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第28章 ライブの同時視聴配信ってアリですか?③


 そして、7月のうぃんたそからバトンを渡されて8月の担当が終わり、次は9月。


「星よ煌めけ!ボクが届けるみんなの願い星!星羅セイラ!」


 セイラの挨拶と同時に流れ始めるイントロ。お、この曲は。


『セイちキタ━(゚∀゚)━!』

『セイち!!!!』

『セイちも不思議なところきたなw』

『9月?うーん、活動セーブ報告は10月だしな?』


「じゃあ、早速行くよ!ボクの最新オリジナル楽曲……あるてぃめむーんがーる!」


 そして、一拍置いて歌が始まる。この曲はセイラが夏に出した最新オリジナル楽曲だった。この1個前の曲がシックな感じのする曲だっただけに、いい意味でギャップのある曲だ。曲のノリ自体はポップなのだが、その裏にギターの圧があって。俺はこれもこれで好きだった。


『あるてぃめか~』

『↑あるてぃめええやろ』

『俺は憂鬱回廊派』

『憂鬱回廊派……お前、イケセイち派閥だな?』


「ちなみに俺はどっちも好きだな。どっちも聞いて温度差で整うのがおすすめだ」


『サウナじゃねえかwwwww』

『セイちで整う……?』 

『確かに温度差は凄いが』

『秋城がうぃんたそ以外の曲を?』


「いや、流石に聞くわ。というか、セイラうぃんたそラインになると歩いているだけでも街中で聞こえてくるだろ」


『確かに』 

『都内歩いていると割とな』

『なるほど、秋城は関東圏在住』

『まあ、秋葉行くぐらいだし』 


 ま、まあ、それぐらいならバレることは問題ない。関東圏在住のVTuberはかなり多い……というか、今の時代全国各地にVTuberはいるしな。

 そうして、コメント欄とやいのやいの会話をしていると歌パートが終わり、セイラのMCパートに入る。


「さて。改めて、2039年9月担当の星羅セイラだよ。初見の方はどうぞボクのチャンネルを登録していってくれると嬉しいな。……さてさて、ボクが9月な訳なんだけど」


 セイラがキリッとした表情になる。こういう顔するとかっこいいんだよな。悔しいけど。


「ほら、10月にお仕事詰めすぎてセーブするよ~ってお話をしたじゃない?アレをね、決断したのが9月だったんだよね」


 セイラの言葉に思い出す、世那の人生相談。きっかけは@ふぉーむ様にうぃんたそとお料理コラボをしに行った終わり際、トイレから出ようとして世那とぶつかったことだった。そこからお互いがVTuberをやっていることを打ち明けあって……なんだっけ、転生を信じてもらうために、世那の人生相談を大人視点で受ける、みたいなことだったはず。そこで初めて聞いた、世那の過去。

 貧乏で、親を助けたくて、オーディションの賞金目当てでVTuberになった。そこからたまたまオリジナル楽曲が当たって、大成した。

 でも、成功しても悩みは生まれてくるもので。登録者数の停滞と同時接続数の停滞、それが世那を苦しめた。


「マネちゃんとかいろんな人に相談して回って、ボクにない視点を聞いたのが9月だったんだ。だから、ボクはこの9月を大事な月にしたかった、だから、2039年9月の担当はボクにしてもらったんだ」


 晴れ晴れとしたセイラの表情に俺はほっ、とする。もうあの時泣いていた世那は、セイラは遠い過去になったのだ。いや、うん、……やはり、身近なに人には笑っていて欲しい、その思いを俺は再確認するのであった。


『なんかセイちちょっと落ち着きが出てきたよね』

『分かる』

『昔の我武者羅感好きだけど』

『今のちょっと大人なセイちも好き!』


「本人が言う通り、いろんな視点を取り入れたんだろうな。そういうことができるの、企業勢の強み、だよな~」


 あくまでその影に俺が居た、なんてことは言えないので。俺は曖昧に笑ってその場を流す。


「今年一年、ボクにとって凄い激動だったんだけど……それを支えてくれた@ふぉーむの人やマネちゃん、応援してくれた視聴者のみんな、コラボしてくれているVTuberのみんな!本当に今年はお世話になったよ。来年も、ボクのことをよろしくね」


