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第13章 焼きそばとお汁粉をやったのがお前ってアリですか?②

 そうして久来さんによって、俺と降夜さん……もとい秋城とうぃんたそのこの後の行動を聞かせられる。

 まずは、今日使うスタジオ全体を見て、改めて俺が扱えそうかのチェック。カメラの位置のチェック。食材のチェック。チェック、チェック、チェック。そんなこんなで確認作業が大量だ。

 ちなみに、ライブの配信開始と終了は今日は久来さんがやってくれるらしい。そんなこんなで、久来さんにスケジュールを説明された俺たちは早速、オフコラボの配信を行う、第3スタジオに移動するのだった。




「広いな……」


 スタジオに入ってまず出たひと言がそれだった。広い。カメラもマイクもテレビで使っているようなもので、これならばっちりとうぃんたそが頑張る姿を映してもらえるだろう……手元だけだけどな!


「コンロは直火ではなくIHになります、IHでも燃えないことはないですが……万が一@ふぉーむ本社が物理的に炎上したらネットどころか朝のニュースを飾ることになってしまいますからね。少しでも懸念を減らすためのIHです」


 そりゃそうだ。@ふぉーむ本社を仮想世界で大爆発させたりするのはたまに見るが、現実の本社が爆発してしまったらマジで朝のニュースになってしまう。

 久来さんのお茶目な言葉にくすっ、と鼻を鳴らしながら、コンロを見て安心する。


「なにかあったかしら?」

「いや、IHならとりあえず火傷の危険性は減らせるな、って思っただけ。直火だと火傷ワンチャンあるからな。降夜さんに怪我はさせないって約束したし」

「……覚えててくれてるのね」

「ったりめーよ」


 何故だか微妙に感じる甘酸っぱさ、目を伏せながら逸らす降夜さんに若干の心拍数の上昇を感じていると、久来さんに呼ばれる。


「はーい」

「秋城さんはこのタイプのIHの使い方把握してますか?」

「あ、大丈夫です。型番はちょっと違いますけど、概ね俺の家と一緒ですね」


 そう言いながら、久来さんとコンロの点火の仕方や、火力調整の仕方をチェックする。万が一があったらいけないからな。

 次は、調理道具全体のチェック。ちなみに道具はすべてマットなプラスチックやシリコン製だった。もちろん、映り込みを防ぐための配慮だ。

 そうして、道具に問題ないことを確認して、さっきも言ったようにカメラの位置、カメラの都合上立ってはいけない場所のチェック。食材のチェックをして。


「あ、あと秋城さん」

「はい」

「いつも秋城さんがカメラ配信をするときはつけてないと思うのですが、今日はこれをつけてもらっても大丈夫でしょうか?」


 そう見せられるのは黒いビニール製の手袋。


「あ、指紋の映り込み防止と衛生的にってやつですね」


 そう、このビニールの手袋には大きく二つの役割がある。一つは指紋の映り込み防止———、まあ、こっちに関しては俺はそんなに気にせずに当時はやっていたのだが。

 もう一つは衛生的に、作ったものを食べるまでが料理配信、俺が生で食材に触ってなにかの菌が付着したら大変だ……いや、ちゃんと消毒するけどね?


「ご理解早くて助かります」

「いえいえ」


 そうして、全体のチェックを終えた俺たちは時間まで控え室で待機し———いざ、望む、本番!





「待機画面流れ始めます~」


 秋城のモデル……は、相変わらずのlive2Dなのでちょっと動きは残念なのだが、秋城のモデル及びうぃんたそのモデルが問題なく動作することをチェックし、放送時間。

 俺はこんな大掛かりなセットで配信なんかしたことなかったから、ちょっぴり緊張していた。


「間違って手元を覗き込んだら全国に晒されるのか……」

「ある意味伝説になるよ~秋城さん!」

「ははははは……」


 いつも放送をするときは各自家なため、意識することはなかったが……降夜さんからうぃんたその声がすることから、本当に降夜さんがうぃんたそなんだ、みたいな感慨みたいな感情が改めて湧いてくる。すげえ、本物だ。


