目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報
第23章 前世の妹と邂逅ってアリですか?④

「……都古さんってなんとなくすーちゃんに似てるね?」


 電車に乗って椅子に座って一言、世那がぽつり、と漏らす。


「え、そうか?」

「なんだろう、雰囲気?この間お母さんと会った時は分からなかったけれど、隼人と話してる感じめっちゃすーちゃん思い出した」

「そ、そうか……?」


 俺はいまいち世那の言っていることが理解できなくて頭の上にはてなを浮かべながらやんわりと返す。すっきりとした胸の内で、でも、満ち足りた胸の内で、俺は息を吐きだした。


「もしかして隼人ってすーちゃんに都古さんを投影してたり……」

「しとらんわ。そんなことをしたら鈴羽にも都古にも失礼だろ。あくまで鈴羽は鈴羽、都古は都古だ」

「ふーん。……でもよかったね。都古さん幸せそうで」

「……ああ。それは本当に。つーか、マジでありがとな」


 俺の言葉に世那が俺の顔を見て首を傾げる。これは欠片も理解していない世那の顔だ。


「LEINの交換提案してくれたろ?正直、どこまで関わっていいかすんげー悩んでたんだよな……」

「あー!あーね、だってさー。都古さんも隼人も2人してこの時間を終わらせたくない、みたいな顔をしてるんだもん!なら、また会えばいいじゃん!って」


 世那のきらきらと星が弾けたような笑顔に俺は肩の力が抜けていった。


「そういうところ、世那のいいところだよな―。まっすぐ、というかなんというか……マジ助かるわ」


 俺が天井を見上げながらそう零してから、世那を見れば世那は心の底から嬉しそうに言うのだ。


「隼人の役に立ててる?」

「立ててる、立ててる。ほんとにありがとな」


 世那は瞳を爛々を輝かせて頬を緩ませる。その様子と言えば褒められて喜ぶ柴犬のようで、犬耳の幻影に今日の疲れを自覚しながら軽く瞳を閉じる。


「あ、って隼人!すーちゃんに連絡!」

「お、わ、そうだそうだ……。かなり遅くなっちまったしな……」

「すーちゃん超心配してるぞ~~~」


 俺は瞳を開けばいそいそと端末を立ち上げて、LEINを開く。そうして、話の場は現実からLEINに移動したのだった。





「こんしろお~」

「みんな声聞こえてるかー?」


『こんしろ~~~』

『秋城の報告枠と聞いて』 

『なんの報告なん?』

『というか、うぃんたそを巻き込むなw』


 どうやら声はばっちり届いているようだ。今日は、あの輪っかフィットから雑談枠になってしまった、逆・秋城の人生相談枠のアンサー枠、逆・秋城の人生相談枠アフター、うぃんたそを添えてだ。


「お前らのみんなも凄く気になるよね~、なんていったって秋城さんが消えちゃうかも⁉なんてことになってるんだもん……うぃんたそもここ数日ずっとハラハラしてたよ。あ、でも、正直なところを言っちゃうなら枠タイトルでかなり安心したよねえ」


『それはそう』

『大切なお知らせ、じゃなくてよかった』

『全VTuberヲタのトラウマ配信タイトル』

『でも、どうなったかは気になる』


「まあ、詳細に話せるわけじゃねーけど、妹のプライバシーもあるしな。だけど、まあ、ゆったり話して……っと、その前に、自己紹介だな。うぃんたそからどうぞ」

「はーい、勝利を運ぶっ、鈴の音鳴らすVTuber‼鈴堂うぃんだよ~~!みんな~、改めてこんしろ~~~!」

「お、今日もうぃんたそは可愛い。えー、こんしろ~、秋城の生放送はっじまるよー。ゆっくりしていってね。ということで、改めて。逆・秋城の人生相談枠アフター、うぃんたそを添えて始まるぞー」


『なっげえ配信タイトル』

『略して秋城アフター』 

『↑エロゲのタイトルか何かか?』

『どこ需要だよ、秋城攻略するゲームとか』


「え、需要は!ここに!ありまぁす!で、そのゲームはいくらで買えるのかな?うぃんたそ言い値を出しちゃうよぉ!」


 うぃんたそが人差し指と親指でお金を表すジェスチャーをする。こら、大人気アイドルVTuber。


「うぃんたそ、そんなゲームはまかり間違っても出ないからな」

「ワンチャンぐらいないかなあ?」

「あってたまるか!俺はそんなほいほい攻略されません~」


『まあ、童貞やしな……』 

『攻略できなかったの間違い』 

『プークスス』

『童貞に誇れるものはないんやで』


「おう、お前ら刺してくるじゃねーか」


 全部当たってるので何も否定できませんけどね!


