俺は改めて椅子に座りなおして気持ちを引き締める。
「ああ、この間の週末に妹とは会ってきたんだが……」
『が?』
『なんかあったんか?』
『え、もしかしてドシリアスになる?』
『秋城引退?』
「妹ってすごいんだよな、長い時間会ってなかったのに……ああ、こいつだ、ってちゃんと分かるんだわ」
しみじみと零す。21年間、もう声も忘れかけてしまうような年月離れていたのに、あのとき目の前の女性が妹であるということはすんなり受け入れられた。
「んで、まあ、初手で俺が兄貴だ!ってするのは流石にしなかったんだが」
『しなかったのかw』
『まあ、それはただの不審者』
『ちゃんとね、順序を追ってね』
『やってたら面白かったんだがなw』
「最初は、今の俺の自己紹介をして……それでも結構怪訝な視線は向けられたよ。まあ、それは仕方ないんだけどな。妹からすれば俺は兄貴のアカウントを盗んだかもしれない相手なんだし」
『妥当な反応』
『まあそりゃ……』
『通報されなかっただけよし』
『それでも一応話のテーブルにはつけたんやな』
俺は当日のことを思い浮かべつつ、全体的に脚色して語る。
「あ、つーか、俺も俺ですんげー緊張してな。もう、ドキドキぐるぐるずっと頭の中軽いパニックだったんだよな」
「秋城さん土壇場苦手だもんねえ」
「そうそう。あ、でも、今回は流石に噛まなかったぞ」
「あの、秋城さんが噛まなかったの……⁉」
無言のドヤ顔。全体的に重い話をしてるから軽いボケは挟んでいかないとね。
『ドヤ顔wwwwwwww』
『かみまみた』
『↑噛んでないんだよなあw』
『ほんで?』
「んで、まあ、とりあえず俺はこう切り出したんだよな。……転生って信じますか、って」
『怪しすぎるッ』
『ちょっと関わりたくないな』
『え、ほんとに言ったってこと?』
『怪しい宗教勧誘だよぉ……』
「妹にも言われたわ。宗教勧誘かなにかか?って……そこはきちんと否定したけどな。……んで、その……からかってるんじゃないか、と詰め寄られそうになったんだよな。まあ、当然。そこで俺は自分の手持ちのカード……俺が兄貴であるということをオープンしたんだ」
『はやっ』
『絶対見切り発車だ』
『待って待って、転生何某ってキャラでしょ?』
『ジャスキルしかないのにリーサルやってるようなもんじゃん……』
コメントのツッコミに俺は分かる、という気持ちでいっぱいになってしまう。本当に今思えばアレは完全なる見切り発車だった。詰められるのに耐えきれなくてぶん投げてしまった類だ。……俺、よく信じてもらえたな。
「もうあれは話し合いというか捲し立ててるが正しかった気がするが……うん、俺は俺が兄貴であることの証明になりそうな個人情報をそれはもう並べ立てた。でも、決め手は妹と俺しか知らない情報だったな。此処では言わんが」
『言わないんかいw』
『言え』
『まあ、記憶依存だとそうなるよな』
『なんでここの視聴者は普通に受け入れてるんですかね』
「で、無事信じてもらえて……アカウントも消さない運びになりましたとさ。妹とは沢山話をした、が。その内容は流石に秘密だ。妹の個人情報も含まれるしな」
『888888888888888』
『よかった、よかった』
『これで堂々秋城を名乗れるね!』
『アカウント泥棒が正式な持ち主になったわけだ』
「だから泥棒じゃねぇって!ていうか今までも堂々と秋城名乗ってたわ!」
俺のツッコミ。それにちょっと被さって拍手の音が聞こえてくる。
「よかったよぉ~~~秋城さん消えたらうぃんたそ灰というか廃になってるところだったよお……」
「お、ちなみにそのハイの字は?」
