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第11章 暑い中登校ってアリですか?③

【漏れの同級生が留年しそうなんだな……漏れは一緒に卒業したいんやけど……留年回避方法キボンヌ】


「その喋り方をしてるやつが大学生なわけないだろうッ‼」


 机をダンッ、と叩く。何十年前の3ちゃんねる……いや、今は7ちゃんねるだっけ?だ!


『今日のおまいう』

『此処にいる奴らなんてみんな古のネット民だろ』

『お前と同じ転生者の可能性』

『↑最近の流行りか何かかw』


「でもなー……留年は問題として大きいよな」


 腕を組んで、ふむふむ、と考えたところで頭の中で掠る世那の顔。そういえば、あいつもギリギリのところで毎回すり抜けているがあと1回でも講義を休んでいれば留年確定と言ったところだ。……いや、他人の人生だし気にするようなことではないと言えばそうなんだが———。


(あんなに頑張ってて、留年はなー……)


 講義では積極的に発言し、講義を休んだところの穴はしっかり埋めようとする。国試を取る講義構成ではないが、それでも、今ここでしっかり学ぼうとしている気概はもの凄く感じる。

 ……じゃあ、なんであんなに休んでるんだ?……多分、気軽に言えるような理由ならそもそも俺にプリントやレジュメは俺に頼まないだろう。世那、友達多いからね。

 ……ということは、多分気軽に言えないような、何かがあるのだろう。そこまで、考えて、俺は息を吐きだす。いかんいかん、今は世那のことを聞かれているわけではないのだ。だから、当たり障りなく———。


「留年しそうかあ……それがテスト落としまくりなのか、休みまくりなのかで考えが変わるよな。テスト落としまくりなら、お前が一緒に勉強してやれーってなるけれど……休みまくりなら何で休んでるかが分からないと何とも言えないしな……すまんっ‼」


 俺はわたあめにエフェクトを被せて、わたあめを切ると同時に画面外に持っていく。


『それはそう』

『でもどうしようもないんやろなあ……』

『頼るのは秋城じゃなくて学生課じゃね?』

『学生課が頼りになる大学ってあるんすか……』


 コメントからどこの大学の学生課もいまいち頼りにならない気配を察する。なんかね、学生課って学生視点、お役所仕事のクソなんだけどね……大人になるとやらないんじゃなくてできないんだな、ってことが分かるよね。コメントを生暖かい気持ちで眺めながら、俺は次のわたあめを貼りだす。


【秋城、どこ住み?てか、LEINやってる?】


「おう、やってるやってるーぜってー教えねーから安心しろー」


『安 定 の ス ル ー』

『どこ住み?』

『地方だけでも』

『特産品は?』


「お、お前ら食いついてくんな……」


 俺はやけに食らいついてくるコメント欄に軽く引きながら、ふむ、と一拍置く。


「いやあ、地方だけでもっつわれてもな……バトマスの大会出てる以上身バレの危険性があってですね……声で身バレとかしそうで流石に……」


 何かの折で切り抜きを見たことある程度だが、声で身バレして夢の国で声をかけられた、なんて事案があったらしい。その事案が俺に起らないとは限らないからな。


『あれ、この声秋城……?』 

『あれ秋城じゃね?』 

『生の秋城って覇気ねえなー……』

『もっと強者のオーラあると思ってたわ』


「やめろぉ————‼身バレの瞬間を作り上げるんじゃあないッ‼というか、強者のオーラがないとか傷つくからな⁉……いや、確かに有名コテとかではないからそうなんだが……」


『秋城の名前でプレイすれば即有名コテだぞ』

『BMPランキングに既に秋城いるな』

『偽城でてんぞー』

『乗っ取りを更に乗っ取るやつが……』


「俺は乗っ取りじゃねえって‼……まあ、ほら、それ言ったらBMPランキング、うぃんたそ居るし、星羅セイラさんもいるぞ……」


『有名人の名前借りてドヤるやついるよなー』

『まあ、ハンドルネームなんて自由ですしおすし』

『秋城に限っては本物の可能性が微レ存するのがな……』

『バトマス系VTuberだからな……』


「まあ、微レ存するのは仕方ないよなあ。……でも、俺は秋城の名前では出てねえし、自称・秋城が出ても真に受けないでくれよなー。俺が大会、並びにCSで秋城を自称することはありませんッ」


