目次
ブックマーク
応援する
5
コメント
シェア
通報
第14章 人生相談ってアリですか?④

「だっはっはっ!ボヤ騒ぎがあったことは聞いていたが、まさか大道具が被害にあってるとはな!これは手痛い」


 ラッキーなことに、演劇部はまだ部員全員が残ってくれていた。大道具部門も、だ。どうやら、演劇部は平常でも大道具の動かし方を学んだり、エチュードで演じることを学んだり、と部活時間ギリギリまで活動しているらしい。俺たちは大体なにがあったか、体育祭実行委員間での判断込みで洗いざらいを話した。……と、話しているといつの間にかギャラリーが増え、気づいたら演劇部全体が俺達の話を聞いてくれていた。


「うわ、冷たッ……そりゃ、一年ちゃんが暴走したと思うけどさ~」

「諫めたり、協力したりすればいいじゃんね?」

「でも、実際大道具はアリの方がいいよねー」


 やいのやいの、やいのやいの、いろんな意見が飛び交う。


「で、大変申し訳ないんですが、大道具部門の方何名か俺達と一緒に夜残って作業をしていただけないか、と……この通り、お願いします‼」


 俺が頭を勢いよく下げれば、世那さんもそれに習う様に頭を下げる。これでダメだったら……次はクラスLEINやなんかで協力を募るつもりだ。それでも駄目なら、本当にもう世那さんと二人で頑張るしかない。急展開過ぎてこんな手しか打てない自分の不甲斐なさを感じながら、先輩の言葉を待つ。


「なんだなんだ。大道具部門数人でいいのか?」

「え?」


 先輩の言葉に俺は頭を緩く上げて、ちらりと、先輩を見る。すると、先輩は周囲の演劇部のメンバーを見回して。


「学校に夜泊まるなんて、面白いこと参加するっきゃないでしょ!」

「青春って感じじゃん~~~」

「体育祭を支える影の存在……いいわね」

「……ということで、だ。演劇部がまとめて力を貸そう」


 マジか。俺が驚きで止まっていると、世那さんがガバッ、と勢いよく顔を上げて先輩の手を握るのだった。


「マジですか⁉え、本当に⁉超~~~助かります‼え、え、今更駄目ですなんてなしですよ⁉」


 世那さん大興奮。足をぴょんぴょんと跳ねさせながら、世那さんが周囲を見渡せば、親指をサムズアップする演劇部の面々。


「っ~~~~~これはもう、体育祭大成功以外ないじゃん‼」


 そうして、宿泊許可のメンバー欄に演劇部のメンバーがまるまる載ったのだった。





 そこからはことは順調に運んだ。昼間は体育祭の練習、夜は大道具の作成。ちなみに、大道具の経費は不慮の事故が原因なため、生徒会が臨時費という形で特別予算を割いてくれた。そして、俺たちが結構上手くいっていることを知ったからか泊まり込み3日目から体育祭実行委員の方々も頭を下げて協力してくれることになった。


 そうして、大道具を完成させ、ついに本番を迎え———問題なく体育祭は幕を下ろすのであった。





「あ、居た居た!隼人くん————‼」

 今回の体育祭の成功の立役者としていろんな人に囲まれていた世那さんが手をぶんぶんと振って走って近寄ってくる。

 今は体育祭後の打ち上げだ。各々お菓子を摘まんだり、おしゃべりをしたり。俺はと言えば、———泊まり込んでいるときに見れなかったVTuberの配信の切り抜きを見ていた。本放送も帰ったら見るよ!アーカイブ視聴数伸ばしたいからな!

 俺はイヤホンを外して、近づいてくる世那さんに手を振る。


「ど、何処にも居なかったから帰ったかと思った……‼LEINも反応ないし……‼」

「え、LEIN?」


 そして、俺は端末の画面を見て思い出す。切り抜きを心ゆくまで楽しみたい俺は端末の通知機能を切っていたことに。


「悪い悪い。動画見てたから通知切ってたわ、で、どうした?」

「隼人くんにお礼。っていうか、本来なら隼人くんも感謝されるべきなんだけどね」

「いやいや、発案したのは世那さんじゃん。その位置は世那さんがいるべきだ」


 俺の言葉にちょっと不服そうに唇を尖らせる世那さん。だけど、世那さんはすぐ思い出したように、俺に小袋に入ったボールペンのセットを差し出すのであった。しかも、そのボールペンは。


「え————ッ‼ちょ、え、え———‼」


 俺大興奮。世那さんから手渡されたのは@ふぉーむ0期生が発足されたときに記念に数量限定で販売された5本セットのボールペンだった。もちろん、デザインはそれぞれ0期生、5人の絵柄だ。ちなみに、0期生は他の事務所からの移籍組のことである。@ふぉーむ発足より前に存在している、だから、0。


「な、なんでこんなものを世那さんが⁉」

「秘密。これは女の子ネットワークの代物だからね~」

「ていうか、俺がVTuber好きなのよく知ってたな」

「休憩時間の度にチェックしてたじゃん」


 そんなところまで見てたんですか。世那さんのチェックの細かさに驚きながら、俺はついついボールペンを見て頬を緩ませる。そんな俺に世那さんは改まって言うのだ。


「改めて超助かった、隼人くんっ‼委員会じゃなくなっても仲良くしてよ?」


 そう世那さんが月をバックにとびきりの笑顔を見せながら手を差し出してくる。


「お、こんな陰キャでよければいくらでも仲良くしてやるぞ」


 そう俺は世那さんの手を握り返す。


「陰キャって表現古~古典じゃん」

「そこまではいかんだろ」


 そうして俺たちは固い握手を交わすのであった。





 ———2039/09/12

 ———ピピピッ、ピピピッ。

 そんな音と共に意識がふわふわと浮上する。俺はベッドの上でうぃんたその抱き枕を片腕に大きな欠伸を零した。


「なんか懐かしい夢を見たな……」


 今日は後期第1回目の講義、つまりは世那が話したいと言った日の当日で。昨夜はそのことをぐるぐると考えながら寝に入ったせいか、懐かしい夢を見たのだろう。俺はベッドの上から起き上がり、自分の机の引き出しを開けて感慨深く未開封の@ふぉーむ0期生記念ボールペンを見る。


「……変わらないな、俺も、世那も」


 そう根本的なところは何も変わってない。世那の妙なところ気遣いが上手いのも、猪突猛進さも。なにも変わってはいない。だから、またいつもみたいに話せばいいのだ。


「とりあえず髭剃るか……」


 女性と話すのなら清潔感は持っておきたい、それは俺が最低限敷いているマイルール。それを実行すべく、俺は机の引き出しを閉めて洗面所へ向かうのだった。


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?