「できたよっ、秋城さん!」
ちょっと手元が怖い気もしたが、無事につるりとした玉ねぎをまな板の上に置いて胸を張るうぃんたそ。
「お、お疲れさん。じゃあ、その玉ねぎを半分に切ってくれ。猫の手忘れずに」
「にゃー!」
うぃんたそのぷるぷると震える手元をちらちらと見ながら俺はニンジンをハートの形に型抜きをする。いや、必要ないっちゃ必要ないけどうぃんたそが食べるから、ね?
『秋城の手元がマジで早い』
『これでうぃんたそを見ながらやってるってマジですか……?』
『うぃんたそのにゃー……(成仏)』
『でも、別にうぃんたそ壊滅的に不器用なわけじゃないんだね』
「それなー。包丁を握る手もちょっと怖いは怖いが……まあ、初めてだし?……やっぱりやったことないだけでちゃんと教えればできると思うんですよ、俺」
コメント欄を会話しながら、息を飲んでコメント欄を見るどころではないうぃんたその代わりに場を繋ぐ。そして、スコン、という音。
「半分に‼できました‼秋城さん‼」
「上出来、じゃあ、次はみじん切りだな。そうだな……じゃあ、俺が半分やるからそれを見て半分やってみてくれ」
そうして、にんじんをまな板の上に置いてうぃんたその方のまな板に移動する。
「らじゃ、だよー!」
ということで、半分のたまねぎを更に半分に切って俺は玉ねぎをみじん切りにしていく。
「ただ細かくしていくだけだから難しいところはないはずだが……もし、悩んだら行動する前に俺に聞いてくれー」
4分の1の玉ねぎをみじん切りにし終えた俺は自分の作業に戻っていく。
「了解だよー、なるほど、最初に玉ねぎさんに切れ目を入れておくと普通に切ったときにサイコロ状になるんだね!」
「ああ、だけど切れ目を入れるのが難しいと思ったら薄く輪切りにしてから、端っこから切っていくのも手だな」
「輪切り……?」
「すまん、混乱させた」
『分からないのレベルが分からないんだよな……』
『マジで料理分からないやつは分からないやつ』
『俺が作る‼ってならない辺り秋城マジ母』
『うぃんたその3人目のママ』
「と、とりあえず、秋城さんがやってたみたいに切れ目を入れてやっていってみるね!」
「おう、頼んだ!」
そうして、俺は冷蔵庫から牛肉を取り出し、深めのフライパンにサラダ油を大匙1入れてから、牛肉、切ったじゃがいも、にんじん、玉ねぎの順に入れて行き、火をつける。……ちなみにうぃんたそだが、ちょっと目は荒いがオムライスにする分には文句なしの玉ねぎのみじん切りを作っていた。
『これが秋うぃんの家庭……』
『うぃんたそいいお婿さんを貰って……』
『鈴堂 秋城になるのか……』
『これでラッシュご飯から卒業だね』
「……なんかコメント欄がしみじみしてるな。あ、うぃんたそー、俺の方もうすぐで煮込むだけになるわー」
「え、え、はやっ⁉ン⁉それ、肉じゃが……?炒めてる?」
首を捻りながら俺の手元を見るうぃんたそ。
「ある程度炒めて火を通してから煮るんだ。ずっとぐつぐつ煮てるとじゃがいもが崩れてくるからな」
「へー……‼あ、みじん切りできたよー!」
『でかくね?』
『歯ごたえがあると言え、バカモン』
『まあ、最初にしちゃ上手くできてるよ』
『うぃんたそナイス‼』
「コメント欄が優しい……!あたしもちょっと大きいかなあ、って思ったけど、これ以上小さくするのは手を切っちゃいそうで……ねぇ?」
「まあ、多少大きくても火を通せば縮むし、気にしなくてもいいと思うぞー。じゃあ、うぃんたそもコンロの方だな」
俺が木べらで肉じゃがの具材を炒めながら言えば、コメント欄が疑問を呈し始める。
『鶏肉は?』
『肉抜き?』
『カット済み鶏肉?』
