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第22章 秋城の逆人生相談配信ってアリですか?⑦

 あれから長々と1時間近くバトマスの話題を話して今日の放送はお開きになった。俺はベッドに倒れこみ、天井を見つめる。


「はあー……」


 決心は固まった。あとは世那に連絡を入れるだけだ。薄い端末を手にしてLEINを立ち上げる。なんとなく、昨日の焼肉を早々に切り上げてしまった手前話しかけにくさがあるのが正直なところだった。


「あれは駄目だったな」


 頭の中を妹のことに占有されてしまっていたとはいえ、人としてない対応だったな、と今更ながらに反省する。……だから、最初の一文は謝罪だろうか。いや、とりあえず、だ。俺はうぃんたそが壁からひょこっ、と顔を出すスタンプを送る。そして、テキスト欄をタップして文章を打ち込む。


『昨日はすまん。ちょっと周りが見えなくなりすぎてたわ……本当に今度』


 そこまで打ち込んだところで、既読が2になり、猫のスタンプとあざらしのスタンプが送られてくる。鈴羽と世那だ。俺はそれを見てから文章の続きを打って送信する。


『昨日はすまん。ちょっと周りが見えなくなりすぎてたわ……本当に今度埋め合わせさせてくれ』


 俺のそんな文章は即既読になり———世那が即レスする。


『気にしてないっ!むしろ、私こそいきなり超シリアスな話してごめんね!』


 世那の文章を打ち込むスピードに驚きながら、俺は鈴羽の回答を待つ。


『私も気にしてないわ。だから、埋め合わせとか気にしないでまたご飯行きましょう?』


 2人の優しさに俺は心から感謝をしながら俺は本題を打ち込む。


『ありがとう、2人の言葉に救われるわ。……んで、その、昨日の世那の話の件なんだが。世那、妹に都古に会えるようセッティングを頼んでもいいか?』


 送信ボタンを押してから、呼吸を止めていたことに気づく。やはり、決断を伝えるというのは大なり小なり緊張するらしい。俺は気を取り直すように深く深呼吸をする。


『それはもちろんっ!いつが都合がいいとかある?あ、でも、おおまかなスケジュールはセイラに合わせることになっちゃうんだけど……』


 申し訳なさそうなあざらしのスタンプが送信されてくる。


『いや、それは構わん。セイラの仕事も大事だしな』


 というか、それでセイラの仕事に穴を開けさせるのは申し訳なさが半端ない。そうして、俺は寝返りを打って文章を再度打ち込む。


『平日なら木曜以外は講義があるからな、休日は土日どっちでもOKだ。時間も都古と世那に合わせる』

『OK、じゃあ、都古さんと私のスケジュールで基本休日で合わさせてもらうね。細かいことは決まったら連絡する!』


 大まかな打ち合わせが終わり、俺はふぅ、と肩を落とす。あとは待つしかない、ぐるぐると考える時間は終わったのだ。そして、俺ははっ、とする。


『そういえば、昨日金額足りたか……?足りなかったら追加請求してくれ』


 昨日の話を蒸し返すのは俺にとって針の筵ではあるのだが。でも、お金のことは今後とも鈴羽とも世那とも付き合っていきたい以上しっかりしておきたかった。


『あー!そう、その件‼』


 あざらしのじたばたと動くジェスチャーのスタンプ。そのあとに、猫がじっ、とこっちを見るスタンプが送られてくる。


『十分すぎる金額だったわ。十分すぎたから返金したいのだけれど、今度リアルで会った時で構わないかしら?』

『それはもちろん。というか、余りを2人で山分けしてくれても問題ないのだが……』

『駄目だよ~、お金の問題は誠実にってお母さんが言ってたし』


 世那のその書き込みに俺の頭をよぎる加耶子。確かに、加耶子ならそう言うだろう。……都古に、俺が秋都だって信じてもらえたなら加耶子にも会いたい、俺は素直にそう思った。都古のことをお願いし続けて、碌なお礼もできないまま疎遠になってしまった、できるのなら、そのお礼をしたい。

そこで、ふ、と思い出す。世那の口から語られた、加耶子が俺のことを好きだったこと。


「知らなかったな……」


 知らなかった。幼いころからずっと一緒に居た加耶子。それは、中学に上がっても高校に上がっても途切れることはなかった。親が死んだときでさえ、都古のことを頼んだのは加耶子にだった。


「ん、待て……?」


 加耶子がいつの頃から俺のことを好きだったかは正直分からない。分からないが……。


「俺ってもしかして凄い最低なことしてた?」


 知らなかったとはいえ加耶子の恋心を利用?ちょっと違う気もするが利用し、都古のことを頼み込んで……俺は仕事に邁進していた訳で……いや、とんでもブラックだったんですが……。


「加耶子へもお礼じゃなくて謝罪では?」


 整理してて気づく。しかも、俺が死んだ後も都古のことを支えてくれていて、今も幼馴染?をしてくれているのだ。加耶子への感謝も謝罪もどれだけしても足りないだろう。

 ま、それもこれもまずは都古に信じてもらわなければいけない。俺が秋都だ、と。俺が兄貴だ、と。俺は気合を入れるように自分の頬をぱしん、と叩く。そうして、端末へ視線を戻せば、俺の返信を待っているのだろうか話題が止まっていた。俺はぽちぽちと文章を打ち、送信する。


『じゃあ、次会った時に金は受け取るな』


 それに対して、それぞれ猫とあざらしのOKのスタンプが送られてくるのだった。


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