店頭に置かれたタブレット端末で注文をすまし、店員から差し出されるファーストフードの乗ったトレイを受け取れば、俺と世那は二人がけの席に座るのであった。
「はー、3年生も半分乗り越えられた~~‼」
椅子に座って両手でシェイクの入ったカップをにぎにぎと握る世那を見て今更、ピンク色のネイルがきらきらと反射していることに気づく。
「あと、1年半……だな。つっても、卒業だけしても意味ないんだよな……」
そうもっぱら俺の頭を悩ませているのは卒業後の進路であった。卒業後、俺は何をしているのだろう。働きながらVTuber……もしくは専業VTuberをできるぐらいになっているのだろうか?でも、個人で専業ってどれぐらいの稼ぎがあればいいんだ?そんなことを内心考えながらポテトを摘まむ。
「そういえば、世那はインターンどうよ?」
俺の問いかけに、世那はシェイクを啜りながら目線を逸らす。ずずずず……ストローでシェイクを啜る音だけが俺達の間に流れる。だけど、負けじと俺は世那の目を追って視線を合わせ続ける。じー……、じー……、右左に動く世那の視線を追って何度か往復したときだった、世那がストローから口を放して、くっ、という声を上げるのだった。
「いやあ、その……してないんだよね、就活自体」
「は?」
「いや、でも、フリーターになるとかじゃないんだけどね。あまり言えないんだけど、なんとかなりそうっていうかあ」
「ふーん……まあ、世那がなんとかなるっていうならなんとかなるんだろうな……く、羨ましい奴め」
「隼人は?」
「インターンにはちょくちょく行ってるが、あまり……なんつうか、バイトが楽しすぎるというか……」
言ってて気づく、これアルバイトしすぎてフリーターになるやつが言う台詞じゃね?と。でも、実際VTuberの活動に熱が入りすぎてインターンでは呆けてるのは事実だ。あれ、これ、駄目か?
「ふーん、ま、ニートにだけはなんないよーにね」
「ぐぅ……ま、何はともあれだ。この調子で後期も乗り切っていこうぜ。前期みたいに後期はギリギリにならないようにしろよー?」
「……もち。後期は超頑張る」
(あれ……?)
一瞬、世那の瞳が揺れた気がした。だけれど、そこに踏み込む勇気は俺はなくて。なんて声をかければいいか悩んで、すぐ俺は話題を切り替えるように前期の期末テストの話題を振るのであった。
「こんしろ~、秋城の生放送はっじまるよー。ゆっくりしていってね」
『こんしろ~』
『こんしろ』
『こんばんは~』
『秋城メンクリはここですか?』
俺はいつもの調子で配信をスタートさせる。もちろん、片手にカフェイン飲料は忘れていない。……なんで、配信前にカフェイン飲料を開けているか、って?視聴者たちがカフェイン飲料を開ける音で無茶苦茶心配してくれるのに段々申し訳なさを感じてきたからである。そんなこんなでカフェイン飲料で喉を潤しての夕飯後配信である。
「今日は、秋城のお悩みアドバイスわたあめ枠をしていくぞー。つっても、分からんモンは分からんって切っていくので過度な期待は禁物なー目指せ、100相談切り」
『切るなw切るなw』
『アドバイスしろw』
『いうて秋城そんなに人生経験ありゅ~?』
『マジで秋城が相談読んで切るだけの配信になりそうw』
「お、お前ら言ってくれるな~。俺だって?えー……秋城生20年弱の積み重ねがあるからな?20年の重みでしっかり答えてやるよ‼」
咄嗟に、前世の自分から合算した年齢を言いそうになって、秋城が生まれてからの年数に直す。いや、18年ぐらい活動してない気がしないでもないが、それはそれこれはこれ。その間も俺は人生を積み重ねていましたし?
「んじゃあ、最初のわたあめ行くぞ~」
マウスをカチカチと操作して秋城を右横に、わたあめを中央に映し出す。ちなみに今回はなんの検閲もしていない、マジで上から順番にわたあめを消化していく形だ。
【急募:大手VTuberと仲良くなる方法
出 :俺の尻を揉む権利】
「いらんわ」
わたあめを見てまず出た言葉がそれだった。いらん、推定男の尻を揉む権利なんて欲しくねえ!
『まあ、あくまで権利やし……』
『行使しなきゃええんやで』
『任意効果なだけ優しい』
『自動効果だったら終わってた』
「それはそう。……でも、これあれだろ?要はどうやってうぃんたそと仲良くなったのか聞いてるサムシングだろ?これは……」
俺は最近手に入れた特殊エフェクト、特定の画像にその画像をドロップすると特定の画像を刀で切ったように見せられるエフェクトを発動する。その上で、俺は極力声を可愛い子ぶりっ子し———。
「禁則事項です」
『うわきつ』
『それは巨乳未来人だから許されるやつ……』
『なんかネタが古いんだよな秋城』
『チャンネル登録解除しました』
「とか言って、チャンネル登録者数減ってないの見えてるからな~?ツンデレめ」
そんなことを言いながら、1枚目のわたあめを速やかに画面外に持っていき、2枚目のわたあめを張り付ける。
【夕飯、ラックかマスかで悩んでるんだけど】
「お、俺今日の昼ラックだったぞ。まあ、昼って言うにはちょっと遅い時間だったが……ちな、マスも野菜が美味しくていいよなあ……」
『秋城ニキ今日は何食べ?』
『ポテトのラック、バーガーのマスって感じ』
『サイドメニューの多さはラック』
『キェェェェェェアァァァァァァシャァベッタァァァァァァァ!!』
「ハッキョーセットすんなー。ちなみに俺の昼は今日はビッグラックとケンシラックとフォース肉厚ラックだな……サイドメニューは」
『ちょっと待てw』
『食いすぎwwwww』
『高血圧まっしぐらwwwwww』
『総カロリーいくつですかねwwwww』
「ふ、転生者を舐めて貰っては困るな‼今の俺は人生のボーナスタイムッ、いわばいくら食べても太らん時期なのだぁ‼はっはっはっー!」
巻き舌で捲し立てた後に高笑いをする、ちなみにマジで太らん。まだいけるいける。
『はいはい、設定乙』
『おじいちゃんお薬出しておきますねー』
『どうせ、一口ずつ貰ったとかいうオチ』
『ハルルの憂鬱知ってるやつの年齢がボーナスタイムなわけない』
「本当だもん、俺転生者だもん……ちなみに聞いて驚け、サイドメニューはポテトLサイズにアップルパイをつけて食事をエンドしたぜ……」
俺が、ふ、と鼻で笑った途端に、げふ、と腹の中からせり上がってくるガス。これはきちゃない。無論、コメント欄も———。
『流石に汚い』
『マイクミュートしろ』
『アイドルのげっぷには需要あるがお前のげっぷに需要はない』
『可愛い女の子ならな……』
「ごめんなさい。……ということで、今の俺のおすすめはラックです、本当にごめんなさい」
画面に向かって頭を下げれば、画面の中の秋城もかくかくに動く。いや、お辞儀すらできないんだけどね?そうして、2枚目のわたあめを下ろし、3枚目のわたあめを画面上に表示する。