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第24章 カードショップ経営ってアリですか?②

「店内は殺風景というか……商品棚一つはやる気あんのか?」


『初期設備としてはかなりやる気ないより』

『まあまあ、ニキが好きにできると思えば』 

『カドショらしいカドショ、作っていこうぜ』

『でも、お客さんはちらちら見てるやで』


 コメントで言われて店外に視線を向ければ、店内の様子を見る通行人たち。


「お、これはとりあえずなにか商品をおかなきゃいけないやつ。ガイドでも言ってたし、とりあえず発注をするか」


 俺がレジの下の端末を手に取れば目の前に大きく画面が表示される。おおう、VR。開かれた端末の画面はと言えば。


「く、最初から全部頼めるわけじゃないのか」


 青い、いかにも初弾です、みたいな面したパックしか発注はできず、それ以外のパックにはロックがかかっている。


『経験値貯めるんやでニキ』

『ショップレベルが上がればできることが増えていく』 

『ま、ペーペーのカドショに在庫多くは卸さんしな』

『売れるか分からんし』 


「それはそう。えーと、軍資金は10万……10万⁉え、経営舐めすぎでは……?」


『まあ、そこはゲームだから』

『吹いたら消える金額だよなw』

『よくこの金額で店出せたなって思う』

『現実のバトマスだったら1.5カートンぐらいか?』


「そうだな、現実のバトマスだったら大体1.5カートンぐらい。えーと、この青いパックが32パック1ボックスで4500円か。えー……大体1パックの原価が140円ぐらい、か?」


 俺は手元の端末の電卓で数字を弾きながら言えば、画面を電卓から発注画面に戻す。


「んー、でも、初弾だろ?ネット上でどれだけ騒がれてるとか、どこが出してるカードゲームかとか分からねえと仕入れ数判断できなくね?」


『秋城、秋城、これゲーム』

『とりま10万円分仕入れようぜ』

『そんなにガチるなw』

『カードゲーマー故の反応やな』


「というか、だ。コメント見てて思ったんだがそんなポンポン初手の10万使い切っていいのか?」


『セイちは使ってたよ』

『というか大体のVTuberは初手ぶっぱしてるな』

『なんだったら仕入れだっていうのを忘れて半狂乱でパック剥いたり』

『プレイイングギャンブラーが泣いてるぞ』


「俺はちゃんと確率計算とかするタイプのプレイイングギャンブラーなんですぅー」


『この間妹ちゃん相手に見切り発車した奴が何言ってるんだ』

『立派なギャンブラーだよ』

『今更頭脳派気取らないでもろて』

『秋城に頭脳派キャラは無理だよ』


 ぐぅの音も出ないとはこのこと。うぃんまどでも妹相手でも常に俺はゴリ押しギャンブルをし続けた。うん、立派な、かは分からないがギャンブラーではある。うん、否定できない。


「うーん、でもここブッパのしどころじゃなくね?だって初弾だぜ?入ってるのはバニラや1コスト、効果はファーストアタッカーのみ、みたいなやつばっかだろ?ブッパするべきは明らか高いカードのみで構成された再録パックや明らかにゲームがぶっ壊れた瞬間だと俺は思うんだよなあ」


