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第14章 人生相談ってアリですか?②

 ———2033/04/25

 高校生活が始まって1カ月が経とうとしていた。みんなそれぞれのグループができ始め、陽キャと陰キャが分かれ始めて、———俺はといえばちゅうぶらりんだった。

 趣味は確実なる陰キャなのだが、別に暗い訳でもコミュ障なわけでもなかった。ただ普通、平々凡々。固定の友達が居ないだけで、俺がなんとなく1人でフラフラしてたらどっかのグループがキャッチしてくれる、的な。そんな高校時代の俺。

 そんな俺に高校においての固定の友達というものができる。そのきっかけは、委員会決めのロングホームルーム。




「では、これで委員会の種類は以上になります。家庭の事情等がない場合は絶対どこかには所属することになりますので、ちゃんと自分が何をやりたいか考えるように」


 と、担任の先生は言いますが。クラスの面々は早々になにをやるかではなく、誰とやるかを考え始める。クラスの中は平均的に4人のグループが多かったため、4枠以上を募集している委員会がいい感じに埋まっていく。そんな中。


「あー、じゃんけん負けたぁ‼最悪‼」

「あはは、世那手出すとき指がぴくって動くんだもん~分かりやすすぎ~」


 一軍女子たちがじゃんけんを終えて、5枠募集の委員会に名前を書いていく。それを見送る、6人目の女子。それが朝雉 世那だった。朝雉さんは自分の出したパーを恨めしそうに見ながら唇を尖らせる。


(こういう時、さらっと誘えたらかっこいいんだろうけれど……)


 女子を誘うなんてムーリー。ましてや高校生一軍女子なんて、外見の良さだけがすべてのステータスとなる世界。

 ……最低限の清潔感だけは心掛けているが、それでもフツメンの俺に一軍女子に自分から声をかけるような勇気はなかった。そうこうしている間に委員会はどんどん埋まっていって。


(いけね、ぼーっとしてた)


 人のことを気にしている場合ではない。俺自身もどこの委員会に身を置くかを考えなければいけないのだ。だけど、白板に書かれた委員会の残りの欄は少なくて。大抵は多人数募集の残り1とかを拾うか、そもそも2人募集なんかの枠の少ないところに収まるかで。


(残っているのは……図書委員、風紀委員、生徒会雑務に体育祭実行委員……)


 まあ、この中なら一択だろう。ずばり、体育祭実行委員だ。この高校は体育祭は5月の終盤。現在、4月の25日。つまりは、1カ月も動かなくていいのである。1年間責任を負わされることもある委員会活動の中でも異例の短さだ。これなら、バトマスの大会に出るのも推しVTuberを追うのにも支障は出ないだろう。そんな思考で俺が体育祭実行委員に名前を書きに行こうとすれば———。


「お」


 白板に文字を書くためのマジックを手に取ろうとすれば、俺より一手先にマジックを手に取る白い小さい掌。


「あ、ごめん。先いい?」

「お、おー……大丈夫。なんなら赤でもいいし」

「駄目だよ。名前は赤じゃ。知らない?」

「知ってる。死人や罪人になっちまうんだろ?」


 俺の言葉に俺をまじまじと見つめてくる朝雉さん。何か俺、変なことを言っただろうか。


「意外。こういうの答えられるんだ、高山くん」

「まあ、一般教養?」


 名前を書き終えた朝雉さんからマジックを受け取り、自分の名前を体育祭実行委員の下に書こうとして———朝雉さんが一足先に名前を書いていたことを知る。


(け、決して、朝雉さん見て決めたわけじゃないぞー)


 そんな言い訳を自分にしながら、朝雉 世那の名前の隣に高山 隼人と書く。

 そうして、家庭の事情で委員会に入る時間がないやつら以外の委員会が決まり、ロングホームルームがお開きになる中、当然のように体育祭実行委員だけ残る様に言われた。




 先生からの体育祭実行委員の説明を聞いて、俺と朝雉さんは顔を見合わせた。


「選ぶ委員会ミスったかな……」

「まあ、1カ月頑張って乗り切ろうや。朝雉さん」

「それ」

「ん?」


 朝雉さんが俺に向かって人差し指を差す。名前を赤で書いちゃいけないことは知っていて、人を指さしてはいけないことは知らないのか、なんて思いながら朝雉さんの言葉を待つ。


