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第13章 焼きそばとお汁粉をやったのがお前ってアリですか?③

「お、うぃんたそ。マネちゃんさんが進めてくれって言ってるぞ」

「マネちゃんにもさんをつける秋城さんの律義さ好きだよ……って言うことで‼今日は秋城さんにお料理を教えてもらうのですが……みんなぁ、なに作ると思う~?」


『消し炭』

『@ふぉーむ本社のフランベ』

『秋城の丸焼き』

『無理せんでラッシュご飯おたべ』


「え、俺食材だったん?」

「スゥ—————……うぃんたその料理の腕に信用がない……でも、弁明できないぐらいあたしが不安なのも事実なんだよねえ……‼……で、フランベってなあに?秋城さん」


 人差し指を唇に当てて首を傾げるうぃんたそに俺も数少ないお洒落料理知識を引きずり出す。


「フランベは、あれだな、フライパンにワインとか入れてぶわーって燃やすやつ。テレビで一回は見たことあるだろ」


 俺の言葉にうぃんたそはぽんと手を叩く。


「あるある‼なんであれ丸焦げにならないんだろう?ってすごく思ったことある‼」

「まあ、アレは火を通す目的じゃなくて香りをつける目的だからな」

「そして、それを踏まえて@ふぉーむ本社のフランベ……」

「物理的に大炎上だな」

「……絶対にしません!今日は天下の秋城さんがついているんだから、そんなこと絶対起こしません!なんて言ったって安全面を考慮してのIH?コンロだしね‼」


 お、語尾に?がつく辺り、実はあんまり理解してないなあ、なんてツッコミそうになりながらそれを口にすると話が広がってしまいそうなのでお口をチャックする。


「じゃあ、改めて‼今日は‼なんと‼……オムライスを作りまーすッ‼」


『無理するな』

『みんな‼消火栓は持ったか⁉』

『よくて硬いスクランブルエッグ乗せご飯』

『包丁を使う上に火を使わせるだと……⁉』


 マジで信用なさ過ぎて大笑いしそうになってしまう。いや、うん、信者としての立場上ならコメントマジで同意できてしまうんだが。


「やっぱり、アイドルVTuberのお料理配信と言えばオムライスだよね~ふわふわの卵の上にケチャップでハートを書くんだよ!」

「最悪無理だと判断したら俺が作り始めるので信者の皆さんマジ安心してください」

「え、あたしがミスをすれば秋城さんの手料理が食べれちゃうってこと……⁉」

「お、わざとミスしようものなら枠自体を閉じるからなー」


『推しの手料理食べたい、分かる』

『これ、秋城はうぃんたその手料理食べれるってことだろ?』

『うぃんたそにだけ作らせるなー!』

『うぃんたそにも手料理振る舞ってやれー!』


「え、そう言う流れなの⁉」


 まさかの流れに、無言で胸を張るうぃんたそ。うぃんたそのアバター上はふんわりとした衣装が張られるだけなのだが、降夜さんが胸を張ると、その視線のやり場に困る。


「あたしにも秋城さんの手料理―!」

「えー……じゃあ、俺が教えながらなにか並走して作ればいい?」


『並走だと……⁉』

『こいつマジで料理慣れてるな?』

『秋城って主夫だったりする?』

『教えながら自分の料理……俺は無理』


「言っても材料切って煮込む系ならいけなくはないだろ。えー、ちょっと待って、材料確認するわ」


 そう俺が、背後にある冷蔵庫を漁る。なんか割としっかり色んなものが入っていて。このことを予見していたのか、スタッフさんたち……なんて思いながら俺はふむ、と立ち上がる。


「お、なにか作れそうだった?秋城さんっ」

「そうだな、でも、うーん……うぃんたそ食べ合わせとか気にしたっけ?」


『オムライスって確かに単品って感じだからなー』

『サラダ以外何おいても帯に短し襷に長し』

『サラダじゃつまらないよな』

『オムライスを小さくしてハンバーグとか?』


「あたしは食べ合わせはあまり気にしないかなあ。焼きそばの隣にお汁粉出されたりしたら驚くかもしれないけど?」


 焼きそばの隣にお汁粉、それは確かに俺でも驚くな。そこで、ふ、と思い至る。


「……もしかして、経験談?」

「そうだよ~セイラちゃんちにご飯食べに行ったら出てきた」


 流石、@ふぉーむの破天荒枠。食事まで破天荒だ。その当時のことを思い出しているのか若干うぃんたその目が死んでいる。


『セイラめ……』

『まあまだ、食える食える』

『食べ物が出てくるだけセーフ』

『まあ、シュールストレミングとか出てこなかっただけ……』


 悔しいかな、多分星羅セイラからシュールストレミングが出てきても多分「こいつ……」みたいに天を仰いで終わりになってしまうだろう。彼女のやることなすこといちいち驚いていたらキリがない。


