「でも実際ボクとオフで会えるんだよ?光栄じゃない?」
「お前の自信はいったいどこから来るんだ。普通に嫌だよ、俺は@ふぉーむさんとは仲良くしたいし」
「え、それってボクのため?」
「8:2でうぃんたそ」
『10:0じゃない優しさ』
『秋城、信者だしな』
『即答だったなあ……』
『ええ笑顔やな……』
普段あまり使うことのない秋城の表情筋がフルで動く。10:0じゃないだけ感謝しろ。
「うわあああああん、秋城クンがボクにデレてくれない~~~‼ボクもてえてえ営業したいよ~~~~‼」
「営業とかいうやつとの間にてえてえは生まれません」
『秋城の正論パンチ』
『秋城の正論パンチは男女平等なんだなあ……』
『秋セイとかいう幻想をそげぶ』
『そうか?これはこれで……』
「え、これもてえてえになるの……?」
俺がそう問いかければ、コメント欄は様々な意見を届けてくれる。
『秋うぃんとはまた違った味が』
『秋セイは10年来の相棒感』
『熟年夫婦の漫才』
『でもなんだかんだ息はあってるよね』
「お、セイラが調子に乗り出すな、これは」
10年来……いや、10年も付き合いはないわけだが。まあでも、長年ではあるか。付き合ってはいないが。夫婦でもないが。
「ほら、コメント欄もこう言っている。ボクと秋城クンは相棒であり夫婦ッ」
見ろ、この凄まじいまでのドヤ顔。完全にコメント欄に調子づけられている。いや、このノリのよさもセイラのよさではあるんだけどね?
「はいはい、打ち合わせ日が初対面のVTuberがなんか言ってるなー」
そういうことにしとかないとね?実はリアルの知り合いでした、なんて一番燃えそうなストーリーだからね。
「じゃあ、こうしよう。前世の相棒であり夫婦ッ」
「逆に聞くがセイラは相手が俺でいいのか……?」
リアルの俺は額を押さえながら、秋城のLive2Dモデルは眉を寄せてあちゃーという顔をしながら問いかける。
「え……?それってうんって言ったらボクとのてえてえを認めてくれるってコトォ⁉」
コトォ⁉じゃねぇよ。
「前言撤回。前世だろうが、セイラと秋城のてえてえはありません」
「うわーん、あるよ‼ボクと秋城クンのてえてえはありまぁす‼」
「ありません!」
「ありまぁす‼‼‼」
「ありません‼‼‼‼‼‼‼」
『なんかこんな光景どこかで……』
『←築地 閉場で検索してみ』
『これだけセイちが必死だとファンアート描いてあげたくなるな……』
『秋セイ、俺には視えるよ』
ぜえ、はあ。2人して肩で呼吸をしながら向かい合う。秋セイあるなし論争は平行線を辿っていた。
「く、秋うぃんのときはあんなに嬉しそうにしていたのに‼秋セイでも喜べよ‼駄目か⁉オリコン1位VTuberじゃダメか⁉」
「オリコン1位とかじゃねえよ‼うぃんたそがいいの‼うぃんたそじゃなきゃダメなの‼」
なんかもうこっぱずかしいことを口にさせられている気がするけれど、もうそんなことは関係ねえ‼これは宗教戦争じゃー!
『うぃんたそがいないのに秋うぃんしてる……』
『まあ、推しの代わりとかないからな……』
『秋城の気持ちは分からないでもないが』
『それはそれとして裏山死ね』
「……よし、じゃあボクが毒舌キャピ系になる、これでどうだい?」
「それはもう毒舌キャピ系のセイラなんよ。セイラ、落ち着いてくれ……俺とてえてえしても何も得られない……」
俺は肩で息をしながらパソコンの前でセイラを宥めるように両手をふわふわと上下させる。そこにセイラはいないけどね。
「何を言ってるんだい‼ボクが‼楽しい‼はい、これでオーケィッ」
「ノ——————ンッ‼」
響き渡る俺の絶叫。
『うるせえ‼(壁ドン)』
『鼓膜破る気か‼』
『秋城声量下げて』
『イチャつきおって‼』
それはそう。すみません、視聴者のお前ら。
「でもさ、逆に聞きたいんだけど」
セイラが改まって切り出してくる。なんだ、これ以上の爆弾を落とす気なのか……?