 はにかむセイラ。うん、やっぱり忘れがちではあるのだが、セイラもアイドルだ。本人には絶対に言わないが……可愛いところもあるもんだ。


『秋城それどういう表情?』

『しおらしいセイラ萌え?』

『秋城って表情ころころ変わるやつやったんやな』

『セイちに切り抜き送っとくわ~』


「送るな。いや、……そっすね。普段暴走列車なセイラがこう礼儀正しく笑うとな、うん……」


『素直に可愛いと認めちゃいなよyou!』

『かわええと思ったんだろ?思ったんだろ?』

『でも、セイちに可愛いって思うの敗北感あるのは分かる』

『↑なんでや!セイちかわええやろ!』


「まあ、ギャップ萌えってあるよな」


 って言ったところで、画面の中でセイラがレイピアを手に取って、かっこよく振り回し……火をつけるはずだった蝋燭を一刀両断している。


「……こ、これも織り込み済みさ!」

「嘘だな。すんげー声震えてっぞ」


『事故なんやろなあ』

『流石、大晦日も事故っていくぅwwww』 

『暴走列車やなあ……』 

『来年も暴走楽しみにしてるやで』


 そうして大急ぎで、セイんちゅ(デフォルメマスコットver)が駆け寄ってきて蝋燭を再構築する。そして、セイラが今度こそ、とレイピアを天高く掲げ、その剣先に火をともす。そして、その火を蝋燭に移し、9月の、セイラの出番が終わった。



 その後、@ふぉーむさんのVTuber2名の10月と11月の振り返りが終わり———来たる12月。つまりは、全員参加の全体曲だ。会場が暗転する。少し、何かが動くような反射が見えることからメンバーが待機しているのだろう。


「今年も終わるなあ……」


『しみじみするよな』

『@ふぉーむの年末年始ライブも大分恒例になってきたしな』

『この暗転の時間に染み入るものがあるよな』

『来年もこのライブ一緒に見ような』


 そうして、ゆっくり蝋燭が1本ずつ灯っていく。端から、1本目からぼぼぼぼ、と。そして、最後の12本目が灯った瞬間。

 例えるならアニメのオープニング。それも日常系よりの明るめの。そんなイントロが流れ始める。その曲は「ゆるゆる@えぶりでい」、@ふぉーむ設立1年目からメンバーが増える度に、歌詞の振り分けが変わって、長年少しずつ継ぎ足された老舗のラーメン屋の汁のような味わい深い曲だ。

 各メンバーそれぞれにちゃんと見せ場があって、担当歌詞があって。それはメンバーが増えてもちゃんと担保されて。……でも、そろそろ10分尺じゃ足りないんじゃないだろうか、なんて思わされるそんな@ふぉーむ様の歴史の曲。

 もちろん、うぃんたそやセイラの見せ場もある。ちなみに12月はMCはない。いや、うん、10分フルで使い切らないと人数的に歌いきれないからだ。この曲の終わりが、2039年の終わりで2040年の始まりだ。

 俺はライブの視聴を邪魔するわけにもいかないので、ライブ画面を見ながら心の中で12月を振り返る。

 鈴羽との2人での秋葉原へのおでかけ、その終わりに3人での焼き肉屋で世那から告げられた、秋城のアカウントが消えるかもしれないこと。その原因は前世の妹———都古が秋城のアカウントが動いていることに気づいたことだった。俺は妹の平穏と秋城のアカウントを天秤にかけて、秋城のアカウントを諦めきれなかった。だから、妹に直接会いに行った。会いに行って、いっぱい会話をして、また、妹と昔のように会話をすることができるようになった。

 そして、そこからの3Dお披露目配信に配信中の100万人突破……は、まだ、振り返るほど古い記憶にはなっていない。


(本当に、今年一年いろいろなことがあったな……)


 今年一年?というと少し語弊がある気もするが。主に、7月からの怒涛さがとてつもない。それまで気にも留めずに、なにかの奴隷になりかけてた俺の世界が、ありきたりな表現だが鮮やかに色づいた。まっすぐにVTuber活動に打ち込んで、時には苦しいことも、辛いこともあったけど、それでも総括して楽しかった、と言える。そして、また、来年も今以上に楽しかった、と言える年にしてみせる。

 だんだんと、「ゆるゆる@えぶりでい」が終わりに近づいていく。もう、来年まで数十秒もないぐらい。そして、曲が終わり———一瞬の暗転。そして、花火が吹きあがる。俺は自然と声を上げていた。


「あけましておめでとう!今年もよろしくな!」


『あけおめ!』

『あけましておめでと————ッ!』

『今年もよろしく!』

『よろしくな~』



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