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【第四話】人形の自分にできること

 私の体も大分最適化が進み、体を動かしても軋むような音もあまり鳴らなくなりました。

 これは良い事です。

 私が思うのもなんなのですが、とても不愉快な音でしたので。

 本当に酷い音でした。

 ネールガラスは古代に生きていた竜が化石化した物から抽出して作る、と聞いたことがあります。

 本当かどうかは知りません。

 竜など本当にいたのでしょうか?

 少なくとも、今、竜と呼ばれるような生物はどこにも存在してはいません。

 だからかなのか、どうかはわかりませんが、人形である私の意志に反応して、このネールガラスという物は伸縮します。

 それで、私を動かしてくれるそうです。

 私からするとなんで化石を元にしたガラスが動くのか、まったく理解できないのですが。

 でも、勝手に最適化までしてくれるというのだから、まったく便利な化石ですね。

 その化石も最近は余り採掘できなくなってきたと聞きます。

 ネールガラスがなくなってしまったら、人形技師のメトレス様はどうするのでしょうか?

 人形技師を廃業なさるのでしょうか?

 その時が来たら、私が働きに出てメトレス様を食べさせてあげないといけませんね。

 そのためにも、もっと最適化させておかないといけません!

 頑張らないと!

 今日はメトレス様も自宅でお仕事をなされています。

 今は図面を書いておられます。

 人形の設計図をお書きになっています。

 私もこうやってメトレス様に設計図から書いていただいたのでしょうか。

 とても気になるところです。

 ただ、今日も私は暇です。

 暇を持て余しています。

 設計図をメトレス様が書いておられるので、お掃除をして振動を、小さな揺れをおこしてしまうと、お仕事の邪魔になってしまいます。

 私の体は重いので。

 動くと床を揺らしてしまうのですよ。

 困ったものです。

 製図はとても繊細な作業です。

 揺らすわけにはまいりません。

 でも、外でもできるお洗濯は昨日してしまいましたし、私は今日、出来るお仕事がないのです。

 人間の、メトレス様の、お役に立つために作られたのに、手伝えることがなにもないのです。

 早く火を扱える許可をもらって、お料理でもできるようになりたいものです。

 とはいえ、私では味見が出来ません。

 それでも上手く料理を作れるようになるのでしょうか?

「プーペ、悪いけど五十三番の右腕の外殻を持ってきてくれないか?」

 私がぼんやりとそんなことを考えていると、メトレス様からの御指示です!

 五十三番の右腕の外殻ですね。

 はい、と返事をしたかったですが、私は喋ることはできません。

 返事をすることが出来ません。

 その代わり行動で示します。

 私はそそくさと少しの軋む音と共に動き出し、五十三番の型で右腕の外殻を探し始めます。

 五十三番と言っても、実際に五十三個も人形の腕のサンプルがあるわけではないです。

 この五十三という数字は、通算で五十三番目の型番という意味です。

 つまり、五十三番目に考案された型という訳です。

 古い型のほとんどは既に廃番になってます。

 現役の型は精々十数個という話ですね。

 確かメトレス様は五十三番は良い出来の型番だと言っておられました。

 私にはよくわかりませんが、メトレス様が熱弁していたのできっと良いものなのでしょう。

 ついでに私の外殻の型番は四十八番です。

 女性型として一番流通している型番です。

 それだけに四十八番も良い型だと、メトレス様は仰っていました。

 私も誇らしいです。

 どこが良いかまでは知りませんが。

 それよりも今は五十三番の型です。

 壁に飾られている五十三の札が付いた陶器を、右腕の部分の外殻を取り出します。

 私からすると重くない物ですが、人からすればそれなりに重たい物かもしれません。

 陶器の塊のようなものですからね。

 誇れることではないですが、私自身もかなり重いです。

 なにせ私の全身は陶器とガラスがみっちりですから。

 歩くと、どうしても床を軋ませるくらいには重いですよ。

 五十三番の右腕の外殻持ち、図面と睨めっこしているメトレス様の隣に立ちます。

 しばらくして、メトレス様は私から五十三番の右腕を受け取ります。

 その時にメトレス様は私に向かい、

「ありがとう」

 と、ねぎらいの言葉をかけてくれます。

 人形である私に対してです。

 物である私にです。

 ああ、ああ、私はなんて幸せ者なのでしょうか。

 私は御主人様に恵まれているのですね。

 この恩を返したい、私は、プーペは、メトレス様に何かしてあげたいのです。

 命令されたからではなく、私が自発的に何かをしてあげたいのです。

 何か、何かないでしょうか。

 火と刃物は禁止されているので、それを使わない事でなにか、何かないでしょうか?

 ああ、ああ…… 何か、メトレス様にしてあげたい。

 そう思い立つと、じっとなどしていられません。

 何か行動したくてたまりません。

 でも、私は人形です。

 命令もされないのに勝手なことをするのは人形的に良くありません。

 命令されない限り人形は直立不動でいる。

 それが人形という物です。

 少なくとも私の知識ではそうなっています。

 私は、プーペは不良品なのでしょうか?

 御主人様が、メトレス様が作ってくださった人形である私が不良品であるわけがないです。

 だとすると、この気持ちは何なのでしょうか。

 居ても立っても居られない、この気持ちはなんなのでしょうか?

 もっとメトレス様のお役に立ちたい。

 お手伝いをしたい。

 お世話をしたい。

 それが、それだけが私の使命なのです。

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