「うーん、焼きそばにお汁粉レベルではないと思うが……オムライスの横が肉じゃがじゃ駄目?」

「肉じゃが!」


『家庭料理の定番』

『現在の秋城主夫説』

『家庭的な秋城』

『主 夫 城』


「えーえーえー‼秋城さんの肉じゃが‼食べたい‼食べ合わせとか気にせず食べたい‼」


 ぴょんぴょんと飛んで主張してくるうぃんたそへカメラに映る様に手でOKサインを作る。


「んじゃあ、俺はうぃんたその横でシコシコ肉じゃが作るわ」

「そ、その擬音は嫌だなあ……」


『しこしこ』

『まあ、しらたきがシコシコと言えば?』

『しらたきでシコシコ?』

『うわあ……(ドン引き)』


 うん、これは俺がまいた種なのでごめんなさい。


「さ、作っていくぞー。んー、……台所が広いと言ってもカメラで映るのはうぃんたその手元が限界だよな……」

「あ、それなら大丈夫だよ~あ、視聴者のみんなは一瞬ぶつってなりまーす」


 うぃんたその宣言通り、配信画面を写す画面がぶつっと一瞬暗転する。そして、2台目のカメラが俺の作業できるであろうスペースを写して。


「はーいこれで大丈夫かな?」


 配信画面がうぃんたその手元と俺の手元の2窓状態になる。リモートバトマスを思い出すね。


「すげえ、@ふぉーむさん何が起こっても対応してくる……」

「ふふ、これが@ふぉーむの底力なのだよ‼って言うことで、右のカメラであたしがオムライス、左のカメラで秋城さんが肉じゃがを作っていくよ~じゃあ、先生‼よろしくお願いします‼」

「あいよ~」


 ということで、いざ実践。


「お米は事前に@ふぉーむさんの方が炊いておいてくれた米を使うぞ」

「ちなみに炊いてくれたのはマネちゃんです」

「マネちゃんさんに感謝」


『感謝』

『マネちゃんいつもありがとう』

『末永くうぃんたそをよろしくお願いします』

『(手を合わせる)』


 俺は俺の手元で洗ったじゃがいもの皮を剥きながら、うぃんたそに指示を飛ばす。


「とりあえずは、たまねぎをみじん切りにするか。うぃんたそ、玉ねぎどこまで剥くか分かるか~?」

「玉ねぎって無限に剥ける奴だよね?」

「駄目だこりゃ……」


 俺は手を止め、一瞬天を仰いでから、じゃがいもとピーラーをまな板の上の端っこに置いて、自分の肉じゃが分の玉ねぎを取り出す。


「うぃんたそ、よく見ててな?よく見ててな?な?」


『2回言ったな』

『大事なことなので2回言いました』

『まあ、うぃんたその安全に関わるし』

『マジ城』


「了解だよー!」

「まず、玉ねぎを押さえる手は猫の手。これは指先を切り落とさないために重要だ。間違っても指先で食材を押さえようとしないこと」


 そうして、玉ねぎを横にして手を猫の手のように丸めて押さえる。


「んで、玉ねぎの頭……この、いかにもこっちから剥けそうみたいな方を切り落とす」


 スコン、そんな音を立てて玉ねぎの頭を切り落とす。


「え、剥けそうなのに切り落としちゃうの⁉」

「まあ、これは俺の主観だがそっちの方が剥きやすいからな」


『分かる』

『なんだったら俺は尻も落としちゃう』

『↑バラバラになんない?w』

『こういうのはやらんと分からんよなあ……』


「んで、この周りの茶色い部分だけ剥いていく。白い部分は実だからな」


 そうして、ぺりぺりと茶色い部分を剥がしていく。


「お、お~……‼あれ、秋城さん、これ上の方ちょこっと茶色い……でも、下大体白い……切り落とす感じかなあ?」

「あー、俺は剥いちゃうかな。これ剥けば多分……」


 上の3分の1ぐらいが茶色い玉ねぎをむけば、透明感のある真っ白い球体が現れる。


「おお~~~」

「んじゃあ、とりあえずここまでやってみようか。うぃんたそ」

「はーいっ」


『母か……母か、秋城』

『うぃんたその第3の母』

『尚、性別は気にしないものとする』

『母城』


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