『正論』

『秋城の正論パンチ』

『大局観が見えているTCGプレイヤーだから言えるやつ』

『セイちが爪の垢を煎じて飲むべきは秋城やったか』


 ということで、だ。


「とりあえず、5万円分だけ仕入れるか。資金の2分の1吹っ飛ばすのもちょっとこの後が怖いが……まあ、店の中すっからかんじゃちょっとな」


『あまりにも何もなさ過ぎてな』

『ショップレベルまず上げてショーケースやら買おう』

『デュエスペも欲しいな』

『まあ、まだチュートリアル』


「分かる。ショーケースも欲しいしデュエスペも置きてー」


 言いながら俺はゲーム内端末から初弾を11箱発注をかける。そして、購入ボタンを押した瞬間だった。


〝ドサドサドサッ〟


 そんな音が店の入り口の方から響いた。俺がなんだなんだ、と視線を向ければそこには、大量の……無造作に投げ捨てられた段ボールたち。


「もしかして店の前にゴミ捨てられた?」


『wwwwwwwww』

『違う違うw』

『それ商品wwwww今買ったやろwwww』

『最初は驚くよな』


「はぁ⁉商品かよ!」


 俺はコメント欄を見ていそいそと投げ捨てられた段ボールを回収に行く。しかもこれ何が面倒くさいって1回でひと箱しか持てないのだ。


「ぜってー3箱ぐらい持てるだろ!」


『頑張れ』

『無理でーす』

『ショップの店員くんはもやしなので』

『1回ひと箱が限界でーす』


 そうして、俺は11箱の段ボールを店内に運び込む。すると、画面左上のガイドが「商品を陳列しよう!」に書き換わった。


「とりあえず段ボール開けるか」


 俺がそう言いながら操作に従い段ボールを開封すれば、そこには段ボールに直に入れられたパックたち。


「え?ん?え、この段ボールが外箱ってことなのか……⁉」


 俺は戸惑いながら転がる段ボールと開封した段ボールの中身を見比べる。え、え、普通段ボール→外箱→パックでは?え、え、直入れ?


『秋城が異世界転生で無双できそうでできない主人公みたいになってて草』

『ちなみにその箱のまま陳列できるやで』

『そして、箱のまま売れる』

『なので実は開ける必要なかったり』


「このゲーム説明が足りない感じのやつだな?くそ、できること全部試すしかねーじゃねえか」


 そうして、俺が開封済みの段ボールをもって商品棚に近づけば、自動でダダダダッと商品棚に陳列されるパックたち。流石に此処は手動でやらせないのか、なんて軽い感動をしていればガイドが書き換わる。次のガイドは「値段を設定しよう」だ。


「お、パックの値段いじれるのか」


『せやで』

『法外な値段で売ることも可能』

『1パックに10万をつけた@ふぉーむのVがおってな、売れなかったんだが』

『逆にバカ売れ狙いで1円で出して利益率死んだのもいたな』


「まあ、秋葉原っていう立地も込みであまり平均値から外れた値段にすると他店に客が流れたり、安すぎると利益上がらなかったりになるよな。うーん、平均値が300円か……」


 さてさて。俺は唸りながら考える。新進気鋭のカードショップ。ショーケースもなく、オリパ……オリジナルパックもない。商品はこの謎のカードゲームの初弾のみ。正直、新規の店ならオリパやら福袋やらで客を呼び込むのがいい気がするのだが、それはできない。と、なると、だ。


「とりあえず、パックを平均値より安く出すか」


 俺は値段の欄に145円と打ち込み、OKを押す。


『やっす』

『平均値より安くて利益大丈夫か?』

『ま、まあ、一応利益は出てる……?』

『5円』


「商品がこれしかないからこれを目玉商品にするしかないからな。利益出るギリギリぐらいにして、とりあえずショップに人を来させる、此処にショップがあるっていうのを認知させる目的だな」


『ちゃんと考えられてる』

『秋城が脳みそを使っている、だと……?』 

『あれ、秋城に脳みそがついてる……?』

『考えるな秋城』


「いや、考えるわ」


 コメント欄の言葉たちに俺は笑いながら返していく。ちなみに値段を決めたことでガイドの文字が「看板をOPENにしてください」に切り替わる。


「看板をOPENにしてください、ってことはこれで店が開店するのか。え、この段ボールは?」


 俺は手に持ったままの空の段ボールを手に立ち止まる。


「え、これ持ったまま接客か……?」


 店の中を見回せば段ボールを畳むためのカッターの類はなく。でも、どうにかする術はあるはず、と店の中をうろちょろとしていれば。


『秋城、店の外店の外』 

『ゴミ箱くんにお願いするやで』

『セイちは店の外の道路にぶん投げてたけど』

『持ったまま接客は草wwwww』


「道路にぶん投げるは豪快というか、セイラらしいというか」


 俺は言いながら店の外まで空の段ボールを持っていけば、店の外にゴミ箱を見つける。カーソルを合わせればゴミ箱のぽっかりと空いた黒い穴に呑み込まれていく段ボール。


「すげー物理法則を無視した吸引力の変わらないただ一つのゴミ箱」


『掃除機かwwwwwww』

『まあ、確かに吸引されてるな』

『吸い込まれるのぉぉおおんほぉぉおおお』

『入り口だけじゃなくて全体的に物理法則が無視されてるからな』


「んじゃまあ、店をオープンするか」


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