『予算の都合でカット?』
「予算の都合でカットなら肉じゃが作れてねーよ。鶏肉は今回はひき肉を使おうと思ってな。結局鶏むねを小さく刻むなら最初から刻まれてても問題ないか、と思って」
「うぃんたその怪我のリスク軽減のためにもね!こういうところに秋城さんの優しさを感じるよぉ……‼」
うぃんたそが目元を拭くジェスチャーをしてから、宣言通り冷蔵庫から鶏ひき肉を取り出す。
「ということで鶏ひき肉だよ~!なんか、この間同時視聴した映画を思い出すね!」
……この間同時視聴した映画。確か、肉屋の店主がビーガンを殺しちゃって証拠隠滅にその死体をハンバーグとして売り出す……。
『うぃんたそ、思い出すのそれで大丈夫?』
『いや、うぃんたそが気にしないならいいんだが……』
『秋城が気にするかもしれん』
『多分うぃんたそはゾンビ映画見ながら焼肉食べれるタイプ』
「え、ゾンビ映画見ながら焼肉って問題あるの……?」
「普通の人間は割と食えないらしいぞ。よ、選ばれし人類」
「む、秋城さんは?」
横で鶏ひき肉を開封しながらうぃんたそがちょっと真剣な面持ちで聞いてくる。
「……これでできないはちょっと恰好が付かないからなぁ……」
『あ、秋城は駄目なタイプだ』
『ニキの方が倫理観あるなあ』
『倫理というよりグロ耐性……?』
『そこでイキらない秋城はかっこいいよ』
「え、なんかごめん……秋城さん。これからは同時視聴の内容選ぶね?」
「いや、それはうぃんたその好きに選んでくれ」
ちなみにこの同時視聴とは。うぃんたそが月1、第1日曜日に開催している。内容は大体がスプラッタホラーな映画観賞会だ。たまに犬映画とかを見始めるとうぃんたそに心配が集まるのが恒例。
「んじゃあ、小さじ1のサラダ油をフライパンに入れて、火を中火でつけて、ひき肉をフライパンに入れてくれー」
「小さじ1の油……小さじはこの中くらいのスプーンでいいのかな?」
スプーンを3本並べて真ん中のスプーンを指さしながらその様子をカメラに映すうぃんたそ。
「おう。ちなみに、でかいのは大さじ1、一番小さいのは小さじ2分の1だ」
「……2分の1……‼え、小さじ1に半分でよくない⁉」
「家庭料理はいいかもしれんが、お菓子作りだとその考えは命とりだな」
そう家庭料理は割とおおざっぱでもなんとかなるが……お菓子作りはマジで分量命。俺も作れはするが積極的には作りたくない。
「へえー、でも、お菓子もいつか作ってみたいなあ。うぃんたそでも簡単に作れそうなお菓子ってあるかなあ?」
「スコーンとか?混ぜて型取って焼くだけだし」
「スコーン‼うぃんたそ、スコーン好き‼」
『スコーンは大雑把に作っても確かに支障がない』
『これは2回目のオフコラボが見えたぞ』
『むしろ、毎週やってうぃんたその生活力を上げる方がいいのでは?』
『まあ、うぃんたそ実家暮らしなんで……』
そう言えば初めて会った時もスコーンを食べたなあ、なんて思い返す。
「あ、秋城さーん。中火ってこのメモリであってる?」
うぃんたそが中火と書かれたメモリを光らせながら聞いてくる。
「おう、あってるあってる。んじゃあ、そこにひき肉入れて……木べらは……これ一本か。すぐ洗うわ」
「え、そのままでも……」
「味が混ざるんデスヨ」
そういう細かいところが料理の完成度を変える。故に俺はしっかりと木べらを洗い、キッチンペーパーで拭いてから渡す。
「……なんかもしかして料理って、味付けとか以外の細かいところを気にしないといけないもの……?」
『うぃんたそ気づいた!』
『そうだよ~』
『こうしてうぃんたその生活力が向上していく……』
『実際に料理は3分でできたりしないからね』