雄馬先輩に看病をしてもらい、だいぶ体調が良くなったので俺は教室に戻ることにした。約束通り先輩と自分のハンカチを交換したあと、雄馬先輩は「もう大丈夫そうだね、じゃあ俺は空き教室にでも行くかなー」と告げ、ふらふらとどこかへ行ってしまった。
時間的に入学式も終わり、あとは教科書の配布と寮の案内だけ。チャイムは鳴ったが今が休み時間かどうかも分からない今、俺はこっそりと教室の扉を開けた。
「……良かった、休み時間だ」
もうグループが出来ているのか、複数人で楽しそうに話している男子を横目に俺は自分の席に着く。
「よっ! 大丈夫だった?」
「……え、」
後ろから明るい声がして咄嗟に振り向くと、入学式中に俺に声をかけてくれた男子生徒が右手を上げてはにかんでいた。
「えーっと?」
「俺は木高晋太郎、しんたでいいよ」
「俺は柿崎真翔、真翔でいいよ。さっきはありがとう」
「真翔ね、オッケーオッケー! いやぁ、びっくりしたよ。何となく隣見たら真翔ったらまさに顔面蒼白って感じなんだもんな」
「いやぁ、緊張しちゃって……」
「入学早々、具合悪くなるなんて大変だったな? で、何で緊張?」
「友達、出来るかなって……俺が積極的に話しかけられない性格なのは、自分で理解してるんだけど。ほら、体育館行く前に他の男子たちが仲良く話してるの見ちゃってさ。もういくつかグループも出来てるみたいだし出遅れたなぁ、って」
「それなら心配ないじゃん?」
「なんで?」
「いま俺とこうやって話せてるじゃん」
「あ、そう言われたらそうだ……凄いなぁ、しんたは」
「そうか? 何が凄いのかは俺には分からないけど……」
「そうだよ。コミニュケーション能力が高いっていうか……あと、心配して話しかけてくれたの、しんただけだし……まぁ、心配されたくて具合悪くなってたわけじゃないんだけどさ」
「あっはは! そりゃそうだ!」
しんたは、からからと大口を開けて笑った。爽やか、という言葉がピッタリなくらいに。
「あと……」
「ん?」
「一度だけじゃなくて、二回も俺に声かけてくれたし」
「それは俺が真翔と友達になりたかったからさ、それでこうやって声かけてみたってわけ。席も前後だしさ」
「あはは……嬉しいよ、ありがと」
『友達になりたかったから』。
その言葉が心から嬉しくて、俺は自然と笑みが溢れる。しんたと話してから、友達が出来るか不安だった心がスッと軽くなって、緊張が解けていく感覚が胸にじわりと暖かくなる。
そこで、顔を赤らめているしんたの姿が視界に入った。
「しんた……?」