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第28章 ライブの同時視聴配信ってアリですか?④



 年が明けて30分ぐらい。年末→お正月あけおめライブも終わり、温かな雰囲気の中俺の配信も終わりとなった。穏やかな気持ちで近所の神社に初詣でも行くか、と思い立って立ち上がろうとすればLEINに通知が入る。


『あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします』

『あけおめ!今年もよろしくね~~~ライブ見てくれてた!?』


 お、休憩に入ったんだろうか?鈴羽と世那からのLEINが入った。同時に送られてくるところに今まさに集団行動から解放されたんだろうなあ、なんて勝手に想像を巡らせてしまう。


『あけましておめでとう。今年もよろしくな』

『ライブばっちり見てたぜ。本当に最高のライブだったわ。マジで毎年このクオリティをありがとう……』


 そんなヲタク的文面を送る。もちろん、手を合わせた絵文字も忘れずに。


『隼人が珍しくヲタクの文章を打ってるわね』

『これは余程刺さったと見た!』


 ぐぅ!正解!うぃんたそのウィングは死ぬほどよかった、やっぱり何度聞いてもいい。なにより、7月を選んだ理由が嬉しすぎて仕方なかった。セイラパートは珍しくしおらしいセイラの笑みにどきっとしたものだ。あれはヲタクに訴えてくるなにかを含んだ笑みだった。だけど、それを文章にするとなんだか気恥ずかしさが勝って、どう伝えたものか。と悩んでいると追加のLEINが入る。


『あ!お仕事呼ばれたから行ってくるね~、じゃっ』


 そう世那のあざらしが手を振ったスタンプが入る。ああ、そうか。この後もお正月スペシャル配信の出演が続くのか。となると。同じく仕事が続くであろう鈴羽を拘束しておくのも気が引ける気がして俺が文章を打って送信しようとした瞬間であった。


 ~~~♪~~~♪


「うぉっ⁉」


 LEINが着信を告げる、相手は鈴羽だった。え、え、どうした?俺は若干の戸惑いを抱えながら応答ボタンをぽちり、と押す。


「おう、どうした?」


 声だけは平静を装って。なんだろう、鈴羽から配信終わりのゆるゆるとした通話以外の通話がかかってくることはかなり珍しい気がして。


「あ、あー……ごめんなさい、完全に勢いで通話をかけたわ」


(お……?)


 普段よりうぃんたその声に寄っている微妙に高めの声で鈴羽の口調で喋っているのを聞くとちょっと不思議な気持ちになる。


「いやいや、俺は大丈夫」

「そう、それならよかった」


 こほんと一回咳払いが聞こえる。そして、比較的普段の鈴羽のトーンに近づけた声で鈴羽が喋り始める。


「ライブ後のハイでちょっと、隼人と喋りたくて」

「はは、俺でいいならいくらでも。丁度配信も終わったところだしな」


 こういう時にいの一番に通話をかける相手が俺、というのはなかなかに嬉しいものがあった。いや、きっと世那と話したり他のメンバーとも話したんだろうけど、俺は自分の浮かれそうになる気持ちをなんとかかんとか沈めて努めていつも通りのテンションを維持する。


「そう。今回のライブ、どうだったかしら?って言っても一曲と全体曲だけだったのだけれど……」

「最高!っていうとありきたりかもしれんがマジでその一言だな。あと、なんとなく初心を思い出したわ」

「初心?」


 鈴羽の問いかけに、俺は深く頷く。


「VTuberとして復帰しようと思ったきっかけの歌だったからさ、ウィングが。すんげー思い入れ深くて。まさに、俺の年末に聞くというか効く?歌だったわ」

「ふ、なにそれ」


 鈴羽が楽しそうにくすくすと笑う音が聞こえてくる。耳を擽る鈴羽の笑い声が心地よくて目を細めれば鈴羽が声を上げるのだった。


「ふー……いけないわ。ハイがキマりすぎて笑い上戸になってるわね」

「次の仕事に支障ないようにな。喉だって使いすぎると不味いだろ?」

「地声で喋る程度なら平気よ。……なんならうぃんの声で喋り続けても大丈夫よ」

「いやいやいや、地声で。な?」


 これは完全にハイになってますねえ。鈴羽の意外な一面に俺は目を丸くしながらも、新たな一面を知れたことにまた舞い上がりそうになってしまう。


「隼人はこのあとは@ふぉーむの公式番組を見ている感じかしら?」

「ん、んー……そうするか。今外に出ても寒いしな」

「あら。もしかして、外に出る予定だったりしたかしら?」


 鈴羽の申し訳なさそうな声。


「あ、いや、初詣行くかどうかって思ってた程度だし、今日じゃなくてもいいしな。だから、問題ねーよ」

「そう?」


 鈴羽の声が若干上向く。そうそう、問題なし。


「おう。あ、どうせなら今度3人で行くか。初詣」

「いいわね。……と言いたいのだけれど」


 鈴羽の声が残念、というトーンを含み始める。


「まだ、誕生日ライブまでは忙しいわね……でも、少しなら時間空けられるかしら……?」

「無理は禁物なー。じゃあ、2人の誕生日ライブが終わったらにするか」

「あら、そこまで待ってくれるの?」


 鈴羽のほんのりとした嬉しそうな声に俺は伝わる訳がないのに親指をグッ、と立てるのであった。


「もちろん。どうせならみんなで楽しくいこうぜ!」


 そんな会話をしていると鈴羽の通話口がちょっと騒がしくなる。そして、ちょっと端末に何かが覆いかぶさったように音が遠くなる。お、そろそろ呼ばれたか?となると、今日の通話は此処までか、なんて少し寂しくなりながら、俺は鈴羽が端末前に戻ってくるのを待つ。いや、突如ぶっち切られても驚きはしないが。俺がそんな風に思っていると、がさがさという音。


「呼ばれたわ。こっちからかけておいて、いきなりでごめんなさい」

「いやいや、大丈夫。むしろ、隙間時間でも話せてよかったわ。仕事頑張れ、鈴羽」

「ええ、頑張るわ。ありがとう、じゃあまたね」

「ああ、また」


 そうして通話が切れる。なんとなく「また」、その一言がむず痒くて、でも、温かで、俺は今までに感じたことのない感情に1人で戸惑いながら、ハッ、とする。


「鈴羽が仕事ってことはうぃんたその出番じゃん!」


 俺はそのことに思い至ると、いそいそとUtubeの@ふぉーむ公式チャンネルにアクセスし、今やっているお正月特別配信にアクセスするのであった。



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