれは東洋の薬草で輸入ものですので値が大変張ります。

 今の手持ちでは到底買えないでしょう。


 だとしたら、ニンニクとタマネギでしょうか?

 これらなら手頃です。

 手持ちのお金でも一玉ずつなら買えるはずです。

 買えますよね?

 よし、そうしましょう。




 無事に朝市でニンニクとタマネギを一玉ずつ買うことが出来ました。

 人形が朝市に着たことで、かなり目立ってしまいましたが。

 それは仕方がない事です。

 お店の方も驚いていらっしゃりましたね。

 しかも、ニンニクとタマネギを一玉ずつしか買っていかないのです。不信ですね。

 どうしても印象に残ってしまうでしょうが、メトレス様の容態が回復したら、さっさとこの町から出ていくので平気でしょう。


 さあ、メトレス様の元へ急いで帰りましょう。

 温かいスープを作って差し上げなければなりません!






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