「ボクとてえてえしないメリットは?こんなに顔のいいボク、こんなに美少女のボク、そんなボクとてえてえしないメリットは⁉」
「お前の……その性格かなあ……。俺うぃんたそみたいな控えめな子が好きなんだ……」
「イッ———————‼うぃんちゃんだってアレだからね⁉ぜぇったい自分のこと可愛いって思って計算で行動しているからね⁉」
「お、お前同僚のことそんな風に思ってるのか⁉」
というか多分これ後からでもうぃんたそ見るからね⁉最悪、現在進行形でうぃんたそ見てるからね⁉俺のツッコミにセイラはいっけね、と言わんばかりにてへぺろ、と舌を出す。
『まあ、実際可愛いので……』
『可愛いと思っていることは特に問題ではないな』
『うぃんたそが見てないと思って好き勝手いいおって……』
『鈴堂うぃん:あたしも可愛い、セイちも可愛い、問題ないね♪』
「う、うぃんちゃん……‼」
ほらー、もー、やっぱりご本人見てたー。俺は頭を抱えながら言葉を捻りだす。
「お、うぃんたそいらっしゃい。セイラ、謝罪な」
「なんでー‼うぃんちゃん問題ないって言ってるよー」
「……セイラ、今後うぃんたそから共演NGが出ても文句言えなくなるぞ?」
俺のその言葉にセイラがぴた、と反応したように止まる。そして、ゆっくりと動き出し———膝を折り、三つ指をつき、頭を下げる。綺麗な、土下座のフォームだった。
「すみませんでしたァ‼うぃんちゃんは可愛いです‼計算とかしていません‼」
ああ、共演NGは流石に不味いのか。俺はやっと止まったセイラの暴走に小さく息を吐きだせば、うぃんたそのコメントが流れていく。
『鈴堂うぃん:暴s、セイち気にしないで~。うぃんたそは共演NGなんて出さないよ~』
その割に暴走列車と言いかけたなあ。うぃんたそ若干おこだね?
「うわぁ~ん、うぃんちゃん優しい~~。まあ、でも実際共演NGが出て困るのボクやうぃんちゃんじゃなくて@ふぉーむの上の人々だからね。ボク分かる」
「なんで分かるんですかね……」
「ふ、愚問だね。秋城クン。……これはかなり前にボクが」
そこまで言いかけたたところで、セイラの動きがピタッ、と止まる。そして、マイクをミュートにするときの音が入って———。
『お?』
『これは……』
『@ふぉーむからお怒りきたか?』
『流石怒られのセイち』
「……これ俺の責任か?」
なんかもう心配になってくる。権力に傅く訳ではないが、マジで、マージーで@ふぉーむさんに睨まれたらうぃんたそともセイラともコラボができなくなってしまう。そんな心配を胸にガタガタと震えていると、セイラが通話に帰ってくる。
「お、おかえり……?」
「秋城クン‼」
「お、どうした……?」
まさかの放送切り上げか?不味ったか?鼓動がどっどっどっ、と早くなる。口の中が乾いてくる感覚。これは相手がライフカードを捲って、確認しているときの感覚に近かった。
「さっきのお話はマネちゃんストップが入りました」
『ですよねー』
『そんなことだろうと思った』
『セイラに共演NGするVTuber……』
『気になりはするな……』
気になりはするが、それは絶対につついたら蛇が出てくるやつだ。
「そして、マネちゃんから秋城クンに伝言です」
「はい……?」
なんだ、マネージャーさんが口を挟んでしまうようなことを言ってしまっていたか?俺は掌に嫌な汗を掻きながらセイラの言葉を待つ。
「原文ママでいくよ。……『うちのセイラが大変ご迷惑をおかけしています。どうかご迷惑でなければ、何卒、何卒、うちのセイラと仲良くしてやってください……よろしくお願いいたします』以上」
口に出そうになる、お前さては共演NG出されたの一人じゃないな?の言葉をぐっと飲み込み、俺は安堵のため息を零す。
「はぁあああ……セイラ、マネちゃんさんに伝えてくれ。問題ないので、NGがあったら教えてください、ってな。そして、セイラはマネちゃんさんを焼肉にでも連れて行ってやれ、マジマネちゃんさんに感謝しろ?」
「マネちゃんにはいつも感謝してるよ~、ボクの知らないところでボクが迷惑をかけてるからね‼」
『マネちゃんいい人やなあ……』
『でも、放送で読み上げられるとは思ってなかったやろな』
『セイラのマネちゃん……胃が痛くなりそう』
『セイラマジ暴走列車』
本当にね、気遣いはできるのに暴走はしてしまう。いやまあ、それはそれ、これはこれ、か。
「じゃあ、ボクと秋城クンのてえてえあるなし論争に戻す?」
「戻すな戻すな。まあ、てえてえは別にしてコラボとかは折角仲良くなれたんだからやっていきたいよな。セイラ的になんかやってみたい企画とかあるか?」
「ある、超ある」
食い気味なセイラの言葉に嫌な予感を若干感じつつ、俺は先を促す。
「そうだねえ、……じゃあ此処でお前らの皆さんに問題です‼ボクが秋城クンとやりたいことってなーんだ‼ヒントはバラエティ番組っぽいこと‼」
あ、なんか駄目な予感がするな。嫌な予感に貧乏ゆすりが止まらなくなる。