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第17章 ちゃん呼び飛ばして呼び捨てってアリですか?

 あれからというもの。夏の暑さは完全に消え去り、乾燥とぴゅう、と吹く風の冷たさがちょっと気になり始めた10月中旬。


「えー、ボク星羅セイラなのですが……」


 端末から流れるセイラの放送を眺める。今日の放送のタイトルは「大事なお知らせ」。そんな視聴者からすればいい意味でも悪い意味でもドキッとするようなタイトル。だが、俺はちょっと中身の予想がついていた。


「最近働きすぎて、実はちょっと体調を崩し気味だったんだ。だから、少しだけ……ほんの少しだけこれからの放送量と仕事量を落とします」


 そんな真剣な声。多分、そういうカバーストーリーで行こう、と@ふぉーむさん社内で決まったのだろう。まあ、全てを洗いざらい話す必要はない。必要なのは、視聴者が納得するストーリーなのだから。そんなセイラの言葉に視聴者は———。


『セイち体調崩してたの⁉』

『その中ずっと放送やってたとか……』

『マジで暴走列車、たまには休んでくれ』

『セイちの体調とプラベ優先で‼』


 もちろん、セイラの放送が少なくなることを惜しむ声もあった。だけれど、大半はセイラの体を心配して、コメントであった通り、体調とプライベートを優先するように言ってくれる優しいコメント。こんなに温かいコメントを大量に貰っておいて忘れ去られるなんてこと絶対にない、と俺は言い切れた。


「な、思ってる以上に愛されてるだろ。世那」




そんな放送の後。世那の大学への出席が安定するようになった。流石に休む回数が0になったりはしないが……大分俺が溜めておくプリントの枚数も減った。そうなると、必然会話が減っていくような気もするが……その逆。今まではプリントを渡してバイバイ、な関係だったのがたまに一緒にお昼を取ったり、空きコマで一緒に勉強をするようになった。世那曰く。


『予想以上に友達たちが……教授の話を聞いてないんだよね』


 だから、しっかり聞いてそうな俺に講義の分からないところは聞くし、それだけじゃただ利用している感出て気まずいからお昼を一緒に取ったり、普通の友達をするそうだ。別に、利用されてても俺は何も言わんがな。

 そんな世那は昼は大学生、たまにバラエティの収録で休んだりはするが、大体大学生。そして、夜はVTuber。そんな流れが定着したようだ。まあ、基本は俺と大差ないな。俺も昼大学、夜VTuber。

 そんな10月の中頃、俺が真面目~にソーシャルゲームを走りながら講義を受けていると、LEINの通知が入る。相手は世那だ。おーい、講義真面目に受けろー。


『今暇?』

『いや、お前と同じ講義受けてるが……』


 ソーシャルゲームを走りはするが、暇か暇でないかと問われれば微妙なライン。


『知ってるー笑』


 大笑いで転がるあざらしのLEINスタンプ。それに俺がじとっとした目のうぃんたそのスタンプで返す。もちろん、端末はマナーモードであるためうぃんたそのボイスもオフだ。


『あ、本題なんだけど……この後ラックいこーよ』


 この後……は、俺たちの学年全体が空きコマになる時間だ。いや、俺は構わないが……。


『俺は構わんが、友達も空きコマだろ?』


 いいのか?一軍女子。そんな思いで返せば、返事は割と即座に返ってくる。俺もだが、教授の話を聞け。


『いいのいいの。今日は隼人とラックに行きたい気分』

『なんだその気分wんじゃあ、大学の入口で待ってるわ』


 教室の中で合流なんかした暁には世那の友達たちに冷やかされかねない。そういうのはちょっと求めてない。ということで、約束を取り付けた俺はまた、ソーシャルゲームの周回に戻るのであった。もちろん、教授の話はちゃんと聞いております。




 講義が終わり、世那との待ち合わせのために俺は大学の入口で待つ。大学内は人が多いせいか、若干外より暖かくて。そんな暖かい空気と外の冷たい空気が混ざり合い、程よい温度感を感じられる。そんな温度感を感じつつ、端末を開こうとすると、背後から声をかけられた。


「隼人」

「お、早かったな」


 世那は俺の横を1歩通り過ぎ、いつも通り日傘を差せばいつも通り入る?なんて首を傾げてくる。


「流石にもう暑くねーし、男は紫外線なんて気にしねーよ」

「そ?紫外線侮ってたら痛い目見るよ~?皮膚がんとかね」


 そう歯を見せて笑う世那が先を歩き出す。世那の歩調に合わせて俺もその後を追う。

 道中は、他愛もない話をした。クソ教授が相変わらずクソ教授だったり、前期の単位を全部取り逃したのに再試験で全てを巻き返した凄い先輩のあだ名が不死鳥になった話とか。

 そんな他愛もない話をしていれば、ラックへの道中なんてあっという間で、二人で注文を済ませれば、先に俺の注文品がカウンターから手渡される。


「んじゃあ、世那。俺席取ってくるわ、席決まったら」

「ちょい待って」


 いつもの調子で言葉を返そうとすれば、ストップしてくる世那。え、今呼び止められる要素あった?


「席はもう取ってあるから、まあ、黙って私についてきて?」


 端末の電源をオフにしながらそう口元を上げる世那。この企み顔……なんだなんだ。

 俺の頭の中を記憶が駆け巡る、世那の暴走の記憶が。俺、何されるんですかね。そんなことを思いながら世那の注文品を待った。


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