「最初の灰が燃えカスの灰で、後の廃が廃人の廃かな。意味合い的にはうぃんたそ、動かなくなる———的な?」
「大問題じゃねえか。そんなん俺も倒れるわ」
『お前が消えたのが原因やで』
『まあ、そうならなくてよかった』
『まあ、枠名的に安心して聞いてられたが』
『秋城が闇討ちしてくる可能性もあったからな』
「闇討ちはしねーよ。ちゃんと、その時は全Vヲタのトラウマ配信タイトルにしますー。まあ、その時が来ねえように必死に配信するけどな!……ということで、締めではないが、今後とも秋城をよろしくな」
「うん、もちろんっ。うぃんたそを含めたお前らみんなのこともよろしくね」
「おう!」
『よろしく~』
『よろしこ』
『綺麗に纏まってなにより』
『え、作り話だよな?』
「あ、水飲むぞー」
俺はふぅ、と息を吐いて、カフェイン飲料をごくり、と飲む。そして、背もたれに深く腰掛けて声を発する。
「ということで、此処からは雑談枠な訳だが……思ったよりコンパクトに報告がまとまったな」
「あは、まあ、重い話長々とするよりいいんじゃないかな?やっぱり、此処には推しの楽しいことをする姿を見に来ている人が多いんだし?」
『そうそう』
『秋城最近あった楽しいこととかないん?』
『うぃんたそ絡みの』
『秋うぃんの』
お、コメントの圧が凄いぞー。
「秋うぃんの……ああ、ある、あるが……これ話していい話題かうぃんたそにチャットで確認するわ。ということでうぃんたそー、チャット見てくれ」
「はぁーい」
俺はキーボードを引き寄せて、うぃんたそとのチャットに「この間の秋葉原の話」と打ち込む。
「あー、それね……」
すると、すぐにうぃんたそから返事が来る。内容は、内容をぼかせばOKとのことだ。俺はそれに「了解」と打ち込みすぐさま配信に戻る。
「うぃんたそからOKが出たので……うぃんたそと2人で秋葉原に行った話をしようと思う」
『は?』
『うぃんたそとデートってコト……⁉』
『マジで秋うぃんじゃねえか』
『男とデートするなんて、うぃんたそのファン辞めます』
これ本当に大丈夫かついつい心配になってしまう。この世の中には少なからずうぃんたそガチ恋が居るわけで……そんなファンが離れていってしまう原因になるんじゃないか、と俺が不安になっているとうぃんたそが声を上げてくれる。
「デートだったらうぃんたそも嬉しかったんだけどねえ。推しとデートとかうぃんたそも流石に嬉しいし?でも、残念ながら夕食にはセイちが合流したし、行ったのもカードショップと家電製品屋さんだったからぜーんぜんデートじゃなかったよ~」
「というか、そもそもこの話も……あれこれ言って大丈夫か?」
「グルチャの話?」
「そうそう」
「全然おけ」
うぃんたそが人差し指と親指で輪っかを作ってそれを顔に寄せる。
「俺とセイラとうぃんたそのグルチャ、グループチャットがあって、それで話してたからなー。セイラはその日仕事で夜合流、みたいな」
「ねー」
『いや待て』
『セイラともオフで会ってる……?』
『くぁwせdrftgyふじこlp』
『秋城爆発しろ』
お、もしかしてこれは火に油を注いだかもしれない。
「カードショップはな、うぃんたそが行きたいって言ってくれたことで行ったんだが……初カドショはどうだった?うぃんたそ」
「ん~、結構ネット上を見てると悪い風に書かれてるけど、ぜんっぜんそんなことないなあ、って思ったよ。臭いにおいもしなかったし、凄い大声で騒いでいる人もいなかったし?」
うぃんたそが指をくるくるり、と回す。
『カドショの臭いは大分言われるけど店側も努力してるからな』
『空気清浄機置いたりな』
『大声猿も全員が全員って訳じゃないしな』
『それはそれとして秋城裏山死ね』
