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第13章 焼きそばとお汁粉をやったのがお前ってアリですか?⑥

 そんなこんなで台所に椅子を持って来てのオムライス、いざ、実食。……ちなみにうぃんたそによってオムライスの上は両方とも小さい赤いハートがいっぱい散らされました。


「んもっ……」


 うぃんたそはオムライスを口に含んではふはふとしながら目を輝かせている。そうしてオムライスを飲み込み———。


「おいっし~~~‼みんな、秋城さんのオムライス凄いよぉ‼卵とろとろで……ふんわりバターの香りがして、チキンライスのケチャップの香りと混ざって……これならうぃんたそいくらでも食べれるよぉ~~~‼」


 足をバタつかせながら、美味しそうにオムライスを食べていくうぃんたそを見て自分の料理の腕が落ちてないことに安堵しつつ胸の中がこそばゆくて視線を逸らす。


「でも、それチキンライスとか大事なところはうぃんたそが作ってるからなー。うぃんたその実力だよなあ?」


 俺もオムライスを食べながらそんな言葉をコメント欄に投げる。


『うぃんたその実力だな』

『俺たちは見てたぞ~~~‼』

『うぃんたそはやればできる』

『で、そんなうぃんたその作ったオムライスの感想は?秋城』


「もちろん、超美味い。ちょっと卵に火が入りすぎた感はあるが、それでもふわとろで。チキンライスも玉ねぎが甘くていいし……何より、推しの料理、美味い」


 実際、これが初めての料理って言われたら驚くぐらいにはまともなものができていた。そりゃちょっと焦げてたり、火が通り過ぎてたりするところはあるが……それでも食べれないものを作ったわけではない。


「それ、うぃんたそが作った料理、っていう情報だけ食べて判断してないかな?かなあ?」


 うぃんたそがじとっ、と伏目をしながら脇腹をうりうりと左手でつついてくる。だが、行動と表情でごまかしているが降夜さんの瞳は至ってマジで。だから、俺は嘘は言わない。


「某ラーメンハゲか。……俺はうぃんたそには嘘はつかねーよ。マジでんまい。初めてでこれだけ作れるなら今後が楽しみだよ。……ていうか、これだけできるのになんで家庭科の授業で米研ぎだけ~なんて言われたかマジでわかんねーな……」


 俺が自分で作った肉じゃがに箸を伸ばしながら問いかければ、うぃんたそは眉をハの字にして、苦笑を浮かべるのだった。


「うーん、今のうぃんたそはあれから積み重ねたうぃんたそだからねえ。……昔はもっとドジでどんくさかったんだあ。だから、鈴堂には任せられないーって」


 たは、そんな擬音が付きそうな乾いた笑みを浮かべるうぃんたそ。その笑みは、これ以上今突っ込むことを許さなくて。

 だけど、俺は頭の裏で考えてしまう。それを言われた降夜さんはきっと酷く傷ついたのではないだろうか……そう、今の今まで料理に触らないようになるぐらいには。

 あくまで推測でしかないし、人の過去を勝手に推測して不幸だった、と決めつけるのは最低の行為だ。だから、俺はその考えに蓋をする。そして、いつも通り口を開くのだ。


「いや、ドジっ子うぃんたそ……需要あるぞ?」


『あるある』

『ドジっ子メイドうぃんたそ?』

『シチュエーションボイス希望‼』

『うぃんたそ、一回ご主人様って言ってみて?』


「え、ほんと?みんな?需要あるの?……あ、あと、言わないからね⁉ご主人様、って言わないからね⁉」

「言ってる言ってる」


『うぃんたそのご主人様頂きました』

『需要あるよ~~~うぃんたそ~~~‼』

『ドジっ子うぃんたそ(*´Д`)ハァハァ』

『うぃんたそ隠れ属性:ドジっ子』


「んも~~~~‼もっ」

「も?」


 肉じゃがをぽい、と口に放り込んだうぃんたその動きが止まる。え、もしかして不味かった?口に合わなかった?脳裏をよぎる数々の可能性。すると、うぃんたそは俺の方を向いて、瞳を爛々と輝かせるのであった。


「え、こっちも美味しい~~~‼‼お出汁の風味って言うのかな?凄く染みてて、和風の味がふわあ、ってして……秋城さんこれ鍋に残りが入ってるんだよね?」


 うぃんたその瞳が鋭くギラリと光る。これは、狩猟者の目……‼


「あ、ああ……少量を作るってことができなかったからな」

「残りはうぃんたそが持って帰ります」


 とてつもないマジなトーンでうぃんたそが言う。え、そんなに気に入ってくれたの?


『マジじゃねえかwwwwww』

『そんなに美味いのか……』

『視聴者プレゼントマダァ?(・∀・ )っ/凵⌒☆チンチン』

『もう秋城毎食作ってやれよ……』


「肉じゃがの視聴者プレゼントは前代未聞だな……というか、どうやって送るんだ?真空パック?」


『@ふぉーむに頼んだ、しようぜ』

『@ふぉーむならやってくれる』


「いやいや……流石の@ふぉーむさんでもきついって。ねえ~~~、うぃん、たそぉ⁉」


 そう俺がコメント欄に返している間に、小鉢の肉じゃがをピンクの丸い悪魔よろしく吸い込むように消しているうぃんたそ。うぃんたそはもっ、もっ、もっ、と肉じゃがを咀嚼しごくり、と飲み込む。え、ええ……?


