『んで、カドショ以外にもいったんやろ?』
『というかなんで家電量販店?』
『まさか……』
『同棲??????』
「なわけあるか。……んー、買ったものに関してはちと内緒なんだが。放送機材に俺の分からないものがあってうぃんたそにレクチャーを受けながら買いに行ったんだよな」
「そうそう~、と言ってもうぃんたそが言えるのも、使用感とかどういう人におすすめできる、とかその程度だったんだけどね~」
「いやいや、それでも大分助かったわ」
『家電量販店で買う放送機材?』
『でも、放送機材ってことは今後の放送で使うのか?』
『普通に気になるが』
『白状しろ秋城』
「秘密に決まってんだろぉう?つっても、多分近々それを使って配信するつもりだから……まあ、楽しみにしててくれ。むっちゃいい配信にして見せるからさ」
「それはうぃんたそが保証する!絶対いい配信になる!というか、秋城さんのファン歴長ければ長いほど驚くと思う!うぃんたそはね~ふふふ、配信が凄い楽しみ!」
『くそう、でも、うぃんたそが楽しみなら俺も楽しみ』
『まあ、秋城は俺らを常に楽しませようとしてくれてるしな』
『そこは信頼してる』
『なんだ……新衣装とかか?』
お、掠ってる掠ってる。これはこれ以上この話題をするともしかしたら3Dの体を手に入れる話がばれてしまうかもしれない。俺はちょっと内心汗を掻きながら、話題を切り替える。
「そういえば、これも触れちゃダメならうぃんたそストップを入れて欲しいんだが……うぃんたそも配信で使う機材買ったよな?」
「あ、その話ね!あたしは大丈夫だよ~。そうなんだよお、うぃんたそもついに新しい配信機材……というかゲーム機に手を付けたんだよ!」
『お』
『何買ったん?』
『え、うぃんたそが持ってないゲーム機……?』
『うぃんたそ割といろいろ持ってた気がしたけど』
「ふふふ……ヒントはね、この間セイちが使ってたやつ~~」
『あ‼』
『VR機器か‼』
『秋城見守り配信する相手増えちゃったね』
『うぃんたそついにVR!?』
「そうだよ~~~‼ついに、うぃんたそ!ロキュラスを買っちゃいました~~~‼これで最新のVRゲームいっぱいできるよぉ!」
ぴょんぴょこ跳ねるうぃんたそにコメント欄が可愛いで埋まる。
「ちなみにVRゲーム初配信タイトルは決めてるん?」
「それは凄い悩んでる!VRMMO系も気になるし……セイちみたいにホラゲーやろうかなあ、とも思うし……あ、でも、あれやってみたいんだよね。ライトセイバー振り回す音ゲー」
「あー、あれスタイリッシュでかっこいいよな」
『どれも見てえな……』
『まあ、まずは軽めのゲームでVR適性を見た方が』
『VR酔いとかあるしな』
『いけそうならやりこみゲーに進めばいいかと』
「あ、確かに。VR酔いしやすいとかは先にチェックしておかないとだね。まだ、うぃんたそお家に届いたロキュラスさん開封すらしてないので……」
「うぃんたそ忙しいし仕方ない」
「此処から先年末に向けて予定ぎっちりだからねえ」
うぃんたそが死んだ目で遠いところを見始める。年末年始は@ふぉーむさんの仕事もあるだろうし、年末歌番組に呼ばれたりもする(って告知されてた)のでうぃんたそのスケジュールぎっしりなんだろう。……その中、よくこんな枠に来てくれたな、感謝。
「となると、うぃんたそとのコラボも減っていくな……まあ、コラボがなくてもうぃんたその動向は追い続けるのですが」
「秋城さんはあたしを喜ばせる天才かな?……でも、お誘いはくれると嬉しいなあ。お断りはしちゃうかもしれないけど、誘ってくれるっていうのがうぃんたその活力になるからね!」
「お、じゃあ、なんかコラボやりてえ!ってなったらとりあえず声かけるわ」
『秋うぃんや……』
『秋城でええなら俺でもよくない?』
『秋うぃんてえてえ……』
『俺、やっぱり秋うぃんがいいよ』
ほのぼのとした雰囲気が流れる。俺はすっかり肩の力を抜いていた。
「それにしても年末か……なんか今年は怒涛だった気がするわ。うぃんたそはどうだった?」
「最推しが復活した年だよ?怒涛じゃないわけがないよ!」
うぃんたその言葉に思わず笑みが零れる。
「まあ、それはそれとして……2039年はなんだろうね、ぬるっといろんなことが起こる年だったかなあ?」
「ぬるっと」
『ぬるっと』
『また不思議な表現だな』
『セイちは滝のようなって言ってたな』
『気づいたら起こった、的な?』