「タメから朝雉さんって呼ばれるの痒いから、世那でいいよ。高山くん?」

「んじゃあ、世那さんが不愉快でないなら俺のことも下の名前で呼んでくれ」

「りょ、隼人くん」





 翌日から体育祭実行委員の仕事は始まった。昨日先生から言われた通り、ホームルーム前に委員会の集まりがあり、俺と世那さんは大道具の設備チェック、使えなさそうなら修理を演劇部の大道具部門に依頼する、割と簡単そうな役割を任せられたのだった。




「んじゃあ、とりあえず大道具みにいこっか」


 朝の委員会が終わって直後、世那さんがそんなことを言いだす。まっすぐか。俺は心の中で突っ込みながら口を開く。


「いや待て。流石に時間ないだろ。ホームルーム始まるわ」

「えー、でも、早い方がよくない?」


 委員会後、その足で大道具を見に行こうとする世那さんを止める。


「今見ても演劇部も集まってないし、昼休みか放課後やっても変わらんよ」

「んー、昼休みはや。男子には分からないかもだけど、昼抜けるだけで女子は超分からない話でてくるんだから」

「……分かった。じゃあ、放課後で」


 そんな口約束を取り付けて、一旦俺たちは解散するのであった。





「ということで‼素人が見るより大道具の人に直に見てもらった方が修理が必要かどうかわかると思うし大道具の人一人借りてきたよ~」


 放課後。世那さんに声をかけようとしたら、「体育倉庫で待ってて‼」そんな声と共に超スピードで消えた世那さん。そんな世那さんの指示に従い、体育倉庫で待つ。そして、そんな中現れた世那さんの第一声がこれだった。

 どこにかけて、というわけで、だ。俺はイレギュラーに痛む頭を押さえながら、深く一回深呼吸をして、世那さんに連れられてきた恐らく先輩に頭を下げる。


「うちの朝雉が唐突にご迷惑をおかけしてすみません……」

「いやいや、今の時期は大道具部門暇だから!それに後からあれもこれもって言われるよりマシだよ‼」


 だっはっはっ、そう気前よく笑う先輩にありがたみを感じながら、俺は世那さんに言う。


「……世那さん。今度なにかやるときは俺に相談してくれ……先輩連れてくるはちょっと俺ビビったわ……」


 そう真剣な顔で頼み込めば、世那さんはたはっ、と星が飛びそうな笑みを浮かべながら口を開く。


「隼人くんビビりすぎ~、でも、りょ。次はちゃんと相談するよ~」


 頼むマジで。基本的に俺はバトマスでも神様を信じてお祈りとかはしないタイプではあったが———この時は本気で神に祈ったのだった。世那さんがちゃんと相談してくれますように。




 だけどどうやら、世那さんが連れてきてくれた3年の先輩は大道具部門の中心人物であり演劇部の部長だったらしく、俺たち1年用に用意されたチェックマニュアルの掲載外のところまでチェックしてくれて。俺と世那は各々、俺は委員会に向けて、世那は演劇部大道具部門に向けて書類を作るためのメモを取っていく。そうして、大道具室を一周し詳細なチェックを終える。


「俺達じゃ気づかない視点ばかりでした……」

「そうだろうー?安全に気を付けるならいくらチェックを入れても足りないぐらいだ」


 そう胸を張る先輩に頭が上がらなくなる。ったく、先輩が来ると分かってたらお礼の一つでも用意したんだが……そんなことを頭の片隅で考えていると、先を歩いていた世那が自分の鞄からお菓子を取り出して笑うのだ。


「センパイっ、今日はありがとうございました‼お礼にグミかプロテインバーはいかがですか?」


 流石一軍女子。笑顔が眩しい、こんな明るい花のような笑顔を向けられれば男なら悪い気はしないだろう。向けられた当人である先輩もまんざらではなさそうだ。


「じゃあ、プロテインバーを頂くか。なにか困りごと、追加の頼みがあったら是非頼ってくれ」

「はいっ、その際はお願いします‼」

「じゃあ、またな。お2人さん~」


 そう先輩が立ち去るのを見送ってから世那さんを見る。


「なぁに?」

「いや、突貫で呼んだ割にはちゃんとお礼まで用意してたんだな、と……」

「そりゃいきなりのお呼び立てだからね。購買で買ったものだからあまりきちんとしたものじゃないけど」


 ちょっと残念そうに苦笑する世那さん。そんな世那さんに対して俺は評価を改める。まっすぐな猪突猛進タイプかと思えば、思ったより人に気が使える子でもある、と。


「んじゃあ、隼人くん。ぱぱっ、と書類纏めて明日の朝の委員会で両方提出までこぎつけよっか」


 ブイサインを作って歯を見せる世那さんに対して、「おう」なんてぶっきらぼうに返事をしながら俺達は書類作成のために図書室へ向かうのであった。


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