「まあまあ、身綺麗なのはいいことじゃないかなあ?うぃんたそはいいと思う、うん」


 童貞、その単語を出さない辺り必死にアイドルとしての何かは守っているうぃんたそのためにもこの話題はさっさと変えねばならない。俺はそんな気配を察知して、話題を切り替えるように声を上げる。


「んでー、俺が童貞なのは周知の事実なので置いておいて」


『まあ……』

『羞恥の事実だからな』

『まあ、今更な』

『wikiにも書かれてるしな』


「wikiにも書かれてるのか、消してくれ」


 俺は真顔でそう返してから、咳ばらいをする。


「んで、本題に話戻すぞ。……つってもどこから話すか……」

「とりあえず、この間の雑談枠を見ていない人のためにもことのあらましからじゃないかな?」

「あー、そうだな。あれはアーカイブも非公開にしちまったしな」


 そうして、俺はこの間の逆・秋城の人生相談枠で話した内容を大体話していく。実は前世の妹の知り合いが今の友達に居て、その友達から秋城のアカウントが危ない、と連絡を受けたこと。それを受けて、妹に接触するか悩んでいたこと、普通なら秋城のアカウントを諦めるべきだが、俺は秋城のアカウントを諦めたくなかったこと……大体そんな流れ。


「うぃんたそもあの放送見ていたけど、すっごく心配だったなあ……」

「その節は大変ご迷惑を……」


『うぃんたそも見てたん⁉』

『まあ、秋城の放送だしな』

『コメントしてなくてもうぃんたそは居るもの』

『なんだったら最近はセイラもちょくちょく見てるらしいしな』


「んー、セイちだけじゃなくて結構秋城さんの配信見ているVは居るんじゃないかな?@ふぉーむでもたまに話題に上がるよ」

「え、なにそれ初耳なんだが」

「言ってないからね~」


『@ふぉーむ話題の男秋城』

『羨ま死ね』

『やっぱり引退してもらった方がいいんじゃないか』

『まあまあ、男性陣で話題なのか女性陣で話題なのかで話が変わるから』


「ん~、割とどっちもかなあ?」

「マジか」


 俺が@ふぉーむ内の時の人になっている、は初耳過ぎて俺は度肝を抜かれる。え、というか時の人、セイラとかうぃんたそとかじゃなくて俺なん……?


「やっぱり、伝説の配信を見た人が多いっていうのが一番の理由かな?で、復帰した後も色々はあったけど、ブレずに配信しててー、すごいみたいなお話するし、秋城さんに連絡取ってみたいって言ってるVもいるしねえ」

「え、それはコラボ的なサムシング?」

「コラボもだし、一回話してみたい、的な?」

「お、おぉおお……」


 褒められる、とはまたニュアンスが違うが、陰で言われてるいいことを知るというのはなんというか全力でデレデレしてしまう。


『これ以上@ふぉーむの女Vに手を出したら*す』

『うぃんたそとセイラで満足してくれ』

『いつか実質@ふぉーむになる秋城が見れるのか……』

『え、えるにぃとBL営業⁉(難聴)』


「そ、それは難聴が過ぎないかな⁉まあ、具体的に誰~とはいえないけれど……そこそこな@ふぉーむのメンバーが居る場だったかなあ……」


 ナイスぼかし、うぃんたそ。ここで具体名を出してしまっては此処からその方の放送へ凸りに行く人を出してしまいかねない。


「ちなみに秋城さんは同性Vは見ている感じ?」

「ん?見てる見てる。@ふぉーむさんならさっき話題に上がったリトエルさんとか神楽坂さん、あとはB-AKA3さんとかはそこそこ見たりするな……男だから、女だから、っていう気はないが、やっぱり男子高校生ノリは見てて楽しいんだよなあ」


『ただのドルVヲタだと思ってた』

『でも、男どもがだるだる絡んでるの見るの楽しいよな』

『B-AKA3の放送は俺も見るわ』

『神楽坂の恋愛相談とかもタメになるよなあ~』


「お、割とお前らも見てるんだな。まあ、でも、@ふぉーむさん箱コラボ多いから、最初は女の子だけ……と思っても気づいたら見ちまってるよなあ、分かる分かる」

「あれ、秋城さんも最初は女の子だけ見ようとしてたクチ?」

「ん~、まあ、そりゃ……?俺だって男の子だからね」


『子ではない』

『男性、な』

『漢でもいいぞ』

『子ではない(2回目)』


 お、なんかやたらめったら厳しいな?そう思いながら、俺はカフェイン飲料をカシュッ、と開けて唇を湿らす。


「と、このままじゃ@ふぉーむさんのVを語る会になっちまうな……本題を忘れちまう」

「今日は逆・秋城の人生相談枠アフター、うぃんたそを添えてだからねっ」

「そうそう。それにシリアスな話を終わらせてから楽しい話はしたいしなあ~。えーと、どこまで話したっけ?」


『起承転結の起』

『妹ちゃんに会いに行く決意は聞いた』

『んで、会ってきたんやろ?』

『オチは見えてるがなw』


 俺は改めて椅子に座りなおして気持ちを引き締める。


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?