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第17章 ちゃん呼び飛ばして呼び捨てってアリですか?②

 待つこと、数分。世那の注文した、ナゲット15ピースとバニラシェイクを受け取った俺たちは世那に導かれながらラックの中を歩く。そうして、昼から微妙に外れているせいか人は少なく。3階にも上れば店の中はガラン、としていた。そんな人の少ないラック3階、喫煙スペースの外の横にあるちょっとしたボックス四人掛け席に———。


「あら、早かったわね。世那、高山さん」

「う……降夜さん⁉」


 咄嗟のことに俺はうぃんたそと叫びそうになるがそれをすんでのところで飲み込んで、そこに居る人の名前を呼んだ。


「はろはろ、すーちゃん。今日は来てくれてありがと~」

「構わないわ。私今日は講義午前中だけだもの」


 世那は呆然とする俺を取り残して、降夜さんの隣に滑り込んでいく。俺はそのまま立っている訳にもいかず……だが、どっちの正面に座ったらいいのか若干悩みながらとりあえず世那の前に座る。


「えー、では……改めまして隼人のモデル新調会議にお集まりいただき」

「あ?なんだって?」


 俺の照り焼きバーガーを開封しようと、バーガーを持ち上げた手が止まる。今なんて言った、世那ぁ?


「隼人のモデル新調会議にお集まり」

「誰の?」


 降夜さんはそんな俺たちを端に見ながらも冷静に端末をたぷたぷとしている。そして、俺の端末が何かを受信する。


『秋城の、ね』


 そんな降夜さんからのチャットを確認した俺は照り焼きバーガーをゆっくりトレイに置いてから、肘をついて額を押さえる。


「ちょい待て。俺にそんな貯金が今、あると思うか?」

「ないわね」

「ないって言ってたね」


 即答で切られた。


「具体的には———」

「ていうことで」


 俺はいつ頃になるか、そんな話をしようとしたタイミングで世那が切り込んでくる。


「この私、世那が出してあげゆ~はい、感謝」


 拍手のノリで感謝を求めるな。というか、んんん?この私世那が出してあげゆ……?なんで?


「世那、高山さんが置いてかれているわよ」

「あ、ほんとだ~超意味不って顔してる~」


 世那は指をさすな、指を。俺は思考を強制的に回すために、手首をシャカパチの要領で動かし始める。……いや、全然世那が俺のモデル費を払う意味分からないけどな⁉


「えー、でも、改めて言うの超はずくない?すーちゃん代わりに言ってよ~」

「嫌よ。こういうのは本人が言うからちゃんと伝わるものでしょう?」


 なんかよく分からんが、世那が降夜さんに正論言われてぐぬぬっているのはよく分かる。そんな、降夜さんの言葉を受けて世那は唇を尖らせて、鼻で深呼吸をすれば渋々と口を開くのだった。


「その……この間の人生相談。あれから@ふぉーむの社長さんとかマネちゃんとかといっぱいお話をしたんだ。@ふぉーむの社長さんは私が思い詰めていることに驚いていたし、マネちゃんは私がやっと立ち止まってくれた、って超安心してくれて……」


 そう言えば、あの人生相談のその後の報告はされてなかったっけ。でも、別に俺が直接なにかに介入したわけでもなかったし、報告来なくても「そんなもん」と思っていたが……予想外のところで切り出された。


「えーと……それで……」


 世那がちらちらと降夜さんの顔を見る。あの顔は知っている、世那が「助けて欲しいとき」にする顔である。


「はあ……今世那が何らかの理由で活動休止なんかすれば損失がかなりでかいわ。まず、それをきっちり止めてくれた高山さんにはお礼を言うように言われてたわよね?世那」

「言われてましたぁ……。なので、改めてありがとう、隼人」

「ちなみに社長もかなり感謝していたわ」


 @ふぉーむさんの社長さん自ら感謝をしてくれている……なんかそれはとてつもなくこそばゆいような、浮足立ってしまうような気持になってしまう。そして、同時に思い至る。


「降夜さん見てきたような口ぶりだな」

「見てきたもの。どっかの世那がサイン書きが終わって帰ろうとする私の腕を掴んで会議室に連れ込んだのよ?」

「……世那がご迷惑を……」


 俺の頭が自然と下がっていく。別にうちの、とかいう気はないが、こう、なんだろう。高校のときから刷り込まれた習性かな。


「だってー、社長まで来るって言うから超怖くてー」

「怖いなら同期でも誰でもよかったでしょう」

「一番仲のいいのすーちゃんだし?」

「……縁切ろうかしら」


 この間共演NGをしないという話だったのに。共演NGはされないが、縁は切られる……それはそれでカナシイナー。


「あ、ぐ……超ゴメン。マジゴメン。ナゲット食べて」


 世那が爆速でナゲットとソースを開封して、ナゲット1個をソースをつけて降夜さんの口元に持っていけば、降夜さんは髪を耳にかけてその小さな口を開いた。2人の距離感の近さに、絶対男同士にはないモノだなぁ、というか降夜さん一口ちいさっ……なんて新たな視点が生まれる。あの俺だったら一口で1個食べてしまうナゲットを二口に分けてる、え、ええ……お口ちっちゃい……かわちい。そうして、降夜さんのモグモグタイムが終われば再び降夜さんが口を開く。


