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第15章 VTuberらしい不変的な悩みってアリですか?

 私、朝雉 世那の家は物語の中でよくありがちな、何処にでも溢れる、貧乏な片親家庭だった。公営住宅に住み、学校も全部公立……しかも、高校に関して言うなら成績上位者のみが利用できる学費の免除制度を使った。

 そうして、毎月プラスマイナス0な家計簿とにらめっこをしながらなんとか母親と二人暮らしていた。父親のことはうっすらなんか幼い時遊んでくれた男性が居たような……みたいな薄い記憶しかない。でも、養育費を踏み倒しているらしいので、人間性に関して言えば母親は別れて正解だったのだ、と思ってしまう。


 そんな私が高校に上がって、一番最初に始めようとしたのはアルバイトだった。やっと働ける、やっとお母さんに楽させてあげられる。そう思った。だけど、現実ってあまり甘くない。現実的に高校生が学費の免除制度を得られるだけの成績を保ちながら、働いて得られるお金なんて雀の涙ほどで。そんなとき、UtubeのCMを目にしたのだ。


『@ふぉーむ設立!1期生募集オーディション開催!賞金は100万に加えて当社1期生としてデビュー!』


 そんなCM。賞金は100万、そんな甘い誘惑にほいほいと釣られて私は@ふぉーむのことを調べ始めた。


「新しく設立されたVTuberのタレント事務所……」


 この時の私はVTuberの知識は可愛い外見で愛想を振りまきながら生放送をする……それぐらいのモノだと思っていた。……だけど、それは調べれば調べるほど覆されていく。トーク力、歌唱力、企画力、求められる力が多かった、……というか、なんでもできればできるほどいい。当たり前のことだが。思ったよりきらびやかではなく、努力や根性でしがみついていく世界なのだということを知る。でも、同時に思った。


「100万あれば……半年と少しぐらい生活ができる……」


 そうしてこうとも思った。その半年の間に進退を決めればいい、とも。思ったより売れなかったVTuberを事務所も引き留めはしないだろう。売れたら万々歳、売れなかったら次のバイトを探せばいい———まあ、そもそも落ちるかもしれないし。そんなこんなで受けたオーディション。


『合格通知』


 それを貰った日は今でも覚えている。親展と書かれた封筒に@ふぉーむの名前が印字された封筒。合否は、合格者にしか届かないことはオーディションの場で説明されていた、つまり、これが来たということは私はこのオーディションを通過したことを示していた。驚きで手を震わせながら、私はその合格通知を取り出した。


 その後はとんとん拍子に進んでいった。本当に受かると思っていなかったお母さんは度肝を抜かして……全治1か月ぐらいのぎっくり腰をした。そのお母さんはベッドに寝転がりながら、心配そうに言っていた。


「こんな歳から働かなくても……学校だって、成績がよくなきゃいられないのよ?」


 お母さんの言葉に心臓をどきりとさせながら、でも、私は大見得を切った。


「ちゃんと学費が納められるぐらい、稼いでみせるよ!だから、安心して‼お母さん」


 実際、最初の一年はまずまずと言った感じだった。売れているとはいっても、個人勢と比べれば強いだけで、企業勢の中では中の中。当然と言えば当然で、新進気鋭の企業の……まだ当時無名だった企業のVだ。

 でも、自分で思うのは半年で消えなかったのはまずまずの結果じゃないか?ということ。

 そして、この時の私はVTuber業にのめりこんでいた。だから、私はガムシャラに頑張った。歌も、ゲームも、雑談も、コラボも。ひたすらに走った。特に力を入れたのはコラボだった。コラボ案件を主に取って来てくれたのは@ふぉーむだったが、それ以外にも個人、企業問わず色んなVとコラボをした。もちろん、その裏で万が一に備えて勉強も怠らない。


 そんなとき。道端の石に転ぶように偶然当たったのだ———オリジナル曲「ユラメキ」が。

 最初は小さな火が燻るように、じわじわとユラメキから入ってきた視聴者が同接数やチャンネル登録者数を伸ばしてくれて。そして、小さな火が焚火のように安定した火になり、深夜枠だけどバラエティ番組に呼ばれるようになった。そして、火はキャンプファイヤ―の火のようにぼうぼうと燃え盛る炎になった。最初は歌番組で歌わせてもらったりする程度だったけれど、だんだん、私がやってきた放送のアーカイブが注目されて。ゴールデン帯のバラエティ番組なんかに呼ばれるようになった。


 そうして、文字通り一発当てた私は……いや、私たち親子は貧乏から脱したのであった。母はとても感謝してくれた、感謝してくれたし心配してくれた。

 無理をしてないか、本当に私のやりたいことなのか、凄く、凄く心配して聞いてくれた。無理は、ちょっとしてた。この頃からゴールデン帯のバラエティのレギュラーになったのだが、撮影の都合上どうしても平日に学校を休まなければいけなかった。そのことに関して友達たちに嘘をつかなければいけないことがちょっとしんどかった。

 私のやりたいことなのかどうかに関しては、なんだろう。成功しているうちは楽しい、からやりたいことと言われればそうだし、不純だ、と言われたらそれも頷くしかない。

 そして、私は星羅セイラという輝く星になった。


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