「そうだねえ、@ふぉーむさんでもそれは流石にきついかなぁ……?あ、でも、前セイラちゃんが考案したレシピで作った料理をイベントで販売する。とかしたから、そのルートなら……?」

「いや、あの……はい……なんでもありません。っていうか、それは@ふぉーむ所属だからできたやつだろ」


『うぃんたそ余程肉じゃが気に入ったんやろなあ……』

『放送を忘れて食べてたなこれは』

『無言だったなあ……』

『秒で消えたな』


「@ふぉーむ所属だから……はっ、閃いたよお!」

「お、うぃんたそそれ口にしたらワンチャン社長室行きだぞぉ‼」


 そんな戯れをしていると久来さんからフリップで「同時接続数が2万5000人を超しました!」と報告が入る。その俺だけでは成しえない桁外れの同時接続数に俺は思わず……咽た。


「げほぉっ、おっ、おっ」

「秋城さん⁉お、お水‼お水飲んで……‼」


 うぃんたそにお水を差しだされてそのお水を喉を鳴らしながら飲む。ふぅ、死ぬところだった。


「……ふぅ、すまん。同接の数見たら動揺しちゃったぜ……」

「え、でも、この間のうぃんまどの時よりは少ないよ?」

「あの時は……同接とか気にしている余裕なかったから……感慨深いな……」


 俺がしみじみと感動していると、再び久来さんからフリップが入る。どうやら、そろそろお時間のようだ。それを見たうぃんたそが口を開く。


「さて、そろそろお時間だって!秋城さん!いやあ、秋城さんの肉じゃが美味しかったなあ……今日はおいし……楽しかったよお!秋城さん!」

「お、美味しかったんならよかった」


『美味しそうやったなあ』

『く、秋城ニキ俺らにも肉じゃが恵んでくれ』

『うぃんたその手作りオムライスええなあ……』

『く、秋城裏山』


「んじゃあ、いつも通り終わりの挨拶いくよ‼せーのっ‼」

「「おつうぃん~~~~‼‼」」


『おつうぃん!』

『おつうぃん~~~‼』

『おつ』

『おつうぃん』





「はい、放送終了ですっ」


 久来さんの声に俺達は今日もやりきったことに安堵する。カメラさんたちがカメラやマイクを撤収するのを見ながら降夜さんが忍び足で足をそわそわとしながら肉じゃがの鍋に近づいていく。


「そんなに気に入ったん?」

「っ……とても美味しかったわ。とても家庭的な味でほっとした、というか……」

「まあ、気に入ってくれたなら……。ていうか、どうやって持って帰るん?」


 当然ながら此処にあるモノは全て@ふぉーむさんのもので、それはもちろん保存用のタッパーもだ。流石に、@ふぉーむさんの備品を持って帰る訳にはいかないだろう。

 すると、降夜さんはスタジオの隅に置かれていた、少し小さめのトートバックまで小走りで行って、トートバックを取ってきたと思えば……タッパー(新品)を取り出すのであった。

 何故、新品かって分かるか。商品名が記載されたビニールがしっかり巻き付いているからだ。ちなみに、降夜さんは若干ドヤ顔で。


「ふふ、こんなこともあろうかと持ってきたのよ、タッパー。正確には思い立って買ってきたのだけれど……でも、グッジョブね。私」


 そうして、ビニールを剥がしてタッパーの蓋を開けて肉じゃがをよそおうとする降夜さんを手で制止する。


「……なに」

「いや、せめて、新品のタッパーなら一回洗ってくれ……誰が触ったか分からないだろ」

「……それもそうね」


 降夜さんがスタジオのシンクでタッパーを洗いにいく。それを俺は見送れば———ぶるり、と股間に違和感を感じる。平たく言うならそれは尿意で———放送前にトイレ行ったんだけどな、なんて思いながら久来さんに声をかける。


「久来さんー、すみません。お手洗い行きたいんですが……」

「あ、では、久来が案内しますね。ついでに久来は秋城さんがお手洗いに行っている間に、うぃんちゃんの飲み物を取ってきますので、終わったらトイレの前で待っててもらえますか?あ、秋城さんの分ももちろんとってきます」

「わ、ありがとうございます。そして、了解です」


 そんな会話をして、久来さんに案内されてトイレまで俺は辿り着いた。





 ただのトイレに特筆するところはなく。エアタオルで手を乾かした俺は、外に出ようと扉に手をかけて押す。


「きゃっ」

「あ、すみません!」


 どうやら扉の向こうに誰かが居たみたいだ、俺は思わず謝りながら相手に怪我がないか確認しようと頭を上げれば———。


「———世那?」

「———隼人?」


 世界が静止する。音も、感覚も全てが間延びする。世那がゆっくりと瞬きをすれば、いつも通りの瞼の上に乗ったキラキラのラメが乱反射して。そのいつも通りの彼女が、@ふぉーむ本社にいるという非日常に呼吸が止まる。


「星羅セイラさーんッ‼」

「あ、今行く‼」


 そんなスローモーションな一瞬を叩き割ったのは、誰かの声。その声に世那は反射的に返事をして。


(え、今、星羅セイラって……?)


「え、せ、世那‼」

「ごめん、隼人‼また、今度ッ‼」


 そう@ふぉーむ本社の廊下を走り去っていく世那。その世那の姿を呆然と見送るしかなくて。


「なんで、おま……星羅セイラって……」


 頭の中で情報が混濁する。大学を休みがちな世那、その世那が@ふぉーむ本社に居て、星羅セイラと呼ばれていて———。


「世那が星羅セイラ……?」


 つながる一本線。その真偽を今確かめる術は此処になくて、俺は何もできずに立ち尽くすことしかできなかった。


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