 CS、チャンピオンシップの略である。まあ、あまり細かく説明はしないがショップ大会とはかなり大会への真剣度が違う大会だ。そこそこ高額な商品も出るしね。……俺はカフェイン飲料に口をつけて喉を潤してから、わたあめを張り替える。


「はいはい、次行くぞ、次!」


【今、何問目?】


「お悩み相談ッ‼」


 もし秋城のモデルが3Dであったならきっと、床にこのわたあめを叩きつけているだろう。


『懐かしいwwwwwww』

『これ出ると地味にテンぱるよなwwww』

『テレビの前で指折るやつwwww』

『大抵、誤差が出るヤツwwww』


「このクイズ番組分かる人今いるんすか……」


『大本は知らんだろうけれど、ちょっと前にもリメイク番組みたいなのあったやで』

『ちょっと前(2025年)』

『誤差誤差』

『↑誤差でかすぎませんかね……』


「はえー……2025年……」


 思わず机の下で指を折る。今の俺が7歳のときか……テレビは見ていた気がするが、記憶が薄い……。


『大本が通じるのにリメイクが通じないだと……⁉』

『秋城の遍歴どうなってるんや……』

『オタクバラエティ見なくなる現象』

『まあ、年齢行くと見なくなるよな……』


「いや、2025年とか幼すぎて覚えてねえんだよな……」


『またまたー』

『嘘がお上手でござるな、秋城殿』

『2018年に存在している成人済み男性が』

『やはり乗っ取り』


「転生ですー、はい、次行くぞ、次」





 そんなこんなでわたあめを20本弱だろうか?切ったところで、その日の放送はお開きになった。

 俺は、ヘッドフォンを置いて心地よい疲労感に瞼を下ろす。頭の中にふわふわと浮いてくるのは世那のこと。別に体が悪いとかは聞いたことがなかったし、本人もそんなそぶりは見せない。……いや、無理をしているのかもしれないが。だけど、俺たちの目前にはあと1回進級しないといけないが、卒業が迫っている。大学の1年半なんてあっという間だ。


「まあ、今後を考えなきゃいけないのは俺もなんだがな……」


 世那のことを気にかけている場合ではない、のかもしれない。ましてや、理由は知らんが卒業後の進路が決まっている世那と決まっていない俺では段違いだ。


「でもなあ……」


 進路が決まっているならストレートで卒業しなきゃ不味いだろう、とも思う。まあ、これも俺が考えることではないのだが。……やはり、こんなに気になってしまうのは6年近くの付き合いがそうさせているのであろう。ぼんやりと瞼を開けば、視界に光が揺れる。心地よい疲労感もあり、ゆらゆらと意識を溶かしそうになる俺。


「やべえ……」


 そう呟いて、意識を手放そうとした瞬間であった。


「うわっ」


 ヘッドフォン置きにおいてあるヘッドフォンが通知の音を告げる。微睡んでいた俺はその音に驚き、椅子からずり落ちる。


「てて……なんだあ……?」


 這うようにパソコンを置いているデスクに腕を置きながら立ち上がれば、そこには降夜さんからのチャット通知。


『明日はよろしく』


 簡素な文面。そう!明日はうぃんたそとの第3回コラボ配信・第1回オフコラボの配信内容の打ち合わせをすることになっている……オフで!此処重要である、オフで!

というのも、この間ちら、と通話をしたときに降夜さんが「たまには外に出たい」そう言いだしたのがきっかけだった。

 まあ、VTuberの活動形態上どうしても引きこもりになるのは避けられないし、何かきっかけがあるなら外にも出たくなるよな、と俺も思う。

 そこで、俺がオフコラボの打ち合わせを外でやらないか提案して、明日の打ち合わせに繋がったのであった。外と言っても、初めて会った時に使った個室喫茶店なのだが……まあ、打ち合わせのために集まるんだし仕方ないよね。俺は、降夜さんとのチャット画面に「こちらこそ」と打ち込み、送信。それ以降の返事は———まあ、端末の方で行えばいいだろう、とパソコンをシャットダウンしたのであった。


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