「オープニング入ります!」

「始まるよ、秋城さん。準備はいい?」

「もちろん。うぃんたそも今日も頑張ろうな」

「うんっ」

「マイク入りまーす」


 霧が晴れるように、オープニングが明ける。降夜さんが隣で、酸素をすぅ、と肺に取り込む音がやけに生々しくて。……普段なら流すような情報を拾ってしまっていることに思ったより緊張をしていることを知る。


「勝利を運ぶっ、鈴の音鳴らすVTuber‼鈴堂うぃんだよ~~‼みんな~こんうぃん~~~‼」


『こんうぃん』

『こんうぃん~~』

『婚姻』

『毎回のことながら空耳するなあ』


「空耳までがお約束、だからねっ。さてさてえ……今日は‼待望の‼秋城さんとの‼お料理オフコラボです‼拍手‼」


『8888888888888』

『パチパチパチパチパチパチ』

『シャカパチシャカパチ』

『パチパチパチパチパチパチパチ』


「お、俺のところの視聴者も来てくれてるようだな。シャカパチ、見えてんぞー」

「む、勝手に出てきちゃダメだよー秋城さんっ」


 ぷんぷん、と頬を膨らますうぃんたそ。3Dのモデルの動きは当然ながらフルトラッキングなのでモデルの動きと同じ動きを本人は当然やっているのだが———。


(割と真面目に可愛いな)


 真面目に、可愛い。普段澄ましているというか、クールな表情ばかりを見ていたが、うぃんたその中の人ということはうぃんたそがやっていることは降夜さんもやっているわけで。無邪気に跳ねたり、笑ったり、頬を膨らませる降夜さんは———最強に可愛かった。


「お、悪い悪い。でも、シャカパチ見つけたら反応しなきゃだろー?」

「そうだけど~……ま、いっか。ということで、ゲスト及び先生の秋城さんだよお!今日は、秋城さんに料理の基本のきから教えてもらうから‼みんな‼あたしが怪我をしないように祈ってて‼」


 うぃんたそが必死の形相で頼み込む。


『今日のために神社にお祈り行ってきた』

『うぃんたそが怪我しませんように』

『怪我したら監督者・秋城の責任』

『おうおう、責任は取ってもらわないとなァ‼秋城さんよォ!』


「責任は俺の小指をハネる生配信でいいか?今日なら綺麗な映像でお送りできるしな」

「あたしの‼チャンネルが‼BANされて終わりだよお‼っていうか、@ふぉーむさんのスタジオを汚すのは駄目!」


 うぃんたそが胸の前で手をクロスさせて猛抗議する。


『@ふぉーむのスタジオなん?』

『やけにまな板が高画質だと思ったら……』 

『うぃんたそのお家じゃないのかあ……』 

『秋うぃんお家デートじゃないんですかあ……』


「あは、残念ながらお家の台所はちょーっと狭いのと、ママエルからの使用許可が下りないからねー。今日は@ふぉーむ第3スタジオからお送りするよ~みんなー見えてるー?」


 うぃんたその声に合わせて、二人でカメラに映る位置に手を入れて振る。


『秋城手デッ』

『いや、うぃんたその手が小さいのかもしれない』

『あるにゃ:秋城さん手袋外そうかハァハァ』

『うぃんたそのおてて~~~~‼』


「おあ、あるにゃママ様がいらっしゃる……え、手袋を外すんですか……⁉」

「いやいや、秋城さん駄目だよ⁉この2039年高画質配信で秋城さんの指紋抜かれたら悪用されちゃうよ~‼」


『あるにゃ:ちぇ』

『個人の配信画質と企業のガチ画質じゃな……』

『秋城の銀行残高消えちゃうのぉぉおおお‼』

『普通に家の鍵が開けられちゃうw』


「く、あるにゃママ様の要望は極力叶えたかったぜ……‼」

「うぃんたそ、いつか秋城さんがあるにゃママに要望されて全てをネットで晒してしまうんじゃないか心配だよぉ……というか、ママ様?」

「あるにゃママ様、だな。恐れ多すぎて、様なしじゃ呼べねーよ」

「あはは、それがいつか呼び捨てになってママが消えて、古参面しだすんだよね。うぃんたそ知ってる」

「はは、老害厄介オタクにはなりたくねーもんだな」


 そんな長々オープニングトークをしていると、久来さんがフリップで「そろそろ本題」と指示を出してくれる。


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