「私みたいな女の人が一人で入りやすいかって聞かれるとそれはちょっと答えにくいけどお……でもやっぱりネットの情報を鵜吞みにしちゃいけないな、って思った!あ、うぃんたそは凄い楽しかった!秋城さんに色んな現代の環境?を解説してもらいながらお店の中を見てー……KO退化のデッキを買ったよ~!」
『KO退化!?!?!?!!?』
『買ったんか、我ェ!』
『今バトマスのCSに出ればうぃんたそと当たれるキャンペーン?????』
『あんな古のクソ高デッキをよく……』
コメント欄がうぃんたその最後の一言に持っていかれているのにくす、と笑いながら俺も会話に参加する。
「見てる俺も驚いた。じゃあ買ってくるね、ってサラッと買いに行くんだぜ?いや、強いし布教したのは俺なんだが……まさか4万をポン、と払うとは思わなかった……」
『目の前でその光景見たかったぜ』
『強いのはそう』
『2019年全国の環境を荒らしたデッキだからな』
『というか、店もよく置いてあったな』
「置いてあったのは運がよかったな~って感じだな。流石うぃんたそ」
「えへん」
「ちなみにアレ以降確認できてなかったが……回せそうか?」
「動画とかは見てみてるよ~!でも、その動画の通り手札とかが完璧に来るわけじゃないから、コスト置きとかどうすればいいか分からない、が正直なところかなあ……あと1人回し?っていうんだっけ……?うぃんたそちょっと向いてないかも……」
しょんもりとするうぃんたそに苦笑せざるを得ない。
「まあ、1人回しはどんな敵が対面にいるかを明確にイメージできないとやりにくいよなあ。KO退化はループじゃないし」
「ループ?」
『壁とやっててほしいタイプのデッキのことやで』
『同じ動きを繰り返すことで相手を殺すデッキのこと』
『主に山札切れとかで』
『ループ証明入られた段階で投了したくなる』
「ほ、ほえ……なんか難しそうなデッキだね……?」
「んー、難しくはないけど初心者向きではないな。やっぱりバトマスの醍醐味はライフを割って、ライフからひっくり返されるか返されないかの駆け引きが面白い、と俺は思うからなあ。その点KO退化は俺はいいデッキだと思うわ。ガンガン相手のシールドを割るデッキだし」
まあ、このモンスターは選ばれないがついたり属性指定で呪文を打たせなかったりはするけれど、それは戦術の範疇である。
「ま、その代わり1人回しに向かないのはそう。……俺でよかったら対面するが?」
俺がそう言うと、うぃんたそがぐりん、と言葉に反応するように俺を見て———その瞳をきらきら通り越してぎんぎんに輝かせる。
「やる!むしろ、やりたい!回し方教えて秋城さん!」
『凄い食いつきwwww』
『こうやってうぃんたそを釣ってるんだな』
『うぃんたそ視聴者参加型やろ?』
『お前らもうぃんたそとバトマスしたいやで』
「え、え、うぃんたそ弱いというか復帰したてだから全然強くないよ?それでも大丈夫?」
『大丈夫やで』
『環境以外のファンデッキ使うか』
『うぃんたそにバトマス楽しい!って思ってもらいたいしな』
『うぃんたそをバトマス沼に沈める回』
うんうん、見てて微笑ましくなってしまう。これはいいヲタクたちだ。
「よし、うぃんたそ@ふぉーむさんへの許可取り頑張っちゃうよ~許可取れたらお前らの皆さんよろしくね!」
「あ、そうか。視聴者凸系は@ふぉーむさんの許可が必要なのか」
「そうそう!いないって信じてるけど配信的にアウトなことをいう人が居たらBANしてもらうためにもね。え~でも、楽しみが増えたなあ~」
るんるんと揺れるうぃんたその様子に本当に嬉しいのだろうということを感じ取る。うん、これは素直に俺も嬉しい。