「んー、気づいたらっていうのもちょっと違うかもだけど……1月の誕生日ライブに始まって、3月に1stアルバム出してー4月の新規@ふぉーむメンバー加入、ちょっと落ち着いて……で、秋城さんの復活だよ?そこからうぃんまどに秋城さん呼んだり、オフコラボしたり……気づいたらいろんなことやったなあ」
俺の復活を@ふぉーむ的一大イベントたちと並べていいかはちょっと意見を交えたいところはあるが……それでも、うぃんたそにとってそれぐらい大きなことだったのだろう。というか、俺が復活してからなんだかんだかかりっきりという程ではないけど、ずっと俺とつるんでる気がする。
「料理作るオフコラボしたり、わたあめ読んだりしたよなあ。なんか、俺は今年色々やりすぎてまだ半年も経ってないのに遠い記憶になってるわ」
「あはは、分かる。うぃんたそ的にももう長いこと秋城さんとこうして絡んでる気がしちゃうよ」
『え、昔から秋うぃんあったよな?』
『そんな秋うぃんがまだ出会って半年だなんて』
『うそうそ』
『秋うぃんの歴史は千年近く遡り———』
「いや、遡らんわ。というか、その頃VTuberがないだろ……っと、そんなことを話してたら時間だな」
「ありゃ、もう一時間かあ。早いねえ……ね、秋城さん」
「ん?なんだ?うぃんたそ」
「来年もこうしてコラボしてね?」
うぃんたそがおずおずとこちらを見上げてくる。ちょっと緊張するような面持ちに俺もちょこっとどきっ、としながら———。
「もちろん、来年もよろしくな」
『エンダァアアアアアアアアイヤアアアアアアアアア』
『もうそろそろ結婚してくれ』
『なんで秋城がよくて俺が駄目なん?』
『ここに結婚式場を建てよう』
「さて、なんか式場が乱立し始めたが、そろそろ枠閉めるぞー。じゃあ、うぃんたそ締めのあいさつ」
「ほいさっ、じゃあ、うぃんたそが振るね?せーのっ」
「「おつしろ~~~~」」
『おつしろ』
『よかった、秋城が残ってくれて』
『というか今日滅茶苦茶チャンネル登録者数伸びてんじゃんw』
『秋うぃん……結婚……』
「……さて、放送お疲れ。鈴羽」
「ええ、お疲れ様」
2人して、ふー、と息を吐きだす。そして、話を先に切り出してきたのは鈴羽であった。
「改めて、お疲れ様隼人。なにはともあれ丸く収まったよかったわ」
「本当にご迷惑をおかけしました……マジで一生鈴羽にも世那にも頭が上がる気がしねえわ」
「あら、私にも?」
ふふ、と困ったように笑う鈴羽の声。
「ああ、焼肉屋でパニックになりかけた俺を落ち着けてくれただろう?」
「……私にできることをしただけよ。実際、今回のことは私はそこまでだったわ」
「でも、俺の心の中には鈴羽は居てくれたよ」
「……イマジナリーの私じゃない、それ」
今度はどこか照れたような声に、俺もはは、と笑って返す。さて。
「と、此処で全部を語っちまったら明日ヨネダ行く約束が意味なくなっちまうな」
「そうね。私、隼人と食べる信玄餅ユキデニッシュ、とても楽しみにしてるの」
「あれ、美味しそうだよな。さくふわデニッシュに信玄餅を挟むっていう新感覚?大変よきって感じで」
「ゆったーでもかなり好評だものね。期待値が上がるわ。……って、話題を出したらキリがないから私はそろそろ落ちるわ。明日、遅刻しないで頂戴?」
それはそう。鈴羽とだったら俺はずっと喋ってられる気がした。……いや、正直喋ってなくても居心地がいいのですが。
「了解、んじゃあ、また明日」
「ええ、また明日」
テロン、そんな音と共に通話が終了する。俺は思い切り手足を伸ばしてから脱力する。
「あ、そういえば……」
なんか配信の終わりに、むっちゃ登録者数伸びてるみたいなコメント来てたっけ。俺は前のめりになって自分のUtubeのチャンネルの画面を表示する。チャンネル登録者数は89万人。
「えっぐい人数だよなあ……」
こんなに大量の人間が俺の放送に興味を持ってくれている、その事実は俺の胸を震わせた。
「3D化記念配信で100万人突破しちまったり?」
自分で言った言葉に自分でついつい笑ってしまう。そんな都合のいいことは早々おこるまい。というか、そんなことになったら俺は多分処理落ちするだろう。3D化記念に人が来てくれるだけでもうれしいというのに、その上100万人突破なんて……。
「感極まって号泣するな」
これは確信できる。まるでアニメの最終話ばりの号泣をしてしまうだろう。だけど、ここは道半ばだ。そんなのはまだまだ早い。
俺は×ボタンを押して、ウィンドウを閉じて、パソコンをシャットダウンする。そして、椅子をくるり、と回して床に着地して目に入る……鈴羽と買いに行ったノルン、モーションキャプチャの機械を見てまた笑みを零すのだった。