「……まあ、冗談は置いておきましょう。で、世那はそんな一番まずい事態を回避させてくれた高山さんにお礼をしたいのでしょう?」


 降夜さんのパスに世那がガタッと立ち上がる。


「そう!でも、隼人ってあまり困ってることないし~私よりGPA上だし~ってすーちゃんに相談したんだよね。そしたら、すーちゃんが「3Dモデル代に困ってたはずよ」って教えてくれたんだよね~」


 流石声を仕事にしているだけある。今の世那の降夜さんの真似は若干似てた。……それはそれとして。


「んでえ……?」

「私が、隼人の3Dモデル更新代を払うってワケよ」

「はあ……」


 筋は通っているし、提案はありがたい、が。金額を分かっていってるのだろうか。その金額の桁数7桁行くぞ?流石に、あのたった2時間弱の人生相談に7桁の価値を見出せるほど俺も自分の人生観に自信がある訳ではない。これはどう断ったものか……そう頭を悩ませながらコーラを一口飲む。んまい。


「はー……いや、待て世那。まず聞こう。金額は把握してるか?10万で済む話じゃないんだぞ?」


 俺の人生相談10万でも高いぐらいだ。


「知ってるよ~厳密に金額を詰めた訳じゃないけど、予測見積もりは出してもらった」


 ああ……もしかしなくても、あるにゃママ様と大地パパ様にもう凸ったあとだな、これ。俺は冷静さを取り戻すためにもう一口コーラを飲んだ。


「……いや、その金額を見たなら尚更おま、おまああああ……家のために使えぇええええ……」


 心からの本音である。嘘偽りなく、家及び自分及び母親のためにその金は使え。絶対俺なんかのために使ったら後悔するから‼


「だいじょーぶ。家にお金はちゃんと入れてるし、その上で私が溜めていた貯金から出すから」


 ぐぬぬ。それは多分セイラとして世那が稼いだお金、世那が稼いだということは世那が自由に使っていいお金。そんなお金の使い方に俺は当然ながら口を出す権利を持たない。持たないが……。


「まあ、それで貧乏に喘ぐわけじゃないのだから。世那の気が済むように受け取って上げればいいじゃない」

「金額が、金額なんですよ……降夜さぁん……」


 俺だって、「お礼に焼肉いこー」とか言われてたら多分ほいほい奢られてた。でも、でも、7桁のお金は流石に無理、金額がデカすぎる。というか、多分誰だって拒否るよな?金額デカすぎて怖すぎでは?そんな俺が額を両手で支えながら断る文句を必死で考えていると、世那が眉をハの字にして、目を潤ませる。


「隼人を喜ばせたかったんだけどな……私にできることなんてもう他に思い浮かばない……」


 世那の声で聞いたことのないようなガチ低めなトーン。それは的確に俺の罪悪感をつい、つい、とつついてくる。なにも俺悪いことしてない筈なんだけどね!


「オンナノコノキモチヲムゲニスルナンテ……」


 降夜さんは世那側の回し者ならもう少し感情を乗せようか。あまりにもな棒読み具合についつい俺の口からパッション溢れるツッコミが零れそうになる。……だが、同時にその2人の連係プレイは間違いなく俺の心のHPを削っていってて。


「隼人に……できるお礼……」


 悩む世那の隣で、援護射撃が終わったと言わんばかりに降夜さんはぽりぽりと自分のポテトを食べている。そして、更に落ち込む世那。……俺の心のHPは限界値に達し———。


「だあああああああ‼分かった、分かった!その代わり条件がある‼」

「「条件?」」


 声のいい2人の声がいい感じにハモる。


「あくまで世那が立て替えるだけ。それだけで俺は十分にありがたいので、マジで頼むから毎月定額返済させてください……」


 語尾が消え入りそうなマジ頼み。頼むからお金を返させてください。そんな懇願。

 ていうかなんで恩を返される側がこんなに必死に頼み込む事態になってるんですかね?普通逆では。

 そんな不思議な状況に終止符を打ってくれたのは降夜さんだった。


「まあ、実際ただの友達にン百万円のモノを買ってあげると言われても怖いわよね。世那、ここら辺が引きどころじゃないかしら?」

「んー……全部出してあげた方が助かる‼ってなるかと思ったんだけどなー」

「それはただの自己満足ね。世那」


 降夜さんの言う通り。お礼も押し付けてはただの自己満足になってしまう。ちゃんとそれがお礼という体をなしてくれるラインを渡す方は見極めなければいけない。うーん、というか降夜さん手綱の握り方上手いな。


「分かった。じゃあ、定額返済で」

「ああ、あと、頭金ぐらいは払えるからそれは払わせてくれ」

「はーい……んじゃあ、改めて、隼人の3Dモデル新調会議、始めちゃうよ~?」


 世那が講義を受ける際に使っているiPadとペンシルを取り出して歯を見せて笑う。そこから俺たちは秋城のモデルについてあーだ、こーだと話し始めるのだった。


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